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023 7月10日

 俺の必死な土下座のおかげもあり、とりあえず俺の社会的抹殺は間逃れた。

「も、もう怒ってませんから……その、あまり距離を取らないでください」

「……いや……その、なんかすまん」

 侑子の声色はいつもの調子に戻っていたので侑子の怒っていないという言葉に嘘はないと思う。情けない話ではあるのだがその優しさを甘んじて受けることにした。

 昨晩起こった出来事は完全に二人とも覚えていて、朝目を覚ましてから顔を合わせてみると二人して顔を真っ赤に染めてしまった。

 事実は侑子の寝惚けが原因なのだが、その真実を伝えた所で今さら信じる訳もなく。それどころか後の抗議はただの言い訳にしか聞こえないであろうため、泣き寝入りするしかないのだ。

 ……しかし、こいつ。やっぱり根っからの処女だな。

 いくら売春婦を気取った所で少女の素である初心な所までは演じ切れていない。

 が、逆に今はそれが非常に助かる。

 なのでこれ以上この話をするまいと俺は心に誓う。

「…………あ、あの…………こ、今度は……その……お、驚かないようにします、……ね?」

 が、どうしてそこでわざわざ地面に埋めた話題を掘り返そうとしますかね。

 しかも地面を掘り返した結果、とんでもないものが出てきた。

 なにその不発弾。

「いや……驚くも何も、もうしないから」

「……しないんですか?」

「しねーよ。だからこの話題はおしまいな」

 大人の余裕っぽくそう返す。……これぞ大人の対応だよなーっと思いつつ、視線を侑子に向ける。

 あれ?

 すると何故かじとりとした半眼でこちらを覗く侑子と目が逢う。

「…………何か、本当にそう思ってるみたいな口ぶりですけど……」

 一体何が不満なんでしょうか?

 意図が分からずに俺は聞き返そうか迷ったが、何を聞き返せばいいのかすら見当がつかないのではどうしようもない。

「……別に」

 ふんと鼻を鳴らして九〇度首を回転。

 何かご機嫌を損ねてしまったようだが皆目見当つかず。

「……………………………………………………………………ちょっとぐらい襲ってくれても構いませんのに」

「ん? 何か言ったか?」

 囁き声に訊ね返してみると、やはり侑子はそっぽを向いたままだ。

 まあ、よく分からないけど?

 これで本当にこの話題はおしまいのようだし、深く詮索するのはやめておこう。どんな地雷が埋まっているかも分からない話題を掘り返すほどの度胸は俺にも彼女にもきっとないだろう。

 かくして。

 今日もまた一日が始まる。

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