049 7月16日
日常が戻ってきて、これで全てがよかったと思えるくせにどうにも心にもやがかかる。
理由は、何となくだが、まあ……分かっている。
寂しいのだろう。
コンビニのバイトが終わって岐路を辿りながら暖色色の袋を持ち上げる。
今日の夕飯はから揚げ弁当と缶ビール。
今までに戻っただけなのに、どうも貧相に感じるのは一週間程度の期間味わってきた侑子の手料理のせいだろう。
レンジでいくら温まった弁当を食べても、手料理の暖かさに勝るものはないと思い知った。
そんなこんなで過去を懐かしむ余裕も生まれ、何だか本当に変わった気がする。
しかしいつまでもこんなところで立ち止まっている暇はないと、…………再び足を動かした瞬間、
「あ…………あの」
――――ドキッ。
思わず心臓が停止するかと思った。
こんな場所で名前を呼ばれただけでも驚きなのに、その声色が聞き慣れた、ついこの間まで一緒にいた少女の声に似ていたから。
俺はそのまま後ろを振り返る。
「……………………ぁ」
これは驚いた。
もう逢うこともないのだろうと思っていた少女が俺の背後に、申し訳なさそうな瞳をこちらに向けて立っていたからだ。
「……侑子」
名前を呼ばれた少女はわずかにはにかむも、やはり表情は暗い。
二人して黙り、長い沈黙が二人の間を支配する。
夏の夜風が吹いて、侑子の髪をさらさらと揺らす。それでも侑子は沈黙を破ろうしない。戸惑っているのか、それともただ単純に俺とこうして出くわしたことに照れているのか。
だがどちらにせよ、このままでは話が進まない。
そう思った俺が先に我に返って、
「どうしたんだ? こんなところで」
そう聞く。
本当は逢えて嬉しいくせにそれを表現できずに、ちょっとだけぶっきらぼうな感じになってしまった。
「えっ…………ああ…………えっと、……あ、そ……そうだ。あの……さ、……散歩……散歩です……はい……」
侑子はどこかしどろもどろで誰がどう聞いても嘘だと分かるような言葉でそう言った。
それを察せないほど俺はこの子のことについて、無視出来ない。
「そうなのか?」
ところで侑子の恰好がいつもの制服なのは学校帰りからだとは思うのだが、にしてももう少しおしゃれをしてもいいんじゃないかと思う。
「あっ……慶介さんはお仕事の帰りですか?」
「ん? ああ。そうだ」
侑子は視線をコンビニの袋に向けてそう言う。
下手をしたらまた食事を作りかねないと思った俺は慌ててコンビニの袋を後ろ手で隠す。
「はは……」
「もう……そんな食生活していたら本当に倒れちゃいますよ……」
本当、こいつ母親みたいだな。
さて。これ以上他愛のない話を延々と続けて誤魔化し続けるのはやめよう。
俺は後ろ手に持ったコンビニの袋をニュートラルに戻すと、
「で? 何かあったのか?」
そう訊ねた。
侑子は少し疲れたような苦笑いで俺を一瞥。
「…………どうして、分かっちゃうんですか……」
…………さあてな。
どうしてだか俺にも深い理由は分からない。
もし、理由があるとするなら言葉で言い表すとしたならば、きっと俺はこう言うだろう。
「なんとなくだよ、なんとなく」




