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9.それは旦那様の仕掛けた事だった

「さあ、クロード様。聞き分けて下さいませ」


 絶対に引き渡さないでほしい。

 もし本当にエリーゼの元に置き留められたら、明日はどっかの川に浮かんでいるか、その辺の雑踏で息絶えている。

 絶対にそうだ。

 なんだか、それくらいやりそうな雰囲気だ。


 きっと旦那様はそこまで非道じゃない――と思いたい。

 でも信用ないので、ぎゅっと旦那様の服を掴む。

 

 今はまだ正面切って戦う準備ができていないので、ぜひともこのままバレずに過ごしたいわたしは、必死で旦那様に訴える。

 むしろ、このまま知らぬ存ぜぬで過ごした一か月の日々のまま変わらぬ日常を送りたい。

 戦うなんて面倒なことしたくなかったんですよ、旦那様。

 

 巻き込みやがって、この悪魔!


 と、心の声はひそやかに、命の危機を必死に訴えているわたしに、空気を読むことに長けている旦那様はポンポンと軽く叩く。

 しかし、そこは非情な利益主義な旦那様。

 きっとのちのち、何かを要求されるんだろうなとわたしは若干遠い目をした。

 旦那様とわたしを処分したがっているエリーゼとを比べて、即座に旦那様を取ったのだから、諦めて頑張るさ。


「クロード様!」


 言い返すのも面倒と言わんばかりに、旦那様がわたしを抱きかかえたまま、踵を返すと、その背にエリーゼが叫んだ。

 

「もう一度言いますが、その下賤な輩を置いて行ってくださいませ。それに今日はわたくしと過ごして下さる予定ではありませんか! わたくし今日のために色々準備したんですよ?」

「別にお前に誘われたから承諾したわけじゃない。最近、社交界でリンドベルド公爵家の意向で好き勝手やりすぎていると言いに来ただけだ。これ以上リンドベルド公爵家を貶めるような行為をするならば、覚悟しろとな」

「まあ、わたくしよりも、そんな取るに足らないような方々のお言葉をお信じになるのですか? でも、クロード様。わたくしにそんな脅し効きませんでしてよ。もしそのような事をされたら、アンドレのお父様がきっとお止めになって下さるし」


 どことなく得意げに聞こえる。

 そして旦那様の放つ空気が冷え冷えとして、わたしはぶるりと身体を震わす。


「そうか――……では父にでも縋って見るんだな。ぜひどんな反応を返すか聞きたいところだ。ああ、それにエリーゼ。私はどうやら少々女の好みが父に似ているらしいんだ――こういう若い瑞々しい身体の方が好きなんだ。初々しい反応も、なかなかそそるしな」


 あ、止めて。

 置いて行ってほしくはないけど、煽るようなこと言わないで。

 女性に年齢の話は禁句でしてよ、旦那様。


 というか、旦那様……怒っていらっしゃいますね?

 ちょっと凍えそうなくらい寒いんですけど、醸し出すものが。


「では、部屋に行こう。用事が早くすんだから、だいぶ時間が余った」


 だから!

 そういうことをわざわざ口に出して言わないでほしい。

 強烈な視線が、今や殺意にまで発展している。


 旦那様は来た道を引き返す。

 もちろん、エリーゼは止めようとしていたが、理由は分からないが、離れからは出られないのか、本邸まで足を踏み入れることは無かった。


 旦那様はどこか苛々しながら、大股で廊下を横切り階段を上る。

 そして、重厚で立派な扉を蹴り開けた。

 なんとも乱暴なその仕草に、わたしはびっくりして旦那様の腕の中で固まる。

 

 そして、突然けたたましい音を響かせて開いた扉に部屋の中にいた人物も同じく固まってこちらを振り返っていた。

 旦那様はその人物に一言言った。


「今すぐ仕立て屋と、宝石商を呼べ」


 と。

 ポカーンと口を開けてわたしたちを凝視している相手を横目に、旦那様がふかふかのソファにわたしを下ろす。

 

 そしてわたしを下ろすと、自分は急ぎ足で隣の部屋に入り、分厚い資料を三冊持ってきた。

 ちなみに、その間わたしと部屋にいた相手――結婚式のときに参列していた旦那様の秘書官殿――は旦那様の動きを追いかけることしか出来なかった。

 

 旦那様はすぐに戻ってきて、呆然と見上げているわたしに向かって机の上にドンと資料を置き、冷え冷えとした瞳のまま、わたしに言いつけた。


「命の礼くらいはさせてやる。これをすぐに読み込め。明日中には読み終わるだろう?」


 えーと……。

 これ、超分厚いんですけど?


 ちらりと見た感じ、すごく細かい文字と数字の羅列なんですけど……。

 え、これを明日中に?


 なぜか、視線を感じ、そちらを見ると、秘書官殿が同情した目でわたしを見ていた。

 えっ、助けて? とほほ笑んでみると、正面にいる旦那様にぎろりと睨まれた。

 そして同時に、秘書官殿は顔を真っ青にさせて、顔をそむけた。


「察しの良いお前なら、きっと分かるだろう。ぜひともがんばってくれ……それから、成功報酬で貧困層(・・・)の最低限生活から、一般的(・・・)な最低限生活にしてやる」


 わお! 確信犯!

 うん、分かってたよ!

 あれの犯人誰か。

 絶対、旦那様のせいだと思っていた。

 だから殺してやろうかなぁってやさぐれたんですよ。

 

 確かに最低限の生活って言ったのわたしだけど自分のいいように解釈しすぎだ。

 慰謝料要求したいところだ。

 旦那様は、口角を上げて笑っているけど、その目は笑っていない。

 そのせいで、そんな事は言えないけど。


「遠回しなやり方では無駄だったみたいだからな……ぜひとも自分から動きたくなるようにしてやった。うれしいだろう?」


 全くうれしくございません。



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