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9-43 大魔女の仕掛け (3)

「成人するまでは、“雲上人セレスティアーレ”は下山できない」



 ユラハからもたらされた情報は衝撃的でした。


 もし、現在の法王シュカオ“お兄様”が赤ん坊の頃の私と会っているのであれば、それは聖なる山・アラアラート山の上にある天宮サントアリオ以外に有り得なくなってしまうのですから。



「ん~、そうなると、ヌイヴェルの“生まれた場所”が山の上って事になるわよね。ということは、あれか、あたしと同じ状態って事に」



 そう言い放ったのはダキア様。


 確かに、時系列がおかしな事になっておりますが、山の上で生まれたとなると、それの辻褄が合う。


 母が私を出産してから山に嫁いだのではなく、孕んだ状態で山に嫁いだとなると、整合性が取れますわね。


 そう、これはダキア様と同じ状態。


 ダキア様の母君は腹中に子を身籠った状態で、塔へと幽閉されたように。



「だが、そうなってくると、ヌイヴェル、お前は“雲上人セレスティアーレ”か?」



「いやいや、ガンケン様、それはないでしょう。そもそも、“雲上人セレスティアーレ”は全員が男子なのですよ? そして、私は女子です」



「まあ、そうなるんだがな。しかし、“雲上人セレスティアーレ”の特徴も出ている。白い肌、とかな」



「確かに……」



 私の体は白化個体アルビノだとばかり思っていましたが、“雲上人セレスティアーレ”もまた肌が白い。


 少なくとも、私が会った事のある二人の“雲上人セレスティアーレ”、現法王のカシュオお兄様、そして、“風来坊ヴァガボンド”はどちらの肌も白かった。


 なにより、“若作り”というのも特徴としては合致しています。



(法王の話だと、“雲上人セレスティアーレ”は若い期間が長いのだと……。二十歳までは同じ速度で年を取り、六十歳を過ぎるまではおおよそその肉体年齢を維持するのだそうですが……)



 まあ、鏡を毎日見ていますが、確かに私は若い。


 三十代半ばに達する年齢になっておりますが、年の割には肌艶も良いし、美しさを維持しています。


 同年代の女性と比べれば、若々しいと言えるでしょう。


 ただまあ、その若さを維持するために色々と努力はしているので、それだけに若いと感じていました。



(しかし、その若さの秘訣が“種族”によるものだとしたらば?)



 まさに例外中の例外。


 本来、男子しか生まれてこないはずの“雲上人セレスティアーレ”の中に、女子が生まれたのです。


 この仮説が正しかったとするならば、雲の上は大騒ぎになった事でしょう。



(これなら説明がつく。そう、カトリーナお婆様の躍進の理由が!)



 もし、お婆様が“女子の作り方”を考案し、その成功例第一号が私であると仮定すると、“雲上人セレスティアーレ”はその方法を探ろうとするでしょう。


 当然、お婆様から情報を引き出すために、“ご機嫌取り”をするかもしれません。


 その情報の対価として、我がイノテア家の躍進に手を貸したとしても、不思議ではありません。


 現に、当時の法王がイノテア家を貴族に格上げし、ファルス男爵の称号を授与するのに尽力されたのですから。



「ふ~む、そうなると、カトリーナがどうやって女の“雲上人セレスティアーレ”を作ったかって事が疑問だな~」



「いや~、そもそもの話として、女の“雲上人セレスティアーレ”が出来たらどうだって事でもあるわよ。せいぜい、嫁取りの手間が省けるくらいかしら?」



 ガンケン様も、ダキア様も、腕を組んで首を傾げ(片方はない)、悩んでおられますね。



「姫様も、お兄様も、大甘です。これは世界の根幹にかかわるレベルだと最初に言いましたよ?」



 悩む二人に、ユラハがすかさずツッコミ。


 やはり魔女の知識や思考力は、他者のそれを凌駕しているのかもしれませんわね。



「そもそもの話として、女の“雲上人セレスティアーレ”がいないなんて事が、勘違いなのですから」



「え? そうなの?」



「姫様、デウス教の経典は読んでいますわよね?」



「クソみたいな駄文だけどね。一応は読んだわよ」



「姫が『クソ』なんて口にしてはダメですよ。でしたらば、人類の歴史において、“たったの二人”だけ女の“雲上人セレスティアーレ”がいた事をご存じのはずです」



 たったの二人だけ。


 この言葉と“経典”を絡めると、すぐに答えが出てきました。



「そうでしたわ! “最初の人”と“最初の花嫁”の話の事ね!」



 ユラハの言わんとする事が分かり、思わず叫んだ私。


 それに反応して、ダキア様もガンケン様も「ああ!」と納得されました。



「神話においては、神は地上を漂う“ガンド”を祓い、その特異点である“集呪ガンドゥル”を清め、その後に地上を去ったとされていますわね。そして、地上に最初の人すなわち、人類の始祖“アーダーム”を土と神の精液を混ぜ合わせる事で作り、更に両の腕から伴侶となるべき二人の女性を作り出した」



「原初の人間アーダーム、その二人の花嫁、“聖光母ヴィルジナリス・ハヴァ”と“魔女王レ・ステレーガ・リリン”がいる。その二人こそ、女の“雲上人セレスティアーレ”だという事よ」



 ユラハに言われるでもなく、教会の経典は全員知っている内容ですからね。


 “雲上人セレスティアーレ”は神の最も恩寵篤き人とも言われており、神から直接作られたアーダームの“直系”の子孫であると書かれています。


 一方、地上の人々はというと、“ガンド”に犯された存在だとされています。



(こうした事象を経典に盛り込み、下々の民を教化したのが、今の世界ですからね)



 何度も何度も聞かされた経典、神話。


 それを利用して統治しているのが今の世界。


 “雲上人セレスティアーレ”にとって都合の良い情報だけを表に出し、人々に罪の意識と神への懺悔を促す。


 神の代行者として“雲上人セレスティアーレ”の立場を強化(教化)。


 情報こそ最良の武器であると、思い知らされている気分ですわ。


 そして、その仕組みに気付いているのは、知識の探究者である“魔女”と、今一つは“雲上人セレスティアーレ”と敵対していて、それをよくよく観察し、研究している“集呪ガンドゥル”の皆様方。


 これをどうにかするとなると、とんでもない労力になりますわね。


 下手をすると、マティアス陛下の二の舞です。


 道は遠い、そう肩に重くのしかかって来るのを感じますわ。

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