027 7月12日
「裏切り者め」
一人でゲートを潜り、山岸理佳は女子高生とは思えないほど大きなため息を吐いて、そんなことを思わず呟いた。
我が県最大の、賑わいが度々ニュースなどで取り上げられるほど大きな遊園地の入り口で理佳は後悔の念に潰されそうになっていた。
『ごめ~ん、ちょっと彼氏と出かける予定が出来ちゃって』
『ヤマヤマのおっぱい揉みたい』
スマホに映ったメールの文面を見て、持つべき全ての理性を解き放ってスマホを踏み潰したくなる衝動を断腸の思いで、踏みとどまる。
ドタキャンである。
今度の週末に遊園地に遊びに行こうと約束をしていたのに、その二人からのお断りのメールが遊園地の前で待っていると、届いた。
彼氏の方はまだいい。理由付けとしては十分だ。
しかし、この『おっぱい揉みたい』だけは意味が分からない。
普通そこは『行きたくない』と打たないだろうか。何だ、『おっぱい揉みたい』って。こんな約束のぶっちぎり方聞いたことも見たこともない。
というか揉みたいなら来いよ。…………揉ませないけど。
この遊園地のチケットは返金が出来ないため、先にチケットを買っておいたのは完全に失策である。
日頃のストレスを発散するためにここへやってきたのに、こんなにストレスを感じなければならないとは夢にも思わなかった。
せっかく新しい服を着て、褒めてもらおうかと思ったのに非常に残念である。
そう思いながら、自らの体を見下ろして苦笑。肩丸出しの白のキャミソールに黒のホットパンツ。色合い的に合わせてみた黒のニーソックスが孤独というエッセンスのせいで非常に寂しく感じる。
……少し気合を入れすぎたかな?
いつまでもここでふて腐れてても仕方が無いのでスマホを鞄に仕舞う。
無造作に放り込んだスマホがもう一つののスマホにぶつかる。
「あっ……」
壊れていないか確かめてみると電源はちゃんと入ったので問題ない。もう一つのスマホはカバーも何も無い絶賛色気募集中みたいなスマホだった。
「ふぅ……」
壊れていないのが分かると安堵して小さく息を吐く。
壊す訳にはいかなかった。このスマホだけは。
一息ついてから顔を上げて疲れを放り出すように体を伸ばす。
「ん~、……っと。よし! あいつらの分まで遊び尽くすとしますか。後悔させてやろう。ここに来なかったのを!」
薄情者の友人たちのことは一旦忘れ、今は遊園地のチケット分の娯楽を享受するとしよう。




