029 7月12日
「…………ふ、フラフラします……」
「おい、大丈夫か。ほら……お茶」
「…………あ、ありがとう……ごじゃいまふ……」
侑子はとても乗り物に弱いことが分かった。
フードコートのテーブルの上で突っ伏すようにして頭を揺らしていた侑子にお茶を渡すと俺もその隣に座る。少し昼には早いが込み始める前に飯にありつこうという判断の昼休憩。
「酔ってるなら酔ってるって言えばよかったのに」
「…………いえ、酔ってません」
「どう見ても酔ってるだろうが」
「そういう……フリ……で、…………うぇ」
「負けず嫌いが」
初めのジェットコースターに乗ってからは目に留まった列に一通り並んで、アトラクションを消化した。
しかし列が出来ているアトラクションのほとんどが絶叫マシン系だったので、乗り物系が苦手な侑子は見事に酔ってしまいご覧の有様だ。
「どうする? 何か食べられるか?」
「何か冷たい物ありましたか? それ以外はちょっと今は体が受け付けそうもありません」
「あー……確か、うどんがあった気がするな。冷やしうどん」
「ぶっかけですか」
「ああ。それなら食べられるか」
「そうですね……うぷ」
むくりと体を起こしてぺこりとお辞儀。
が、すぐさま机の上に倒れこむ。
今にも吐き出しそうな侑子に苦笑を浮かべながら席を離れ、どんぶりの乗ったトレイを持って帰還せし。
相変わらず侑子は机に突っ伏したままだが、俺が帰還したことに気が付くとその身を起こした。
「ほい」
侑子の前に冷やしうどんのどんぶりと箸を置く。ちなみに俺はカツ丼にした。
「ほら食え。結構美味いぞここの飯」
「え……あ……はい。…………む。これは……美味しいです。こういうところのご飯ってもっと手抜きっぽいと思ってましたけど、うどんのコシがちゃんとあって。この天かすと梅とカツオ節の相性もバツグンです」
「だな。こっちのカツ丼も出来合いかと思ったら結構カツも大きいし卵もとろとろで、結構レベル高いぞ」
その分値段も割高だったけど。
どうやらこの遊園地は有名なチェーンレストランと提携しているらしく、このクオリティの高さも頷けるというものだ。
「んで。この後どうする? 気分が悪いようならしばらく遊園地の中でも歩いてみるか?」
「え?」
飯を食べながらこの後の予定を提案してみる。
午前中だけでも結構遊園地のアトラクションは堪能したので、俺としては別に必要以上に乗り物に固執はしていない。だったら侑子の気分が優れるまで遊園地の中を散歩するだけでも有意義になると思ったのだ。
「いいんですか」
「隣で気分悪くされてるよりずっとマシだ」
半分ほんとで、半分建前だった。
実際まだ侑子の気分は優れておらず、冷やしうどんを食べながらもたまに吐き気を押さえ込んでいる節が垣間見える。そんな少女の意思を無視して自分のやりたいことだけをやるなんてことは出来ないし、そこまで嗜虐的な思考は持ち合わせていない。
と、ここまでが建前。
本音はたったの一言で済む。
心配だった。終わり。
もちろんそんなことを素直に告げることも出来ず、言葉を誤魔化しておく。
「じゃあ……お願いしてもいいですか?」
「おう」
午後の予定が決まると再び食事を再開。
飯が美味いと会話も自然と弾む。
そんなことを思いながら遊園地の午前が終了していった。




