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魔女で娼婦な男爵夫人ヌイヴェルの忙しない日々  作者: 夢神 蒼茫
第10章 金か、女か、信義を取るか? 全部取ります、魔女の企み!
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10-45 儲け話

 保険に関する守秘義務違反を咎められつつも、失った利益を上回る儲け話で棒引きにする。


 それがフランヴェール様への、私からの免罪符というわけです。



(保険の件を積極的に漏らしたのではなく、その件を秘した上で結婚するように仕向けた点が、唯一の弁明の材料でしたからね。保留にしていただいただけでも御の字)



 本来なら明確に処罰されてもおかしくはありませんが、昔からの付き合いもありますからね。


 特に、カトリーナお婆様の存命中からずっと、パリッチィ銀行とは良い関係でありましたし、互いに儲けを出し合ったものです。


 魔女の智恵と、銀行の資本力。


 これが絶妙にかみ合った上での、良好な関係でしたからね。


 今回もまた、それで行こうという話です。



「……で、ヌイヴェル殿、お前の言う儲け話とは?」



「じきにアールジェント侯爵ゴスラー様は、領地へ新妻と共に戻られます。それに合わせて行員を派遣し、たっぷりと融資してください」



「侯爵家に融資だと? だが、あそこは今、財政難であったはず。ほんの少し前までは“銀侯爵マルケーセ・ダルジェント”の異名に相応しく、領内の銀鉱山から銀を採掘し、巨万の富を得ていたが、それが枯渇したと聞いている」



「では、その“枯渇した”という話が、嘘だとしたらば?」



「ほう……」



 どうやら興味を示されたようで、フランヴェール様の瞳がぎらついて来ました。


 銀行屋、商売人として、儲け話への嗅覚がやはり鋭いですわね。



(……ま、その話、“嘘”なんですけどね)



 鉱山が枯渇したという話が嘘、という話が嘘なのです。


 フランヴェール様を巻き込むための嘘話。


 銀鉱山は、本当に枯渇しています。



(これは間違いありません。我が家の商会に探らせましたからね)



 我が家のイノテア商会は、主に魚介類を扱う商会でして、海から離れた内陸側に干物や塩魚、あるいは塩そのものを持ち込み、商売をしています。


 そして、行商のふりをした諜報員も紛れ込ませており、あちこちから情報を仕入れるという事もやっております。


 これも“裏”の商売であり、密偵頭のアルベルト様にお買い上げいただいているというわけなのです。


 これもまた、我が家の秘めたる収入源。


 ヴォンゴレの養殖をやっている男爵領である漁村、イノテア商会の裏と表の商売、そして、高級娼館として名高い私の勤め先『天国の扉(フロンティエーラ)』。


 これらが我が一族の収入というわけです。


 男爵でありながら、下手な伯爵よりも余程裕福なのは、こうした商売や事業に積極的に投資し、手掛けてきたからです。



「なるほど、枯渇が嘘情報であった、という事か」



「はい。実際に我が家の商会がアールジェント侯爵領に出かけた際、銀の出入りに不審な点がありましたので、間違いなしとの情報です」



「主人の居ぬ間に、というやつか」



「ゴスラー様は放浪癖がありますので、家督を継いでからもフラフラ出かける癖が抜けておらず、侯爵領にはほとんど滞在していないという困った状態なのです」



「だな。そして、留守を預かっているはずの領地の家臣が、銀山が枯渇して採掘量が落ちたと虚偽の報告をし、懐に仕舞い込んでいるというわけか」



「ご明察の通りです」



 ゴスラー様の普段の行動から、いかにもありそうな話ですからね。


 実際に現地へ人を派遣し、内密にかつ詳しく調べない事には、絶対に見破れない嘘です。



「しかし、私はその点を憂慮し、結婚に際して領地に戻り、侯爵家の事業の立て直しを条件に出しておきました。ゴスラー様の借金、債務を私が全て引き受ける代償としてね」



「領地に戻ったとなると、横領していた家臣団は大慌て。ボロを出すという訳か」



「念のために、我が商会から手代を幾人か派遣しようかとも考えております。なにしろ、ゴスラー様は領地経営だと素人も素人ですから、基礎的な経済すら理解しているのか怪しいレベルですので」



「なるほどな。それで“融資”の話となるか」



「左様です。実際、横領されていた銀が見つかれば良いのですが、密かに流されている場合も考えられます。そうなりますと、侯爵家は資金不足のまま。銀鉱山の採掘をするにしても、取りあえずの元手は必要でありましょう」



「そうだな。それをこちらの融資で賄えという訳だな?」



「鉱山業が再開すれば、すぐにでも利益が出ましょう。取りはぐれることなく、貸し付けた金は回収できるというわけです。なんでしたら、経済顧問として信頼できる行員を派遣し、再建計画に嚙ませるというのもアリかと」



「さらにその後も、窮地を救った恩義として、侯爵領内での優遇も期待できる」



「むしろ、私としては、そちらが狙いでございます」



 人と人の繋がりは、金銭と恩義の繋がりだと考えております。


 どちらかだけでも人間関係を構築するのには十分ですが、両方備わった関係は極めて強固な縁故となります。



(今、私はゴスラー様とマリアンヌに対して、それを有しています。二人の関係を取り持った仲人としての恩義、危うい場面で借金を肩代わりをしてくれた恩義、と。そこに更に傾いた侯爵家を立て直したともなれば、恩賜も期待できるというものです)



 おまけに、ゴスラー様はフェルディナンド陛下の義兄でもありますしね。


 それを救ったとなると、その覚えもめでたくなるというものです。


 実際の金銭以上の収穫がある。


 今回の一件で、かなり回りくどい事をしましたが、回収する段になるとやはり楽しいものですわね。



「確かに、ヌイヴェル殿の言う通りだな。侯爵領での商売上の優先権、悪くない話だ。融資の利益回収も含めてな」



「そうでありましょう?」



「…………、その話が本当(・・・・・・)であればだがな(・・・・・・・)



 当然、疑ってきますわね。


 美味しい話には裏がある。そう考えるのは、商売人としては当然。


 実際、嘘の話で融資を漕ぎつけようとしているのですから。



「おや、フランヴェール様はこんなおいしい話をみすみす逃すので?」



「融資先の財務状況が不明な以上、当然の判断だ」



「では、それを払拭する良い手がございますよ?」



「ほう……。それは?」



「アールジェント侯爵家への融資、その“連帯保証人”に私がなりましょう」



「なに!?」



 突然の提案に驚かれるフランヴェール様。


 まあ、普通の完成をしていれば、巨額の借金の連帯保証人になど、まずなる方がおかしいですからね。


 でも、大丈夫。


 なぜなら、あの新郎新婦が“アツアツ”である限り、私には負けがないのですから♪

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