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魔女で娼婦な男爵夫人ヌイヴェルの忙しない日々  作者: 夢神 蒼茫
第11章 魔女の宴は華やかに
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11-17 神の視点

 アルベルト様が負けてしまいました。


 私が上手くカラクリ(・・・・)を伝える事が出来ていれば、回避できていたはず。


 しかし、聴衆が見守る中で、決闘の横槍は不可能。


 まんまとレオーネの術中にハマってしまいました。



「さて、それじゃあ、アルベルト、約束は守ってもらおうか。ちゃんと仮面を外し、礼節に則って、我が主君ネーレロッソ大公陛下にご挨拶申し上げろよ」



 勝ち誇るレオーネは、早速報酬の支払いを求めてきました。


 負けた方が仮面を外し、素顔を晒すという取り決めですので、その要求は正当なものです。


 普段、“私以外の前”では仮面を外さない髑髏の番犬、闇の蠢く死神。


 その素顔を拝めるというのですから、広間にいる人々の注目も最高潮。


 これを防げなかったのは、痛恨の一事です。



「待て。ネーレロッソの魔女よ、それには一つ条件がある」



「敗者の足掻きは見苦しいだけだぞ~」



「いや、なに、実際に駒を全部倒してもらわない事には、こちらとしても納得しかねるという事だよ」



「なるほどな。それならば仕方がないな」



 そう言うと、レオーネはササッと盤面を奇麗にし始めました。


 クルミの散弾で汚れた盤上を奇麗にし、散らばっていた駒も拾い集め、また元の位置に立てました。


 そして、私にこれ見よがしに手招きを向けた。



「さあさあ、どうぞ、白き魔女よ。無様に敗れた死神、その引導をお前自身が渡してやんなよ」



 いやらしい事、この上ないですね。


 あえて私に正解を答えさせますか。


 本当に“魔女”と言う生き物は、一人の例外もなくいい性格をしていますわね。


 仕方がないと思いつつも、アルベルト様にとどめを刺すという不名誉極まりない役を受けました。


 私は前に進み出て、まずはアルベルト様に近付き、軽く会釈。



「申し訳ありません、アルベルト様。今少しこちらに余裕があれば」



「いや、これはこちらの失策だ。魔女の口車に乗り、挑発だと分かっていながら突っ込み過ぎた」




 口車に載せるのは、私の良くやる手ですからね。


 おだてる時も、逆に貶める時も、“七色の舌”こそ、私の最大の武器ですから。


 今回は相手がそれを用いてきたという話です。



「ほ~れ、さっさとやれよ。皆さん、お待ちかねだぞ~」



 本当に嫌らしい女ですわね、レオーネは。


 道化師の姿が余計に色々と逆なでして来ます。



「あ、ヌイヴェル、これを」



「いえ、アルベルト様、その投石機オナガーは不要です」



 そう、この玩具は不要。


 邪魔にしかならない“目くらまし”です。


 その玩具こそ、魔女の用意した罠なのですから。


 私は進み出て、駒の並ぶ盤の前に立ちました。


 そして、盤に指を引っ掻け、盛大に振り上げる。


 盤は宙を舞い、駒が乱れ飛ぶ。


 ガチャガチャと盤面から零れ落ちては、盛大に音を鳴らして倒れていく。



(もし、今この場で大地が揺れ、天地がひっくり返ればどうなるのか? 答えは当然、“倒れる”だけです)



 やってしまえば、なんの事はありません。


 誰でも簡単に“一撃”で、三十二体の駒を全部倒せるのですから。


 まさに神の視点からの、“天変地異カタストロフ”が今回の答え。


 そして、観衆の方を振り向きますと、皆が揃いも揃って唖然としております。


 なんだそれは、とでも言わんばかりの顔をずらりと並べて。



 パチパチパチパチッ!



 静まり返る広間にあって、レオーネだけは拍手で祝福。


 これほど嬉しくない拍手というのも、なかなかありませんわね。



「さすがだ、白い魔女。すんなりこれに気付くとは」



「ええ。お互いに、口先で人々を惑わす魔女なのですからね」



「そんなに褒めないでくれ。俺はこう見えて照れ屋(・・・)なんだからな」



 しつこいくらいの拍手をして、ニヤニヤしながらのすまし顔。


 勝ち誇るレオーネの顔を、一発殴り飛ばしたくなりました。


 しかし、短気は損気。


 負けは負けですので、暴力に訴え出るのは野蛮人のやり方です。


 誰よりも優雅な貴婦人、高級娼婦には相応しくない振る舞い。


 負けを戒めるためにも、ここは我慢のしどころですね。



「なあ、ヌイヴェルよ、“アレ”で良かったのか?」



 アルベルト様もさすがに驚いておりますわね。


 実に単純極まる方法で、駒を全滅させたのですから。


 私はアルベルト様がお持ちの投石機オナガーを貰い受け、見えやすい様にそれを頭の上に掲げました。



「『なんで?』と、そう思われておられる方もたくさんいらっしゃいますね。なので、簡単に説明させていただきます」



 やりたくもない答え合わせですが、納得していない方が沢山いるのもまた事実。


 答えを知らねば、不可解に思いましょうし、私がそれをやらねばと考えた上での行動です。



「思い出していただきたい! 魔女レオーネはこう言いました。『一撃で全ての駒を倒せ!』と。しかし、それが落とし穴。なぜなら、『投石機オナガーを使って』とは、一言も発していないからです!」



 掲げた投石機オナガーは騙しの小道具だったのです。


 自分の存在を知らせるために投石機オナガーを作動させ、さも重要な道具である事を印象付ける。


 『駒を倒せ』と述べ、出題と同時に玩具とクルミの砲弾を渡し、“それで倒さなくてはならない”と誤認させる。


 そうなのだと勘違いさせたのが、魔女レオーネの詐術。



(気付いてしまえば何程の事はありませんが、気付かなければ誤解、誤認の状態のままで問題を解く事になる。すぐ側に答えがあるというのに気付かない)



 言葉の中に正解を潜ませ、見えやすい小道具を見せびらかして誤認を誘う。


 世界は神の御心の内。


 すべての事象に方程式が存在し、その中でだけ世界は形を保つ事を許される。


 決して逸脱しない、既定の中だけで生きているのが我々なのです。


 しかし、立ち位置によっては、見え方が変わるのもまた事実。


 魔女は知の探究者であり、その法則を解き明かす者。


 “固定観念”より、“自由”である事を求められし者。


 そう、何者にも縛られない“自由リベルタ”こそ、魔女の信じる神の真名なのですから。

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