23.誰が主か
あけましておめでとうございます!
今年もよろしくお願いします(*'ω'*)
凍てつくような鋭い眼光で父を捕らえ、旦那様は淡々とわたしの身分に対し説明していく。
しかし、道理を弁えていない家族に対して、一体どれほど理解してもらえるのだろうかと少し疑問になった。
彼らは、わたしを下だと見下し、上に立っているこの現状が我慢ならないのだ。
だから怒鳴り散らし、自分を誇示しようとした。
でも、それは逆効果でしかないと、理解したはずだ。
黙っていると言っていたけど、どうやらあまりの耳障りな罵倒に旦那様の方が嫌気をさしたらしい。
だいぶお怒りだった。
「少しくらいは頭を下げ、自らの行いを悔いているのかと思えば、本当に性根腐った人種だったらしいな。私も少し甘く見ていたようだ」
「旦那様」
一応たしなめてみる。
それで止まればはじめから口出しはしてこなかっただろうけど。
「なんだ、リーシャ。言いたいことがあるのなら今言っておいた方がいいぞ? なにせ、もう二度と会わないだろうから」
あー、さっきはベルディゴ伯爵家の面々に、まだ少し希望を残していたわけですか。確率的に会う事は限りなくゼロに近いけど、まだ会う可能性があったと。それを、二度と会わないと今決めたんですね。
「伯爵位は私が大事に預かりますよ、義父上。ゆっくり田舎で静養してください。すでに手配はすんでおりますので。ああ、もちろん持病をお持ちの夫人と息女も共にお連れ下さい。私もそこまで非道ではありません。ご家族が共にいた方が、お互い支え合って生きていける事でしょう」
事実上の社交界追放処分の上、田舎に隠居。
いや、田舎に監禁の間違いかもしれないけど。
三人は、怒鳴り散らす事に効果がないと分かるや否や、今度は悲壮感を漂わせ、まるでわたしを心配しているのだと訴える。
「公爵! 何をおっしゃっているのかお分かりですか? このままでは、リーシャが、いえ公爵夫人が社交界できっと笑いものになる事でしょう。実の両親にこの様な非道な事をしたのですから」
「家族をないがしろにして、そのような行いが社交界で受け入れられるとでもお思いなのですか? それに、やはりわたくしはリーシャとの結婚を止めるべきだったと考えておりますの。そのようにお金をかけた姿で、なんてはしたないのでしょうか! そのように贅沢する前にするべきことがあると言うのに」
それを言うのはこっちなんだけど?
そのドレス。見たことないけど、有名デザイナーのものですよね?
宝石だって、わたしが見た事のないもの身に着けているって事は、新しく買ったんですよね?
領地が大変な時に贅沢品を身に纏っているのは、今も同じ。貴族としての体面だとしても、今の姿はあまりいい装いではない。
せめて、もっとしおらしくしていれば、わたしも旦那様ももっと寛大な気持ちになれたかもしれないのに。
旦那様も同じ事を思っているようだった。
「全く、どれだけ言わせれば気が済む? リーシャの恰好がふさわしくない? むしろ地味な方だ。彼女はこのリンドベルド公爵家の正妻。どれほど金を使っても使いきれないほどの予算がついているが、必要最低限しか使っていない」
実は、ちょっと派手かな? と思っていたけど、彼女達の姿を見て、そんな事なかったと思った。
使っている素材は雲泥の差だろうけど、見た目だけならどちらが公爵夫人か分からないくらいの派手さ。
「お継母様、お姉様。こんな事は言いたくないのですが――、いつも新しい物ばかりお求めになり、古い物は嫌うのはいかがなものかと思います。ベルディゴ伯爵夫人が代々継承してきた装飾品の数々は、値段にできない程の価値あるものばかりでした」
「あら、たいした値段ではなかったわ。どれも、古い物ばかりで。そんなものに、どんな価値があると言うのかしら? 見る目がない代々の夫人のかわりにお母様が正しく価値のあるものをお選びになっているのよ」
「お姉様、見る目がないのはあなた方のほうです。それに、たとえ今の時代に価値が無かったとしても、ずっと受け継いできたものなんですよ! それは家の歴史なんです!」
「古い考えに固執して落ちぶれていく、典型的な考えだわ」
「それが、ベルディゴ伯爵家の考えだというのであれば、わたしはこれ以上何もいうことはありません」
自分の考えの方が正しいのだと、自分の過ちを絶対に認めない。
そうだ、いつもそうだった。
受け継がれてきた装飾品を売られた時、どれだけやめてほしいと言っても聞いてもらえなかった。
例え価値が無かったとしても、そこには思い出があったのに。
母がわたしのために残してくれたものを。
旦那様がわたしの背を一回ぽんと叩く。話はもう終わりかとでもいうように。
恨み言はたくさんあるけど、もうこれ以上何を言っても無駄だった。
「お父様、言っておきますが、本来ならすべての権利はわたしにあった事をお忘れなきようお願いします。正当な権利はわたしにあるんですよ。そうでなければ、皇帝陛下もお認めになるはずがありません」
旦那様が色々小細工したけど、一応わたしにこそ正当性があるからこそ、認めて下さったのだ。
まあ、当然皇室側にも利がある。
皇女殿下の件の他に、借金の多い不良債権領地を引き取らなくてもよいと言う事だ。
一昔前は戦争が絶えなかったゆえに、戦争功労者にわたすべき領地があった方が良かったが、現在では領地を与えるほどの功績はほぼおきない。
それでも、それなりの農地があればそこそこの税収は入って来るが、ベルディゴ伯爵家の領地はすでに破綻しかかっている。
いつかは黒字になるだろうけど、それがいつになるのか計算すると、十数年はかかるそうだ。それに、黒字になったところで、結局そこまでの税収は望めないとくれば、手間暇かけてまで領地を管理したくないというのが皇宮文官たちの意向だった。
そのおかげもあって、今回の件は比較的あっさりと認められた。
もろもろの事情まで、父に話す必要はない。
ただ、すでに皇室に見捨てられたという事実は、さすがに理解していると思っている。その裏にリンドベルド公爵家が関与しているのが丸わかりだったから、ここまでやって来た。
しかし、それも今日で終わりだ。
最後は旦那様が引導を渡すように、三人に言った。
「あなた方は色々と苦労されたようだ。そのせいで、感情的になっている。今後お住まいになる場所の手配はしてあるので、そちらで過ごす事をすすめる。ラグナート、全員連れていけ」
「かしこまりました」
恭しく主である旦那様に頭を下げるラグナートの姿に、父の標的が変わる。
「ラグナート! 主を裏切り、のうのうとこのような場所で暮らしおって! 恥を知れ!!」
「旦那様――、何か勘違いしていらっしゃいますね」
ラグナートは呼び鈴を鳴らすと、静かに語り出す。
「私の主は、リーシャ様です。主のいるとこに赴くのが総括執事というものですよ」
穏やかに笑みを浮かべているラグナート。
だけど、一つ言いたい。今の主はわたしじゃないよね? と。
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