表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
161/406

7-48 いざ突入

「止まれぇ~い!」



 屋敷の門前まで馬車を進めますと、当然のように門番に止められました。


 その数、実に十名。


 門番の数にしては、明らかな過剰戦力です。



(“門”というものは、建物の構造上、最重要の箇所。入る時も、逆に出る時も、必ず通過する必要がある。兵力は当然、多めに配置ですわね)



 なにしろ、先方にはすでにこの馬車が“敵”である事を知っているわけですし、“初手・突撃”も警戒の内ということでしょうね。


 さらには、敷地内に入れば出口を塞ぐ意味合いもあるので、この数というわけです。


 さて、どう動いてくるか、警戒しつつ、車窓を開けました。



「ああ、守衛ご苦労。私だ」



 車窓から顔を覗かせますのは、カーナ伯爵マッサカー。


 ヴォイヤー公爵の取り巻きをしている貴族なので、家中でも顔を知られている存在。


 そもそも、連続少女誘拐略取の実働部隊を指揮していましたし、当然“狂宴”を催すここの住人が知らない訳はありません。


 案の定、門番はビシッと整列して、恭しく挨拶してきました。



「やや、これはカーナ伯爵様! ようこそお越しくださいました!」



「うむ。……して、コジモ様はおられるかな?」



「はい、それはもう。首を長くして、伯爵様の到着をお待ちになっておられます」



「そうか。それはよかった」



「お~い! 門を開けて、伯爵様をお通ししろ!」



 隊長格の男が部下に指示を出しますと、すぐに門が開け放たれ、また恭しく頭を下げてきました。



(下げた頭はニヤついているでしょうね)



 お互い、相手をハメてやろう考えている者同士、察する事は出来ます。


 門を抜け、敷地内に入ってからが本番。



(さて、どう動いてくるかしらね。敷地内に入った途端に襲って来るか、それとも屋敷の中に入って深入りさせてから襲って来るか、それとも悠然と姿を現してくるか、どれでも大丈夫なようにはしていますけどね)



 まず、馬車の中にいるのは合計で四人。


 私、アルベルト様、リミア嬢、カーナ伯爵です。


 これに御者として、オノーレも帯同しています。


 リミア嬢とカーナ伯爵は、屋敷に入るための通行手形。


 “表向き”は貴族の娘を誘拐し、それを実行役のカーナ伯爵がコジモ様の下へと送り届けるという事になっています。


 そのため、この二人がいない事には話になりません。


 なお、カーナ伯爵はこちらに寝返るふりをして、あちらに情報を流しているのは明白です。


 我が秘術【淫らなる女王の眼差しヴァルタジオーネ・コンプレータ】にて、その心の内に潜む本音を拝みましたので、間違いありません。


 こうして、屋敷に兵を“急に集めた”のが何よりの証拠です。


 そして、伯爵の随員として従者のふりをしていますのが、私とアルベルト様。


 アルベルト様はいつでも“黒い手”、すなわち【加速する輪廻コロジオーネ・アチレラーレ】を発動させられるよう、左手の手袋に右手を添えています。


 この“黒い手”は普段は封印されていますが、その手袋を外すと発動します。


 その威力は絶大で、左手で触れた物の“腐敗速度”を超加速させ、腐食させてしまうというもの。


 例え完全武装の兵と言えども、ボロを纏う物乞いと何ら変わりません。


 武器も、防具も、肉体さえも、触れた途端に土塊へと変わってしまうのですから。



(まあ、だからこそ、ギリギリまで封印は解けないのですからね)



 肉眼でも見えてしまうほどの膨大で禍々しい魔力は、普段から晒してしまいますと誰もが近寄れないほどの警戒心を呼び起こします。


 なにより、味方が巻き添えになる恐れもあるため、密集していると使いにくいという場面も考えられます。


 そのため、いつでも封印を解けるようにしつつも、実際に解くのは相手の範囲が明らかになり、こちらに手を出そうとする直前。


 あくまで“現行犯”の状況が、あらわになってからという事になります。



「……庭木、あるいは噴水の影、潜んでいるな」



 抑揚のない、すでに“やる気モード”のアルベルト様の声が馬車の中に響く、


 何気なく走らせる馬車ではありますが、密偵頭としての感覚はまさに今が最高潮。


 すぐに敵配置に気付いてしまいました。



「じきに仕掛けて来るぞ。ほれ、今回の標的のお出ましだ」



 屋敷の玄関には、幾人かの兵士を従える青年貴族の姿が見えました。


 その顔は私も見覚えがあり、すぐにヴォイヤー公爵家の嫡男コジモ様だと判別する事が出来ました。



(早速ですか。そうなると、襲ってくるのは玄関先と言う事ですね)



 固められた門扉、庭木の裏に伏兵、屋敷の中にも当然兵士が詰めているでしょうし、何より屋外と言う空間的な広さがあります。


 屋敷の中では壁や家具、調度品がありますし、数の利を活かしにくくなる状況も考えられますので、当然と言えば当然でしょうか。



(しかし、それはこちらもまた好都合。笛を吹くのに、わざわざ窓に近付く必要もなくなりましたからね)



 すでに屋敷の近くには、ディカブリオとアゾットがこちらの兵士と共に待機しています。


 笛を合図に、一気に踏み込む手筈になっておりますので、相手が怪しい素振りを見せた瞬間に吹けば、すぐに駆け付ける。


 あとは、その駆け付ける“数分”を逃げ回れば良いだけ。


 さあ、ここからですわねと気合を入れ直し、玄関前で馬車が停まりました。


 ゆっくりと扉を開け、まずはカーナ伯爵が、次いでリミア嬢が、馬車から下りました。


 それに続き、私とアルベルト様も降りて、自然体を装いつつ、最大限の警戒。


 さあ、相手がどう出るか、見ものと言うものですわね!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ