9-1 無辜の怪物
どうも皆様、ご機嫌麗しゅう。
ヌイヴェル=イノテア=デーファルスでございます。
毎度おなじみ、魔女にして娼婦、そして、男爵夫人でもある都合の良い姿を取る女、それが私。
さてさて今日は、私が体験いたしました不思議な出会いについて、お話いたしましょうか。
皆様、“無辜の怪物”と言いて、どういった想像をなさるでしょうか?
事実を捻じ曲げられ、本来あるべき姿や有様とは違う、別個の何かにさせられてしまった存在。
そんなところでありましょうか。
その“無辜の怪物”の根源は、“噂”や“誇張”による情報の改変。
本来の存在とはかけ離れた情報が流布し、結果として異形の存在に貶められた、そんな哀れな存在こそ“無辜の怪物”。
ましてやそれが、百年に及ぶ嘘情報の累積ともなると、もはやそれは人々の中では常識化し、払拭するのが不可能なほど凝り固まった怪物を世に送り出しました。
いえ、送り出したというよりかは、世界より隔絶されたとも言えましょうか。
怪物であるがゆえに人智を超越した力強い暴君。
人ならざる者を統べる人外魔境の魔王。
私が出会った“無辜の怪物”はそんな御方。
見た目の愛くるしさとは異なる、魔王、悪魔、怪物、そんな業を生まれながらに背負わされた、罪なき咎人とでも申しましょうか。
しかし、それでも“彼女”は今日も世界の裏に存在している。
心優しき悪魔、小さな暴君との出会い、それが本日のお話です。
さあ、お聞きください。
世界を浄化するため、あえて主神に反逆し、今日もまた小さなその手を差し伸べる、そんな魔王との出会いのお話を。




