021 7月9日
「ツーペア」
「甘いです。……大天使ミカエルが四枚と堕天使ルシファーが一枚です」
四日目の夜に知った衝撃の真実。
侑子はポーカーが鬼強い。
食事を終えた俺と侑子は何かで時間を潰さないかという話になり、侑子が持っていたトランプで遊ぶことになった。
ちなみに侑子が持っていたトランプは天使の絵柄がモチーフになっていて大天使ミカエルがいわゆるKで、堕天使ルシファーがJOKERである。つまりはファイブカード。
大惨敗。
「ヒエラルキー最下位の天使じゃ流石に大天使には勝てませんね」
「おかしくね?」
「何がですか?」
「もうかれこれ何敗と敗戦を繰り返しているんだが」
現在の勝敗戦績。
〇勝九敗。九連敗中。
いくら運要素の強いゲームとはいえ、この連敗率は異常だ。
こちらはよくてツーペア。相手はフルハウス、フラッシュ、ストレートなどの強い役を連発。
これはもう運の問題だけじゃないと思ったのだが、
「いかさまをしていると?」
「疑ってもいいだろ」
「でも残念。してませんよ、いかさまなんて。ふふっ」
あっさりといかさまを否定。
あまりにもあっさりとしていたので、本当にいかさまをしていないような気がする。
……いや、素直に信じるのもどうかと思うが。
時間を潰すという最初の目的は果たせた。それと同時に今日あった色々な出来事による緊張感も緩和され、二人共にリラックス出来たと思う。そういう意味ではこのトランプ遊びはかなり有意義であった。
思い過ごし、もしくは自惚れかもしれないが、侑子の表情が柔らかくなったように感じる。ぱっと見ただけでは以前のような表情筋の固い顔をしているように思うのだが、カードを配ったりしている時々などに見せる瞬間の顔が以前のものとは思えないほど朗らかに見えるのだ。
油断の顔、だろうか。
度々見せるその顔は、歳相応の少女の顔にしか見えない。
油断が出来るということは多少なりともこの汚い部屋にいて、安らいでいてくれているということだろうか。
それはとても嬉しく思うのだが、それと同時にわずかながらの寂しさのようなものも感じてしまう。
ここしか安らぐ場所が無い。
歳は一八の少女。
世の中にはこの少女が未だ知らぬ楽しいことなど腐るほどあるというのに、この少女はそれを知らずに育ってきた。
それは、とても、寂しい。
他人の俺がそう思ってしまうのだから、心の奥底で、彼女自身は一体どう思っているのだろう。
「あと、一回で大台の二桁連敗ですね。さ、次やりますか?」
「…………」
「慶介さん?」
「…………ん、あ、ああ」
いつの間にか呆けてしまっていたのか目の前に侑子の顔があって驚いた。
「――今度は俺が切ってやる。もういかさまは許さん」
侑子からトランプを奪うとおもむろにカードをシャッフル。
何かをしていないと再び呆けてしまうと思った俺はカードを切るという行動でそれを誤魔化すことにした。
侑子は首を不思議そうに傾げていたが今の楽しさの度合いが勝ったのか、特に気にした様子も見せずにカードが配られるのを待つ。
…………何とかしてやりたい、よな。
しかし今は何の手立ても思いつかない。人間関係の希薄さが裏目に出る。……一体どうしたものか。
そんなことを思案しつつ、本日一〇連敗目となり得るカードを配る。




