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033 7月12日

「足…………早ぇ……なにもんだ。あのギャル」

「はあ……はあ……山岸さんは……確か……陸上部に所属していたので……」

「ギャルならギャルらしく帰宅部に入っとけっての」

「いつの時代ですか……それ……はあ……はあ……」

 見かけによらない俊足のピアスの少女を追いかけながら、侑子から何気なく引き出した情報を一度整理する。

 フルネームは山岸理佳(やまぎしりか)。あの見た目で想像出来ないが陸上部に所属しているらしい。

 どうにも俺のイメージする像と実際会ってみた像に相違があるような気がした。それが第一印象。

 侑子をいじめていたようなやつなら、侑子の隣にいる見知らぬおっさん――つまりは俺のことだが。そのおっさんに対して怒りの感情がはたして芽生えるものなのだろうか。

 警察に連絡するという話も妙だ。

 ようは侑子の隣に立っている俺を見て、侑子が援助交際をしているのではないかと勘ぐって、警察に連絡しようとしたのだろうが、それも変な話である。

 しないだろう。普通。

 いじめているやつが。いじめられているやつを心配するようなこと。

 なんだか考えれば考えるほど、山岸理佳という少女の像がかけ離れていく気がする。

 ――――それに。

 いや、これはあくまで憶測だ。この楽観的(ヽヽヽ)な考えは一旦忘れよう。……よし。

 駆け足を続け、先を進むことに集中。

 遊園地の広場を抜け、細い道をジグザグに進んでいく内に道が二つに分かれた。

「くそ…………この道のどっちを進んだんだ……」

「慶介さん。二手に分かれましょう」

「なに?」

「どちらかが山岸さんに追いつければとりあえず警察に連絡されるという最悪の結末は阻止出来ます」

「だけど、いいのか?」

「何がですか?」

「いや、だからお前は山岸って子と二人きりになっても平気なのか。俺が追った方に山岸って子がいるとは限らないんだぞ。あの子を前にしてあんなに震えてたお前が、その子を前にしてちゃんと喋られるのか?」

 俺の懸念を吹き飛ばすように、侑子は、

「…………慶介さんの迷惑になることで、私が怯えたりはしません。それは……約束します」

 そう言い放つ。

 確かにここは二手に分かれて山岸を追うことが最善の選択に思える。

 しかし、俺は知っている。

 握った手から冷や汗が溢れ出したこと。その手が尋常じゃないくらい震えていたことを。

 だから、

「無理してないか?」

 そう訊ねる。

 言葉に侑子は一度小さく唇を噛んだ。

 が。

「はい」

 と、力強く頷いた。力強く否定。

 それを見て、俺もまた頷いて。

「分かった。ありがとう」

 そう言ってから侑子の頭を撫でた。

 侑子はよく分からないような顔をしていたが、構わず撫でた。

 俺のことを思ってくれる少女に感謝を込めて。

「じゃあ、俺はこっちの道を行くからお前はそっちの道を頼む」

「はい」

 侑子に改めて頼んだのち、俺は再び足を懸命に動かした。

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