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034 7月12日

 分かれ道で別れた後、しばらく走っていると遊園地の中のサポートセンターのような建物が見えてきた。サポートセンターの周りには何かしらのトラブルを抱え込んできた客がちらほらと見える。

「くそ……この中にいてくれよ……」

 祈りながらサポートセンターの周りをぐるりと回ってみる。

 すると、

「だから、電話を貸してって言ってんの!」

 客の中に係りの人と揉めている少女の姿があった。

 白のキャミソールに黒のホットパンツに黒のニーソ。

 完全に見覚えがある恰好。

「ちょっとそこに電話を貸してくれりゃいいって何回言えば分かるのよ! 見えてるじゃない。そこに!」

「これは園内の連絡用で、お客様に貸せるものではありません」

「だー! くそ! ちょっとだけって言ってんでしょうが! こっちは急いでんの!」

 とてつもない剣幕で困り顔全開で愛想笑いを続けている係り員にまくし立てている少女は間違いなく山岸だった。

 どうやら公衆電話を探してみたけど結局見つからなくて、サポートセンターの電話を借りようと思ったが係り員がそれは規則で出来ないからキレたってところか。

 ますます分からねえ。

 なんであいつあんなに一生懸命なんだ?

 ……でも助かった。あんなにキレてるなら俺が近づいても気が付かないかもしれない。

 ここでまた逃がせば警察に連絡されるリスクも高まるし、また逃げられれば追いつけないと思う。いい加減限界だ。二六のおっさんの脚力舐めんな。

 客の波の中に隠れ、徐々に係り員と山岸の傍に近づいていく。

「あー! もう使えないわねこの無能! 早くそれ貸せ!!」

 今にもサポートセンターの建物の窓を突き破りそうになっている少女の肩に手を置いた。

「おい」

「誰!」

 ブンッ! と思いっきり肩に置いた手を振り払って山岸がこちらを向く。

「よう」

「痴漢!」

「なんでだ!」

 山岸がとんでもないことを口走ったせいで、山岸の周りにいる人間全てが俺に奇異の視線を向けた。……こっちを見るな。

 このままここでこいつと言い合っていたらとんでもない余罪が増えていくような気がしたので失礼とは承知で山岸の細い手首を掴む。

 当然山岸は俺の手を振り払おうとめちゃくちゃ力を入れてぶんぶんと腕を振り回す。

「離せ! 離せ!」

「うおっ!?」

「汚いおっさんが私に触るな! 離さないとSNSで拡散させてやるからな!」

 な、なんつー力だよ。

 しかも本当に嫌そうにしているから回りの人の視線が鋭くなった気がする。

 このままだと本当に警察に連絡されかねないので、俺は山岸の手首を掴んだまま走り出す。

「ちょ」

「いいから来い」


 出来る限り周りに人がいない場所まで駆けてきた俺はようやく山岸の手から自分の手を離す。

 とたんに山岸は俺から距離を取り、逃げ出そうとするが後ずさりした方は壁際だったので俺に追い込まれるような形になる。

「こんなところに連れて来て一体何をする気なの!」

 警戒心丸出しで俺を威嚇。

 完全に何かを誤解したような、まるでゴミを見るような視線を俺に向ける。

「はぁー……」

 さて、どうしたものか。

 こっちにはこいつに何かをしようなんて気は一切ないのに、勝手に勘違いして警戒しまくっているこの少女の心を少しでも開くには一体どうしたらいいのだろう。

「別に何もしないけど?」

「嘘」

 山岸は聞く耳を持たないように俺との距離を一切縮めようとしない。

 こいつとはほとんど初対面で何を話していいか分からないが、俺とこいつ。一つだけ共通している話題がある。それを振ってみることにするか。

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