表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔女で娼婦な男爵夫人ヌイヴェルの忙しない日々  作者: 夢神 蒼茫
第11章 魔女の宴は華やかに
355/406

11-24 イカサマの正体

「レオーネは私の心を読んでいる(・・・・・・・・・)



 これがジュリエッタがレオーネと将棋スカッキィで勝負した上で出した結論。


 そして、その結論は“私の立てた仮説”と一致していました。



(そう、これが成立していれば、今までの不可解な現象も説明がついてしまう)



 まず、“アルベルト様がバツイチである事”をレオーネが知っていたのも、アルベルト様の心を読み解けば容易い。


 あるいは、ディカブリオやアゾットなどの秘密を知っている者、その心を読み解いても良い。


 心を読み解く力があるのであれば、それが可能なのですから。



(そして、ジュリエッタの見せた、あまりに変則的な打ち筋。常道を外し、突飛な駒の動かし方、それを即座に対応してみせたのも、ジュリエッタの心を読んでいたと仮定すれば可能であるという事)



 将棋スカッキィは一歩下がって、外から眺めた方が全体を見渡すのには良い。


 そして、その一歩下がって見ていた結果、レオーネはほぼ手を止めずに長考する事無く、矢継ぎ早に一手を打っていました。


 ああいう変則的な打ち方は、常道的な打ち方では返せない。


 返せないからこそ、考えるものです。


 しかし、考えた素振りが一切なく、見透かしていた(・・・・・・・)かのように返していたのが、あまりにも不自然。


 どう動くか知っていた、ジュリエッタの思考をなぞっていた、こう仮定すればすべてが繋がります。



(つまり、レオーネの使う魔術もまた、私と同じく情報系の魔術だという事! 相手の心中を読み解き、それを基として口先に乗せて矢を放つ!)



 攻撃型の性格をしていながら、私と同じ搦め手まで使えるとは、想定以上に危険な相手ですわね。


 しかし、それをジュリエッタがわざと負けて(・・・・・・)、値千金の情報を引っ張り出してくれました。


 さすがは魔女ではないとは言え、大魔女カトリーナから薫陶を受けた最後の弟子。


 性格の悪さ(・・)は、師匠にそっくりですわね。


 私も同じですけど。



「さて、それじゃあ、続いて私とやりましょうか」



「お~、そうだそうだ。さっさと片付けてしまおうか」



「……先程はジュリエッタが先手で、あなたが後手でしたし、今度は私が後手で、あなたが先手としましょうか」



「余裕だな、自分より上の指し手があっさり負かされたってのに」



「心配いりませんわ。なにしろ、“今”ならあなたに勝てますから。先程の試合で、あなたの“癖”は把握しましたのでね」



 まあ、癖も何も心を読めるのであれば、関係ありませんけどね。


 口から出まかせは魔女の嗜み。


 イカサマも、バレなければ(・・・・・・)立派な技術ですからね。



「それじゃ、俺が白で、お前が黒」



「そうですね。では、さっさと始めましょうか」



 ササッと駒の再配置を終えて席に着きました。


 私が黒で後手、レオーネが白で先手。


 先手の方が基本的に有利ですが、絶対という程でもありません。


 現に心を読んでいたとは言え、先程の一戦も後手のレオーネが勝ちましたからね。


 逆もまた然り。



(後手で勝って、ジュリエッタの負け分を解消してあげませんとね!)



 死んではいませんけど、仇討ちです。


 次の勝ちを拾うための、意味のある負けであった事を私が証明しませんとね。



「では、ヌイヴェル。魔女と魔女の勝負、始めようか!」



 ビシッと指先をこちらに向けて、無礼極まる宣戦布告。


 同時に、何か空気が澱んだ(・・・)


 少なくとも、私にはそう感じました。



(そうか……、これが魔術を発現させる予備動作というわけね)



 よくよく振り返ってみますと、アルベルト様にも、ジュリエッタにも、勝負の直前に指を向けていました。


 つまり、首無騎士デュラハンの使う“ガンド”と同じですわね。


 指先に力を籠め、相手にぶつけて呪いを移す、という事なのでしょう。


 私の場合は“肌の触れ合い”が条件であるのに対し、レオーネは“指さし”。


 接触しなくてよい分、あちらの方が使い勝手が良さそうですわね。



(しかし、それだと無条件に情報を抜き取れてしまうけど、その傾向が見られない。もしそうなら、今こうして私に指を向けているのがおかしい。事前に“ガンド”を打ち込んでおけばいいのですしね)



 恐らくですが、制限がかかっているのでしょう。


 一人だけにしか効力を発揮しないだとか、指を向けている事を相手に認識してもらわないとダメ、とか。


 そうなると、試合直前に“指さし”を行っている理由にもなります。


 そして、予定外の事に、空気が更に揺らぐ。


 レオーネが術に失敗したのでしょうね。


 それを察すればこそ、私は少々下品な笑みを浮かべ、余裕の態度を晒しました。



「おやおやおや~、どうしました、ネーレロッソの魔女さ~ん」



「お前は……」



「残念ですが、あなたの隠し持つ見えない“フチーレ”はなかった事にさせていただきました。イカサマ(・・・・)は良くないですわ」



 そう。もし事前に私の情報を抜き取ろうとしたらば、抜き取れない事を察知できたはず。


 知らずにのこのこ勝負を受けたのは、明らかな“おごり”!


 七つの大罪、傲慢そのものですわね。


 崩された必勝法、動揺しているのが手に取るようにわかりますわ。



「高ぶりは滅びに先立ち、誇る心は倒れに先立つ。“傲慢スパービア”は身を亡ぼすわよ」



「…………」



「さあ、始めましょうか。今度はこちらが“格”の違いというものを教えてあげましょう! “絶対”は、決して破れる事のない真理だという事をね!」



 レオーネの放った見えざる弾丸も、御簾の後ろにいる女王には届かない。


 私の持つもう一つの魔術、【臥房の帳オクルタメント・ペレマメンテ】は情報系の魔術を無効化する事が出来るのですから。


 見目麗しき淫魔の女王は、御簾の向こう側から“獲物”を品定め。さりとて、獲物の方はその女王の姿を見る事は能わず。


 私は情報という範囲においては、最強の矛と盾を持っています。


 唯一の弱点は、二つの魔術を同時に使用する事ができない事。


 御簾の向こう側に姿を隠した女王は、獲物に触れる事はできませんからね。


 しかし、今回は“読心”よりも“情報遮断”が優先です。



(どのみち、道化の衣装で肌が露出していませんし、お肌の触れ合いで探りを入れるのは現時点では不可能! ならば、お互いに心を読み合えないようにすれば良い)



 読心の魔術はこれにて相殺。


 そうと知らずに、私に“情報戦”で勝負を仕掛けてきたのが運の尽き。


 互いの魔術を打ち消し合った以上、ここからは本当の知恵比べ!



「フフッ、面白くなってきましたわね。純粋に知恵と知恵がぶつかり合う、ガチンコ(・・・・)の戦場、悲劇であり喜劇でもある、二人だけの舞踏会!」



 シンデレラの魔法は解け、薄汚れた娘に逆戻り。


 もう魔女はどこにもいない。


 ここにいるのは、魔術を封じられた“元”魔女の二人。


 何の力を持たない貴婦人バロネッサ道化師パリアッチョです。



(いかなる魔術も用いる事の出来ない、 純粋な知恵比べと参りましょうか、ネーレロッソの魔女レオーネ!)



 舞台は整いました。


 負けという泥を被り、道筋を作ってくれたジュリエッタに感謝。


 さあ、レオーネ、その鬱陶しい道化姿、全部ひん剥いて差し上げますわ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ