表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔女で娼婦な男爵夫人ヌイヴェルの忙しない日々  作者: 夢神 蒼茫
第11章 魔女の宴は華やかに
356/406

11-25 魔女の戯れ (1)

 互いの魔術を用いれない状況が完成しました。


 私は肌の露出がないレオーネからは、情報を掠める事が出来ない。


 レオーネもまた、見えざる“フチーレ”を用いて必勝を企図するも、こちらの見えざるとばりによって弾かれる。


 互いの魔術を打ち消し合い、ここからは純粋な知恵比べ。


 競う戦場は8×8の小さな空間。


 6種16体ずつの戦力を以て、王の首を狙う合戦ジョコです。



(しかし、だからと言って油断はできないわね。レオーネも“読心”を封じられたと言っても、知恵者である事は変わりない。しかし、将棋スカッキィにおいては、研鑽が物を言う。果たしてそれが、あなたにあるかしら?)



 なので、一切の手抜きはしません。


 全力でやらせていただきますよ。



「では、審判は私がしてやろう!」



「陛下……」



 フェルディナンド陛下も困ったものです。


 魔女の織り成す儀式サバトに、進んで首を突っ込まれるご様子。


 一応、油断ならない相手が目の前にいるという事を忘れているのかと、本気で心配してしまいます。



「あの~、陛下、これに負けたら、私、陛下の元を去らねばならないのですよ?」



「それは承知しているが、“今”のヌイヴェルからは負ける気配が全然しなくてな。まあ、大丈夫であろうよ」



「“勘”というやつですか?」



「いいや、“信頼”と言う名の魂の繋がりだよ」



「臆面もなく、そんな台詞を吐き出さないでください。奥方様に聞かれますよ」



「グローネはゴスラーと笑って観戦しておるぞ」



 実際、ちらりと観衆の方に目を向けますと、確かにゴスラー様とグローネ様がニヤニヤしておりますわね。


 ほんと、よく似た兄妹です。


 人生を楽しむという事を、よくご存じのようで。



「では、陛下の信頼に応えるべく、全力でやらねばなりませんか」



「しっかり励め。我が麗しの“魔女ステレーガ”にして、全幅の信頼を置く“参謀ストラテーガ”、ヌイヴェルよ。今日は祝いの席だ。我が息子に勝利を捧げよ」



 ネーレロッソ大公の御一行の登場ですっかり忘れておりましたが、今日はジュリアス殿下の生誕日の祝賀会でしたわね。


 アルベルト様に続き、ジュリエッタも負けたとあっては、私が勝たない事には面目丸つぶれという事ですわね。


 もちろん、勝ちにいかせていただきますよ!



「話は終わったかい? あまり人前でイチャイチャするのはマズくないかい? 大公に魔女よ」



「レオーネ、あなたの心配してもらう事じゃないわよ。陛下が言うには、魂で繋がっているそうだから、わざわざ肌を合わせる必要もないのよ」



「ハッ! 男と女の間に、そんなものが生まれるかよ! 形ばかりの貴婦人への礼を捧げ、それから寝床へ引きずり込むもんだろうが!」



「残念な事に、お優しい陛下は、そのような乱暴な真似を私にした事がないの♪」



「つまり、ヘタレか!」



「それ!」



 この点に関して言えば、レオーネと意見を同じくしますね。


 いくらでも野薊わたしを手折る機会はありましたのに、棘を嫌がって全然手を出してこないのが陛下ですからね。


 棘のある花は美しいと言いながら、ヘタレにも程がありますわ。



「……陛下、何かご不満でも?」



「そこは慎み深く、謙虚であると評して欲しいところだな」



「謙虚は美徳ではありますが、度が過ぎれば、臆病のそしりは免れませんわ」



「……ほれ、さっさと始めろ!」



 何やら不満げな陛下ですが、事実は事実ですからね。


 逃げの一手とは、本当にヘタレです、はい。



「では、白、先手はレオーネ、黒、後手はヌイヴェル。いざ、決戦!」



 陛下の合図と共に、将棋スカッキィは開始されました。



(さて、先程のジュリエッタとの対戦は、ジュリエッタが変則打ちをすればこそ、変則的に返しました。それは心を読めばこその芸当。さて、“読心”が封じられたあなたの腕前、見せていただきましょうか!)



 コツンッ!



「先手、白、兵士ポーンe4!」



 レオーネの打った初手は、最も使われている常道の一手。


 e2の兵士ポーンを前進させ、女王クイーン僧正ビショップの射線を開ける。


 序盤はいかに中央を支配的にするかが重要ですから、斜線を開けるのは必須。


 むしろ、先程のジュリエッタのような初手が、異常なのです。



「あら、レオーネ、先程の変則的な打ち方とは打って変わって、王道的手法を用いてきますか」



「何か問題でも?」



「いいえ。ただ、それでは私に勝てはしないという“忠告”でしてよ」



 コツンッ!



「後手、黒、兵士ポーンe5!」



 ならばとこちらも、同じく兵士ポーンを前進。


 最前線で早くもぶつかり合いつつ、斜線を開ける。



(だからこそ、レオーネは勝てない。王道的手法オーソドックスはそれだけ皆が多用し、洗練され続けたやり口だという事! どうにもレオーネは、将棋スカッキィを小馬鹿にして、そうした洗練さとは無縁のようですから)



 相手の心を読めるのであれば、手法を学ぶ必要もない。


 駒の動かし方やルールさえ知っていれば、そのキレる頭でどうとでもなってしまうのですから。


 ゆえに、ありきたりな手を打たざるを得ない。


 それでは、洗練され続けた私を倒す事はできない。


 いずれボロが出るのは明白!


 さあ、レオーネ、一緒に舞踏会を楽しみましょうか。


 魔法が解けてしまう、鐘の音が鳴り響くその時までね!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ