038 7月12日
山岸を引き連れて、人通りの多いところへ戻ってすぐ。俺が捜し求めていたものは見つかった。
きっと戻ってきていると思っていた。だって分かれ道を分かれて俺が先に山岸と出逢ったのだから。
戻ってきていた侑子は俺の姿を確認すると大きく手を振って。
その傍らに山岸がいると分かると、震えるように固まって。
なんとも分かりやすいやつ。
「や、……山岸さん」
「ゆ、……侑子」
二人は天敵を前にしたみたいにして、ひどく緊張する。
ったく。クラスメイトだろお前ら。
俺の手を振り払って、山岸は自分の手を自分の胸の中に収める。
立ち尽くす少女二人。
だけど俺は知っていた。
――――少女二人が立ち尽くす理由を。
――――眼前にして、沈黙が生まれる理由を。
――――二人は結局、似たもの同士であると感じてしまう理由を。
その理由を俺は……察した。
そして。
それが確信であると、心の中で『断定』出来た。
「……………………」
「……………………」
二人は目の前にしても、まだ何を言っていいかも分からずに立ち尽くす。
侑子は小さく唇を噛み。
山岸は胸に収めた手に力を込め。
なんともいえない沈黙が続いて。
耐え切れなくなって、沈黙を先に破ったのは、
「……………………あ、……あの」
意外なことに侑子の方だった。
決心をしたように、片目を閉じてから侑子は告げる。
「け、慶介さんに迷惑をかけないでください」
「え……」
「その人は……慶介さんは私を救ってくれた唯一の人なんです。私は……慶介さんに救ってくれなかったら今、ここに立っていることさえ出来なかったかもしれません。……や、……山岸さんが私のことが憎いというのならばそれでも構いません。だけど……だけどです。慶介さんに迷惑をかけることだけはしないでください。――――お願いします!」
そう言ってから侑子は体が折り曲がりそうになるほど頭を下げた。
それを見て山岸は一体どう思ったのだろうか。
――恩人に憎くても構わないと言われて。
――震える声で哀願されて。
一体山岸の目にはどう映ったのだろう。
…………まあ、少なくともいい気分ではないだろうな。
「……あ、うん。…………警察には電話しないから」
言葉を失ったようにして、山岸は固まる。
さっきまでの威勢はどこへいったのやら。
「そうですか」
「……………………」
「……………………」
再び訪れる沈黙。
今度こそ沈黙を誰も破ろうとしない。
互いが互いに遠慮をしているから。
――互いが互いを思い合っているから。
だから、少しだけ背中を押してやる。
少し強引でも。
「お前たちは……誤解しているところがある」
言葉に二人は俺の方を一斉に見る。
「誤解……」
「多分。俺はお前たちよりお前たちのことを知らない。侑子とは数日しか一緒にいなかったし、山岸とは会ったばかりだしな。…………一言で言えば年季が違う。明らかにお前たちの方がお前たちのことを知ってるはずなんだ。そんなお前たちとの経験地ゼロの俺が言う。――――お前ら、胸の中に溜まったもの。全部吐き出せ!」
怒号に二人どころか、周りにいた客たちまでもが俺を一斉に見た。
だけど今はそんなことどうでもいいと思えていた。
正直言ってこの発言はノープランだ。
「遠慮してんじゃねえよ。嫌いなら嫌いって言え。嫌なら嫌って言え。うざいならうざいって言え。迷惑なら迷惑って言え。――嫌いかもしれないなんていう中途半端な考えで、中途半端に距離を開けようとなんかすんじゃねえよ」
勢い任せの発言。
けれども二人は聞いてくれた。
やはり根底は似ている二人なのかもしれない。
このやり方が正しいだなんて思っちゃいない。
正直言ってこのやり方は余計に二人の関係をこじらせてしまう可能性が高いと思う。
それでも。
こじらせて、こじらせて、こじらせて――――
行くところまで行った方がきっと後悔しない。
ふつふつと心の奥底にどろどろした感情だけを残して、このまま生きていっても、きっとそれは後悔となって、いつしか自分でも気が付かないうちに自分を傷つけてしまう。
その毒は永遠に消え去ることは無い。
けれども。
どうしてかな。
この二人の場合、それが最善の策に思える。
「言いたいことは言っとけ。言えるうちにな」




