7-40 魔女の尋問 (1)
怒り狂うリミア嬢から二人を引き剥がし、納屋へと放り込みました。
殴り殺さんばかりの勢いで、蹴る殴るの暴行に、二人の顔はすでに傷だらけで、血が滴るほど。
下手な拷問よりも、普段“食い物”にしているはずの少女にボコボコにされたのが応えたのでしょうか、少し神妙になりました。
その段階で私とアゾット、それにディカブリオが、伯爵と御者を伴って納屋へと入ったわけです。
「では、魔女の秘術を用いて、この二人から洗いざらい吐かせますので、アルベルト様はしばしお待ちを。ご期待に添える証言を引き出して差し上げますわ」
こう説明して、納屋へと入ったのです。
御者をアゾットが、伯爵をディカブリオが、それそれ抑え付け、身動きが取れないように縄で縛り上げる。
それを“ゴミクズ”でも見ているかのような視線で、私は冷然と見下ろしました。
実際、正真正銘のゴミですし、わざわざ演技をしなくても、自然と蔑みの表情を作る事が出来ました。
「さて、それでは御二方、改めて自己紹介をば。私、ヌイヴェル=イノテア=デ=ファルスと申します。地獄へと旅立たれる短い間ではありますが、お見知りおきくださいませ」
普段の私であれば、煌びやかなドレスに身を包んでおりますが、今は生憎と動きやすさ重視のために、チュニックにズボンという軽装。
乗馬での移動のためではありますが、少し華が欠けますね。
(まあ、これからこの二人の体を苗床にして、真っ赤なバラの花でも咲かせてみせましょうかしら)
そして、私の手には乗馬用の鞭。
軽く引っ叩いてお馬さんに気合を入れてもらう道具ですが、本気で叩くと痛いですよ。
これ見よがしにビュンビュン音を鳴らせながら振るい、二人を脅します。
「さて、あなた方には二つの選択肢があります。散々苦しみ抜いた末に、全てを吐き出して、のたうち回りながらあの世へ旅立つか。あるいは、大人しく全部を吐き出して、苦しまずに楽に死ぬか」
「どっちも死ぬじゃねえか!?」
「そりゃあそうですわよ。大公の位を狙い、武装蜂起を企てたのですからね。立派な反逆罪です。一族郎党、撫で斬りになるのは当然です」
「く、武装蜂起って!? なんだそりゃ!?」
驚いているのは、御者の方です。
まあ、下っ端の工作員でしょうし、少女誘拐の裏に潜むもう一つの案件については、知らない可能性もありました。
(実際、前に記憶を覗いた時には、それらしい兆候は見られなかった。つまり、あくまで誘拐事件に関わっていたというだけで、その裏の奥までは関わっていなかった、ということでしょうね)
しかし、残念なことに、伯爵が反逆罪に問われた以上、連座でその部下も咎を受けるのは道理です。
残念な事ですわね、実に惨めな人生で幕を下ろす事になりまして。
「あら~、御者さんは御存じない? まあ、下っ端には伝えてないでしょうからね~、そんな大事は。使い走りの扱いなんて、そんなものでしょう」
「あの時の検問での問答は……」
「そう。あれは半分嘘であり、半分は真実。一応、あなたが知っているかどうか、反応を見るためのカマかけでもありましたが、どうやらそちらの方は知らなかったようですわね」
そして、私は膝をつき、押さえつけられている御者の顔に手を添える。
我が秘術【淫らなる女王の眼差し】が発動します。
肌の触れ合った相手から、情報を抜き取れる便利な魔術。
こうした尋問の際には、非常に有効な手段ですわ。
相手の考えや記憶を盗み見る事が出来るのですから、隠し事や虚言をすんなり見破ることができる点は強い。
(以前は軽い握手程度でしたので、抜き取る情報には限りがありましたが、今はお触りし放題! 全部、曝け出していただきますよ)
私の頭の中に、たくさんの情報が流れ込んできました。
まずは恐怖。
誘拐の手引きや少女への暴行の常習犯ですからね。当然ながら、処罰の対象。
おまけに彼にとっては初耳の“武装蜂起への加担”も加わりましたから、余裕の拷問、処刑台コースです。
後悔、そして、伯爵への苛立ち、負の感情が支配しています。
(ふむ……。誘拐略取に関しては、完全に黒。むしろ、積極的に楽しんでいる風すらある。死に晒せ、クソ野郎)
上役が楽しんだ後の残り物とは言え、幾人もの少女を慰み物にしていたのは確実。
その際の光景が私の頭の中を行き交い、愚か者への殺意を高めていきました。
無論、その中にはクレア嬢の無残な姿もあり、怒りが更に醸成されていく。
(武装蜂起の方に関しては、この御者は白。その手の情報が一切なし。あくまで、誘拐の手伝いが主な仕事。……たまに運んでいた怪しげな荷物についても、中身は知らない)
結局、下っ端が知る情報ではなかったようです。
しかし、それは免罪符とはなりません。
数多の少女をかどわかしたのは、紛れもない事実なのですから。
どう足掻こうとも、御者の男も処刑台確定です。
せいぜいたっぷりと苦しみ抜いて死ぬように、アルベルト様に頼んでおかねばなりませんね。
悲鳴の内に地獄へ落としてほしい、と。




