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魔女で娼婦な男爵夫人ヌイヴェルの忙しない日々  作者: 夢神 蒼茫
第11章 魔女の宴は華やかに
357/406

11-26 魔女の戯れ (2)

 コツンッ!



「先手、白、騎士ナイトf3!」



 コツンッ! 



「後手 黒、騎士ナイトc6!」



 コツンッ!



「先手、白、騎士ナイトc3!」



 コツンッ! 



「後手 黒、騎士ナイトf6!」




 立て続けに動かされる駒達。


 変則打ちではなく、王道的な差し方をすれば、序盤の動きはだいたいこれです。


 僧正ビショップ女王クイーンの斜線を開け、騎士ナイトを跳躍させて、戦線を徐々に押し上げていく。



 コツンッ!



「先手、白、僧正ビショップb5!!」



 コツンッ!



「後手、黒、僧正ビショップc5!」



 コツンッ! コツンッ!



「先手、白、王の入城(キャスリング)! 王様キングはg1 城兵ルックはf1へ!」



 コツンッ! コツンッ!



「後手、黒、王の入城(キャスリング)! 王様キングはg8 城兵ルックはf8へ!」



 互いに王様キングの守りを固める。


 盤面中央には、飛び出した騎士ナイトが両翼に、そして、僧正ビショップ


 ほぼ同じ動きですから、当然、似通った布陣となります。



「おいおい、ヌイヴェルさんよぉ~、デカい口叩いておいて、猿真似じゃねえか!」



「今はこれでいい。時が来れば動き出す」



「ハッ! 余裕だな」



「ええ。“今”のレオーネなら、余裕で勝てるから」



 相手の顔すら見ずに挑発し、盤面から目を離さず思考中。


 上手く誤魔化していますが、レオーネは明らかに動揺しています。


 必殺の“読心”を封じられたのですから、当然と言えば当然です。


 私の名に食わない態度すら、腹立たしい事でしょう。



(勝つつもりで挑発を繰り返しながら、これで負ければ面目丸つぶれですからね。もちろん、私が勝ちますけど)



 もちろん、油断はしません。


 レオーネの打ち筋はしっかりしておりますし、少なくとも素人ではない。


 頭もキレますが、それでも“読心”が封じられたのは計算外。


 その隙を、逃しませんとも。



 カチンッ! コツンッ!



「先手、白、騎士ナイトe5、兵士ポーン消失!」



 仕掛けてきました。


 騎士ナイトを突貫させ、こちらの陣形を乱すつもりでしょう。


 騎士ナイト騎士ナイトをぶつけるのが良いのでしょうが、ここは敢えての無視。


 そして、先を見越しての“猛毒”を仕込ませていただきましょうか!



 コツンッ!



「後手、黒、城兵ルックe8!」



 騎士ナイトの跳躍よりも、城兵ルックの突進。


 前が開いていますわよ、レオーネ!



 カチンッ! コツンッ!



「先手、白、騎士ナイトc6、騎士ナイト消失!」



 カチンッ! コツンッ!



「後手、黒、兵士ポーンc6、騎士ナイト消失!」



 あっさりかかってくれましたね。


 思っていた通り、レオーネは頭はキレても、将棋スカッキィの思考は洗練されておりませんね。


 今の一手で、b5の僧正ビショップにc6の兵士ポーンがかかり、しかも、こちらの女王の前面が開きました。


 隣の城兵ルックと並んで、隊列を組んで突進できる状態が完成しましたわよ。



 コツンッ!



「先手、白、僧正ビショップc4!」



 コツンッ!



「後手、黒 兵士ポーンb5!」



 コツンッ!



「先手、白 僧正ビショップb2!」



 悪手ですわね。


 僧正ビショップを下がれるところまで下がっていれば、こちらも兵士ポーンの前進の一手を仕掛けれなかったものを!


 では、さらに攻め込みますわよ!



 カチンッ! コツンッ!



「後手、黒、騎士ナイトe4、兵士ポーン、消失!」



 カチンッ! コツンッ!



「先手、白、騎士ナイトe4、騎士ナイト、消失!」



 カチンッ! コツンッ!



「後手、黒、城兵ルックe4、騎士ナイト、消失!」



 さて、これで盤面中央はかなり支配的になりましたわね。


 前線に押し出した城兵ルック、側に控える僧正ビショップに加え、前進する道が開いている女王クイーン



(フフフ……、焦っているのが手に取るように分かりますわ。レオーネ、あなたは頭がキレるし、“読心”を持っているから、負けを知らなかったのでしょうけど、私はその気になれば“目隠し”をしていても、将棋スカッキィに興じる事もできるのですよ!)



 要は練度の差、場数の差です。


 “読心”に頼り過ぎた勝負事を繰り返してきたからこそ、それが崩された時の挽回ができないでいる。


 まあ、“読心”封じの魔術【臥房の帳オクルタメント・ペレマメンテ】を、私が持っていた事は本当に誤算だったようですわね。


 さあさあ、どんどん追い詰めていきますわよ!



 コツンッ!



「先手、白、僧正ビショップf3!」



 コツンッ!



「後手、黒、城兵ルックe6!」



 コツンッ!



「先手、白、兵士ポーンc3!」



(勝機!)



 完全に隙を晒しましたね、レオーネ!


 その隙間、逃しませんよ!



 コツンッ!



「後手、黒、女王クイーンd3!」



 女王クイーンを最前線へ!


 盤上最強の駒は、今や遮るものなく、前へと進み出る。


 さあ、この攻撃凌げますか!?



 コツンッ!



「先手、白、兵士ポーンb4!」



 コツンッ!



「後手、黒、僧正ビショップb6!」



 コツンッ!



「先手、白、兵士ポーンa4!」



 コツンッ!



「後手、黒、兵士ポーンa4! 兵士ポーン消失!」



 コツンッ!



「先手、白、女王クイーンa4! 兵士ポーン消失!」




 やはり焦れていますね。


 身動きが取りづらかった女王クイーンを無理やり出して来ますか。


 しかし、それもまた“誘い”。


 女王クイーンを動かしてしまったため、f3の僧正ビショップが外れてしまいましたわよ。



 コツンッ!



「後手、黒、僧正ビショップd7!」



 コツンッ!


「先手、白、城兵ルックa2!」



 コツンッ!



「後手、黒、城兵ルックe8!」



 コツンッ!



「先手、白、女王クイーンa6!」



 ここで女王クイーンにぶつけてきますか。


 女王クイーン同士、相打ちとするか、もしくは逃げるかの二択。



(しかし、私は“第三の選択肢”を用意します! ……覚悟!)



 カチンッ! コツンッ!



「…………!?」



「なん、だと!?」



 審判役のフェルディナンド陛下も、レオーネも驚いていますね。


 まあ、そうでしょう。


 ここでこの手が出るなんて、この広間ではジュリエッタくらいなものでしょうからね、理解できるのは。



「陛下、読み上げを」



「う、うむ……。後手、黒、女王クイーンf3! 僧正ビショップ消失!」



 手が読み上げられると同時に、広場がざわめき始めました。


 まず有り得ないはずの一手なのですから。



「ヌイヴェル、お前……!」



「そうね、この場面、こう言うんでしたわよね、レオーネ」



 軽く一呼吸を入れ、そして、ニヤリと笑う私。


 口から漏れ出る言葉は、もちろんこれ。



「勝ったな」



 先程のジュリエッタとの対戦の意趣返し。


 そう、今の私の、黒の女王クイーンの動きは紛れもない自殺行為。


 動いた先は“f3”。


 そこはg2の兵士ポーンが効いていますからね。



「ジュリエッタにも仕掛けてましたものね、レオーネ。女王の生贄クイーン・サクリファイスを」



「この場面でか!?」



「ええ。もう勝負ついてますから」



 ああ、気分爽快ですわ!


 女王の生贄クイーン・サクリファイスは極めて難度の高い技。


 盤上最強の駒を生贄に捧げるのですから、敵を誘導すれば勝てる、という場面でしか使えません。


 つまり、女王の生贄クイーン・サクリファイスを切り出した時点で、もう勝負が付いているようなものです。


 下手な打ち手では、うっかり穴があって取り逃がしてしまうなどと言う事もありますが、私はもう勝ち筋が見えています。


 そして、もう一度、挑発的な笑みを浮かべ、レオーネに突き付けました。



「さあ、蹂躙のお時間ですよ!」

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