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032 7月12日

「え……な、なにやってんの……アンタ。……こんなとこで……」

 ややハスキーな声を震わせながらピアスの少女は驚愕きょうがくの声を漏らす。

「え…………」

 目の前の少女に驚いて侑子の手に力が込められる。

「アンタ……侑子よね。誰……そのおっさん」

 ピアスの少女は警戒するように目を細め、視線を侑子から俺へと移した。

「誰、アンタ」

 声色はハスキーであるが低い。

 警戒しているというよりは怒っているような声色だ。

 そして、ようやく侑子が口を開く。

「や……山岸やまぎし、さん。ど、どうしてここに……」

 山岸という名前を初めて耳で聞いて、俺は思い出す。

 服装が違っていたから分からなかったが、この相貌そうぼう。間違いない。コンビニで侑子のことを話していた少女の内の一人だ。

 侑子のいじめの首謀者。もしくはきっかけとなった少女。

 確か……名前は、山岸。

「アンタ一体なにやってんの。学校にも来ないで、こんなところで。そんな歳もアンタよりも確実に上の老けたおっさんと仲良く手なんか繋いで一体なにやってんのよ」

 そこで俺たちが未だ手を繋いだままだということに気が付いた。

「えっ……あ。いや……これは……」

 慌てて手を離してみるが時すでに遅し。

 二人が手を離しているところをバッチリ目撃した山岸は警戒の色を解こうとしない。

 それどころか、

「警察に電話するっ!」

 とんでもないことを叫んでから鞄の中からスマホを取り出した。

「なっ!?」

「今さらうろたえても遅いんだよおっさん! 侑子にどんな風に近づいたのかは知んないけどさ、どう見ても健全なお付き合いじゃないでしょうが!」

「待て! 落ち着け!」

「うっさい! あー、もう! こんな時に充電切れ!? 仕方ない。こうなったら公衆電話探すか。最悪係りの人に携帯電話貸してもらえば、なんとかなるよね」

 俺の声など軽く無視して、山岸は身をひるがえしてそのままダッシュ。

 見た目の割りに結構な俊足である。

 あっという間に山岸の姿が小さくなっていく。

 わけも分からぬまま立ち尽くす俺と侑子。

「……け、慶介さんっ!」

「な、なに……」

「早く追いかけましょう! 何だかよく分かりませんけど追わないととんでもないことになりそうな気が」

「そ、そうだな」

 未だ状況は何一つ分かっていないが、それでも分かっていることがただ一つ。

 このままだと、俺。犯罪者!

 それに自分のことはともかくとして、侑子のことが心配だ。もし変な誤解をされてしまってはこの少女の名誉に傷がついてしまうことになる。

 それは避けなければ。

 俺と侑子は色々な考えを一度シャットアウトして、山岸が走り去って行った後を追う。

 警察に電話をかけるために走り去っていく少女を追いかける最中さなか

 またもや遊園地の中が違って見えた。不安と焦燥の世界に。

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