引きこもり、家を出る
──レヴィ・スケルト。
【ばーちかる】三期生の彼女は、生粋のゲーマーとして知られている。というのも、彼女はデビューしてから一度たりとも雑談配信をしたことがない。
要はゲーム配信しかしない、というスタンスでVTuber活動を行なっていたりする。
そんなんで数字取れんの? と思うかもしれないが、彼女にとってゲーム配信こそが雑談枠のようなもので、超絶上手い神プレイと巧みな話術で大きく数字を伸ばしている。
現在のチャンネル登録者数は125万人。
【ばーちかる】においても三番目に位置する登録者数の多さで、事務所に来るゲーム案件の全てをこなして貢献している。
「……クソ……油断してなかったら勝ってた……って言えたら良かったんだがな……!!」
ボロ負けだった。
手も足も出ずにあたしは敗北した。
そりゃ相手がプロゲーマーだったら、流石のあたしも「まァ、勝てねぇ」と納得できる。そもそもVTuberとプロゲーマーじゃ畑が違ぇ。
だが、レヴィ・スケルトはプロゲーマー級の腕前ではあるがプロゲーマーではねぇ。VTuberだ。あたしは同じ畑の人間に劣っていたのだ。
「あぁくそ許せねェ……って最近こんなことばっかだな!! 負けず嫌いすぎるあたしの性格を恨むぜ……」
とはいえ負けっぱなしで過ごせるほどあたしの沸点は低くないし、負けた相手に負けたままでいることは屈辱でしかない。
歌の次はゲームか……やってやろうじゃねぇか。
喫緊の予定全部ブッチしてゲームの練習してやらァ!!!
☆☆☆
「ダメです」
「ハイ……あの、本当に事務所行かなきゃダメなんですか。リモートとかで良いんじゃ……」
「機材とスペックの都合上、リモートじゃ敢行することができないんですよ」
「なるほど……」
あたしに案件が来ていた。
こんなクソムーブかましてるあたしに案件をくれる企業なんかいるわけない、とは思っていたが思ったよりも応募があったらしい。
まァ、注目自体はされてるからな。企業のイメージが損なわない案件内容であれば利があると考えたんだろう。
んでもって【ばーちかる】には案件のノルマがあったりする。
複数の案件が来た場合、月に2回は受けなければならないというノルマがある。クソです。
で、その案件が厄介なもんで。
新型ゲームコントローラーの案件なのだが、企業からの要望でFPS配信で使って欲しいとのこと。
それこそ件のレヴィ・スケルトの出番だろ……と思うが、どうやらあたしのキレ芸を見たいらしい。
別にキレてるのを芸にしたわけではねーんだが、確かにFPSはプレイしてて永遠にイラつくからな。
レヴィ・スケルトは"冷静"そのものみたいな女だし、キレ芸は期待できるものではない。
……おい、それってあたしがFPSでミスることが前提じゃねーか。……てか、なんでコントローラーの使い心地の案件なのに主題がキレ芸なんだよ。
「あたしのパソコンのスペックじゃ無理ですか」
「恐らく。……不備があると困りますし、企業案件は一定の言っちゃいけないこと……みたいな暗黙の了解があったりするので、万が一トラブルが起きた際に止められるようにしたいんです」
そのために遅延設定──実際にあたしが話してから5分後にリスナーに届く設定──にするらしい。
……まァ、今の時代色々とセンシティブだもんな。ポリコレだとか著作権がどうのとか云々はあるわな。
流石にあたしもめんどくせぇ〜、とは言えない。
そこら辺を間違えると業界から追放されるし。
「分かりました……事務所に行きます……」
あたしはマネージャーからの電話に項垂れた。
コミュ障のあたしにとって、対面で人に会うというのは割と絶望なのである。
「では、明後日よろしくお願いしますね」
「あい……」
憂鬱な気分になりながら電話を切る。
……まあ、目を合わせなきゃ何とかなるか?
ということであたしは、唯一の弱点──コミュ障を人前で晒すことが決定してしまったのである。




