20.結局こうなる
「だいぶ怖がらせたでしょうか?」
そんなつもりはないんだけどなぁ。
だってほら、始終ニコニコ笑ってたでしょ、わたし。
旦那様はそんなわたしを鼻で笑って、隣の椅子に座る。
「で、本当に何もしないつもりか?」
「さぁ、どうでしょう? 時として、不幸が重なることはあるものですから、わたしからは何とも」
「それもそうだな」
旦那様もそれ以上の事は興味がないのか聞いてこない。
でもそう、もしかしたら突然家業が倒産したり、不幸にも投資に失敗したり――、人生はどうなるか分からない。
それこそ、わたしがリンドベルド公爵家に嫁いだように。
「ところで、旦那様の方は大丈夫ですか?」
「納得してくれたよ。新しい家も気に入ってくれればいいがな」
「きっと喜んでやってくれることでしょう。自分ですべてを支配したがっていた方にはちょうど良いです」
わたしがお茶会でエリーゼと対面していた時に、ロックデルと対峙していたのは旦那様。
なんと言ったのかは分からないけど、ロックデルに新しい職場を紹介してやった。
その紹介先はベルディゴ伯爵家。
現在、ベルディゴ伯爵家にはラグナートの後任がいるけど、彼は現伯爵の父親側の人間でラグナートに教えを乞う事はなかった。
もちろん、ラグナートだってそんな態度の人間に教える気もないようで、ラグナートが辞めるときは、むしろやっと自分が好き勝手にできると喜んでいたらしい。
しかし、現実は仕事をしていた人間二人が抜けたために、分からない仕事が大量に舞い込んで、舵取りできていないようだ。
自分の下で再雇用してもいいと上から目線の手紙をラグナートは貰ったけど、それをそっくりそのまま旦那様に渡した。
そして、全てを自分の手で操りたい願望のあるロックデルにはちょうどいいと思ったのか、ロックデルに紹介していた。
ロックデルもこのまま終わるよりかはと、その話を受けたそうだ。
でもいいのかぁ。
リンドベルド公爵家の事に精通している元総括執事を別の貴族に紹介するなんて。
「あいつの知っていることなんてたかが知れている。そもそも父と共に教育を受けていたので、その程度さ。仕事はできるといっても、一辺倒なことしか出来ていないし、リンドベルド公爵家の深いところの教育は受けていない」
散々な評価だ。
お義父様を早くに見切りをつけた旦那様のおじい様は、当然彼の側で補佐する執事の教育もそれなりにしかさせなかったようだ。
もちろん、きっちり教育して育てることも出来たらしいけど、元来の性格が危険だとおじい様に判断されたらしい。
そして、なんとも運が悪い事に、執事家の一族の中では彼しか執事の後継になれる人がいなかったらしい。
本当に、人材が不足して大変な時期だったそうだ。実はその当時流行り病が流行して、一番被害を被ったのが公爵領だった。
多くの優秀な人間は色々なところに駆り出され、逆に命を落とす結果になったそうだ。
生き残った人間も、優秀な人から皇宮入りしていく。
そのため、各地で人材不足となっていた。
能力不足な人間を総括執事の座に就けると碌な事にはならない。そのため、教えることは最低限、そのうち旦那様の時代になった際にはそれなりの人物を選ぶだろうと、色々と後回しにされてしまった。結局、そのツケを今払う事になった。
そりゃ仕事がたまる一方だよね、旦那様。
後世に残されたお仕事やってたんだもん。
「だから仕事の出来る、経験者の総括執事は大変ありがたい……ラグナートを紹介してくれた礼をしたいところだ」
「別にいいですよ。わたしだって味方がほしいって思っていたので」
敵、筆頭はあなただってきちんと分かっていますよね?
「まあ、そう言わずに」
いきなりグイッと旦那様に引っ張られ、わたしは身体を傾けた。
ポスンと旦那様の胸の中に倒れ込み、そのまま腕に閉じ込められた。一体何事だと顔を見上げると、旦那様のいたずらな笑み。
いやな予感がしたけど、遅かった。
旦那様の眉目秀麗なご尊顔が迫り、わたしは抵抗することも出来ず、そのまま口づけられた。
ぐっと身体に力が入るも、抱きすくめられて何もできない。
その上体勢も良くなかった。
椅子から引張り込まれたので、膝を地面につけている状態。
上から押さえつけられているような状況ではわたしは何もできない。
「んっ! 何――!」
唇が放され、抗議の声を上げた瞬間再び唇を塞がれて、今度はぬるりとした何かが、わたしの中に入り込んできた。
「ふぅ! んん!!」
容赦のないその動きに、口づけ自体初めてのわたしは翻弄されて、次第に意識が遠のく。
完全に意識が無くなる前に、旦那様はわたしを解放したけど、身体から力が抜けて、立つことが出来なかった。
そんな様子のわたしを旦那様はその腕で抱き上げて自分の膝の上に乗せる。
されるがままのわたしは、ぼんやりとしながら旦那様の胸に頭を預けた。
「そうしていると、年相応だな」
くすくす笑っている旦那様を睨むと、目じりにたまっていた涙を旦那様が嘗めとった。
「な、なにしてるんですか!!」
「ラグナートから二人きりの時にしろと言われたからそうしただけだが、奥様? それにしても反応が初々しくてそれはそれでそそるな……あの時言った言葉は嘘だが、父が若い女に夢中になるのも分かる気がする」
初々しいって――うるさいですよ、わたしは正真正銘初めてだったんです!
乙女の唇を許可なく奪うなど、紳士として責任取って下さい!――いえ、責任は取らなくていいので、慰謝料下さい!!
そもそも、何度も言いますがわたしたちはこのような関係ではございません!
欲求不満なら別のところでお願いします。
ぎろりと睨みながら全く効いていない旦那様は、わたしのこめかみ辺りに性懲りもなく口づける。
「まあ、今後もよろしく頼む、リーシャ」
馬鹿言ってんじゃないですよ、旦那様。
もうこのような事は二度とごめんですからね!!
それから、ちゃんと最低限生活をましなレベルまで引き上げて下さい!
特に食事!!
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