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025 7月10日

 万年床の布団の上にうつ伏せの二六歳、俺。

 そのうつ伏せの背中に馬乗りの一八歳、侑子。

 ――――――――何というか、もう色々とアウトだった。

「……………………乗る必要って?」

 一応聞いてみた。

「??? 変ですか?」

「…………すこぶる」

「…………でも男の人にマッサージする時って女の人は上に乗らないといけないんじゃないんですか?」

「そんな決まりはないと思う」

「……でも本に」

「捨てろその本」

 渋々(しぶしぶ)(何故か)と俺の背中から降りると侑子は隣に正座。

「それでは慶介さん。私が慶介さんのこといっぱい気持ちよくさせてあげますね……」

「お、おう……」

 三つ指をついて深々とお辞儀。

 布団の上で正座をして深々とお辞儀をしている光景がどうも初夜の新妻を彷彿とさせるが、一切関係ない。ただのマッサージ。

 どうしてこんな状況に陥ったのか、答えは数分前に遡る必要がある。


 夕飯を食べ終わり、後は寝るだけになった頃。

「あー、いたたた」

 首筋が張ったような痛みが走り首元に手を宛がう。

 ピキっと筋が一本通っているような感触。どうにも昼の重労働が原因のようで、結構肩が張って痛い。

 別に本棚自体の重さはさほどでもなかったと思うが、やはり大きな荷物を一五分近くも運ぶと疲れは知らぬ間に蓄積されていたらしく、夜になってそれが一気に襲い掛かってきた。

 ……歳か。

 認めたくは無いが俺も歳を取ったということだろうか。

 と。年寄り臭く自分で首元をこねくり回していると、

「あ、あのー……慶介さん。首痛いんですか?」

 沈黙を破るようにして侑子がそう言った。

「首というか肩だけど」

「うーん……じゃあちょっと私が揉んであげましょうか?」

「え?」

「それぐらいのご奉仕はさせてください。前に言いましたよ? 慶介さんのお世話なら何でもします」

 初めは侑子の申し出を断ろうと思った。別にそんなことをしてもらう義理もないし、わざわざ疲れることを俺が単純に疲れているからという理由でいるというのも、何かが違うと思ったからだ。

 しかしほのかに緊張を纏っている侑子の表情を見て、断ること自体が失礼に当たると思い俺は頷いて侑子にマッサージを頼むことにした。


「うー、気持ちいいな、これ。何か久しぶりの感覚だ……」

「ふふ。……こんなことならいつでも言ってください。遠慮しないでいいですからね」

 マッサージなんてものは金を払ってプロにやってもらうものだと思っていたもので、無償でやる素人のマッサージにいかほどの効果があるのかと疑念を浮かべていたが、そんなものは杞憂だと知る。

 気持ちいい。

 マッサージは完全に見よう見真似の普通の指圧。

 程よい力加減で侑子の指が俺の体に触れる。ぎゅっ、ぎゅっと。心地よいリズムで筋肉がほぐれていくのを感じ取れる。

 指圧はマッサージ界における王道だと再確認。そしてあらゆるジャンルで王道が廃れない理由も理解できるた。

「どう……ですか? 痛くないですか」

「ああ。ちょうどいい……」

「そうですか」

 しかし……これ、本当に気持ちがいいな。

 快感に酔っていると、

「ふー…………、こんなマッサージなら毎日でも受けたいな……」

 無意識の内にそんなことを呟いてしまった。

 きゅ。

「ひんぐっ!?」

 その時、俺に電撃が走る。

「あっ、ごめんなさい!」

 心地よかった痛みが急にその姿を変え、凶器となり俺を襲った。

 痛い。

 何と言うかその言葉以外で表現が出来ないほどの痛みが走った。

 ……い、いきなりどうしたんだ……?

 謝罪したということはその理由は侑子自身は分かっているのだろうか。

「ど、どうしたんだ……?」

「ご、ごめんなさい……ちょっと力が入ってしまって」

「なんで?」

「…………それは」

 言いながら侑子は照れたように顔を伏せる。

 それからは侑子はひたすら無言で、俺の体をほぐし続けた。

 その後のマッサージはとても気持ちよく、翌日には体のコリが取れ調子がかなりよかった。

 が。

 一つの謎は解決出来なかった。

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