040 7月13日
「学校に行ってきます」
まるで戦地に赴くような形相と宣誓に驚いたのも数時間前。
侑子は再び俺の家に無事平穏に戻ってきていた。
「それで? どうだった」
「はい。理佳のおかげでクラスも元のように戻って、みなさんも謝ってくださいました」
「そうか。よかったな」
「はい」
侑子の表情も口調と同様に明るい。
侑子の背中にのしかかっていた重圧も全て解放され、重荷がなくなったように侑子は本当の笑顔を見せてくれた。
それを見て、俺はすごく嬉しいと感じていた。
それと同じくらいの寂しさをひしひしと感じている。
だって。
これで侑子が家出をする理由もなくなったからだ。
いじめがなくなったのならば、家に戻って普段どおりの生活を取り戻すこともそう難しくない。もしかしたら親にこっぴどく叱れることもあるかもしれないし、そもそも侑子が家に戻りたくないという可能性もなくはない。
しかし。それでも。家に戻れるのならば家に戻った方がいいに決まっている。
二六歳アルバイトの知らないおっさんの家に居候を続けるよりははるかにマシだ。
だから俺はその旨を侑子に伝えた。
「………………やっぱりお邪魔でしたか?」
しょんぼりと。見て分からないやつがいないほど侑子はしょんぼりと肩を落として、そんなことを言う。
「いや…………結構楽しかった」
嘘じゃない。
この一週間ほど。
たったの一週間だけ一緒にいて、これほどまでに充実感を味わったことのない俺はそれが『楽しい』と素直に思えるほどに侑子に心を許していた。
だから。
うん。だからだと思う。
「…………あの。……えっと……慶介さん」
「なんだ?」
「最後に……図々しいですけど、お願いがあるんです」
「お願い?」
「はい」
「……まー、難しいことじゃなければ」
そのときはあまり深く考えずに侑子の言葉に相槌を打っていた。
侑子のお願いは金銭を要求するものではない。
訴訟を起こしたいとかそういう類でもない。
身一つで出来るとても簡単なこと。
侑子に頼まれたことはたった一つ。
――――今日だけ、一緒に眠ること。
――――同じ布団で。




