8-1 歪な恋話
ここから第8章『魔女に捧げる愛の詩』です。
どうも皆さま、初めてお会いする方は初めまして。以前にお目にかかられた方は、お久しぶりです。
今日も優雅に、そして、華麗に日々を過ごす女、ヌイヴェル=イノテア=デーファルスでございます。
私は高級娼婦を生業としておりまして、いわゆる上流階級の皆様方に寄生して生きている女吸血鬼にして、性悪な魔女でございます。
皮肉めいた自己紹介となりましたが、もはや様式美でございますね。
何度この挨拶を交わした事やら。
それほど足げく私の店に足を運んでくださいまして、感謝、感謝、感激の雨あられでございます。
それはさておき、今日もまた皆様を夢の世界へと誘いましょう。
悦と快の請負人として、皆様に楽しんでいただくのがお仕事でございますから。
さて、皆様、どなたからか“恋文”なる物を受け取ったことはございませんでしょうか?
二十六種の文字を繋ぎ合わせ、相手への思いの丈を綴る手紙にございます。
時に緻密に、時に大胆に、あるいは短くそのままに、あるいは回りくどくも韻を踏み、相手に愛を文字にて伝える代物です。
私も時折、受け取る事もございますが、心揺さぶられることは一度もございませんでした。そう、ただ一つの例外を除いては。
今宵は私を揺さぶった唯一の恋文についてお話しいたしましょう。
え? 自慢話でしかないと?
いえいえ、十分楽しめるお話でございますよ。
なにしろ、その恋文の送り主に、私も散々振り回されてしまいましたので。
自分で言うのも恥ずかしいお話ではありますが、これもまた笑いを誘う寝物語の一種だと思っていただければ幸いでございます。
では、お話しいたしましょう。
私の“恋人(?)”であるヴィニス=ロッチャーダ夫人について。
え? 恋人が女なのかですか?
はい、左様でございます。
私に恋文を送ってきましたのは、女性で間違いありませんわ。
いささか珍奇な組み合わせかもしれませんが、それもまた“恋人役の仕事”と思って、私は割り切っております。
もっとも、先方は本気の本気、かなりのお熱なのは否めませんが。
それでは、魔女ととある御夫人の恋物語の始まり始まり~♪




