020 7月9日
「…………らしくなかったよなぁ」
午後七時過ぎ。俺は自宅の玄関前の扉の前で大きくため息を吐いた。
別に仕事で疲れているという訳でもないのに、いつもより体が重く感じる。
その原因は分かりきっていて、昼のこと以外に思いつかない。
今思い返してみると、結構恥ずかしいことを言っていたような気がする。あの時はほとんど感情的になってしまっていて、侑子を救うことに必死になってしまっていた。
「…………あんなこと言う資格俺にある訳ねーってのに、くそ馬鹿」
今更になって自己嫌悪。
膝から崩れ落ちた俺は玄関の前でへたり込む。
自分のことを棚に上げた発言に俺はガンガンとコンクリートの地面に頭を叩きつける。
死ね。死んでしまえ!
何度か地面に頭を叩きつけて、頭がくらくらして本当に黄泉の世界へ旅立とうとしていると、
「………………何の音でしょうか?」
がちゃりと開く玄関の扉。
キョトンとしたままの表情の侑子と対峙。
視線の先に何もないと分かると侑子はそのまま視線を下へ。
俺を発見。
四つん這いの状態の俺を発見した侑子はぱちぱちと瞬き、俺もまた侑子を見て瞬く。
そういえば侑子は今日、洗い終わった紺と灰色のプリーツスカートを穿いていた。最近の高校の制服は素晴らしく――もとい、けしからんと感じる程短い。
さて、ここで問題。
『四つん這いの低い姿勢』+『膝上一五センチのプリーツスカートを穿いたJK』=『淡いピンク』
答えは言わずもがな。
時が止まったような気がした。
しかし残念なことに現代社会にはスタンド使いのような存在が確認されたことはないので、時は止まっていない。
ぱちぱちと互いに何度か瞬きを繰り返して、
「………………………………………………………………………………………………………………あぅ」
侑子は蚊の鳴くような声を漏らした後、きゅっとスカートの裾を押さえた。
二、三歩後ずさると目線を落として、視線を床一点に集中。
……うん。誰がどう見ても照れていますね。
って、え。何でそこで照れるんですか。
初日に服を脱いだ時には照れるような素振り一つ見せなかったお人がどうして照れるのでしょうか?
なまじ、侑子が照れるものだからこちらにも熱が伝わってきて、頬が熱くなる。
いっそ罵倒してくれたどれほど気が楽になっただろうか。
しかし、侑子は床に穴でも空けようとするが如く視線を一点に集中していたので何も言わない。
とりあえず俺は立ち上がる。
膝についた砂埃を軽く手で振り払う。
視線が上がったことにより、俺と侑子は初めて向き合った。
「…………」
「…………」
「…………ただいま」
「…………え、あ。……おかえり、なさい」
挨拶を交わす。
やっぱり遠慮がちな言葉だったけど、それでも侑子は答えてくれた。
自分勝手なことを言ってしまったけど、答えてくれたのはよかったのだと思い、俺と侑子の二人は我が家に入る。




