6-10 ピッタリ賞はいただきです
ドンッドンッドンッ! ドンッドンッドンッ!
そして、更なる陣太鼓が打ち鳴らされて、これで通算七回目。
さあ、ここからですわね。
「おお、来たぞ来たぞ、七回目!」
「そうですわね。さあ、ここから後……、何回戦、行きますでしょうか」
「ここで止まれば、こちらの勝ちだが、どうせなら、ピッタリ賞を行っとけ!」
「いえいえ、このまま突き抜けて、私のピッタリ賞を!」
私もアロフォート様も手にしていた杯を卓上に置き、勝負の行方を固唾を飲んで見守る事と致しました。
私は“10”に賭け、アロフォート様は“8”に賭けております。
そして、今現在は“7”。
ここで止まれば、アロフォート様の方が近似値ですので、私の負け。
(……が、すでにイカサマ発動中。ふふ~ん、何の準備もなしに、魔女とかけ毎に興じるのはよろしくありませんわよ、アロフォート様)
馴染みの上客からイカサマで賭けに勝つのは少しばかり気が引けますが、“三倍払い”となると、さすがに勝たねば損ですからね。
それに、イカサマがバレたとしても、“笑って流せる詐術”ので不快には思われないでしょう。
なんともズルいですわね、今宵の私は。
ドンッドンッドンッ! ドンッドンッドンッ!
さあ、八回目の陣太鼓が打ち鳴らされました。
壁を叩く音は何度も味わっておりますので、特に感慨深いというわけではありませんが、今日は“三倍賭け”ですので、決して負けられません。
「おお、八回目! 八回目じゃぞ! 噂は本当であったか! 『壁男』、凄まじい豪の者じゃな」
アロフォート様も大はしゃぎで、自身の膝をパシィッと叩いてございます。まあ、実際にああも暴れる姿を見せつけられては、やむ無きことでありましょうが。
しかし、勝負はここからが本番。
「さてさて、アロフォート様、いよいよここからが本番にございます。それぞれ“8”と“10”に賭けてございますれば、次が勝負の分かれ目でございます」
「おお、そうであったな! さあ、『壁男』よ、そろそろ止まるがよい。わしに花を持たせるなめに!」
「そのまま突き抜けなさい! 私の勝利のために!」
アロフォート様はさらに興奮なさり、それを静めるためでしょうか、目の前の料理を次々と食べて気を紛らわせてございます。
アロフォート様はとにかく、食べることが大好きな方ですので、物を食べていた方が色々と安定なさるのです。
私は葡萄酒を軽く飲んで喉を潤し、次なる音を待ちましたが、すでに自分の勝ちを確信してございます。
“仕込み”はすでに終わり、あとは勝利という結果が降りてくるのを待つだけです。
しばらく後、ついに次なる陣太鼓が打ち鳴らされました。
ドンッドンッドンッ! ドンッドンッドンッ!
これで九回戦突入! アロフォート様、ご愁傷さまです。
「な、なんだと……」
「これで私の負けはなくなりましてございます」
ここで止まれば“8”と“10”の間の“9”となるので引き分けとなります。
さらに続けば“10以上となりまして、“10”に賭けました私が近値となりますので、勝ちとなるわけでございます。
もちろん、狙いはピッタリ賞でございますけどね。
「と、止まれ、止まれ、『壁男』よ、止まれぇ!」
「さあさあ、戦に励む若人の二人、最果ての地までひた走るのです。私の懐のために! 勝たせるのですよ!」
「このまま、引き分け、引き分け! 止まれぇぇぇ!」
興奮のあまり、異常に喉が渇くのでしょうか、アロフォート様は葡萄酒や先程のマルの汁物を飲まれておられます。
気持ちは分からないでもありませぬが、齢を感じさせぬこの熱量こそ、大商会の主に相応しいのかもしれませぬ。
なお、“用意された現実”は非情でありますわ。
ドンッドンッドンッ! ドンッドンッドンッ!
はい、これにて十回戦開始!
「あああああああ!」
「“10”を超えられました。つまり、私の勝ちにございます。ご愁傷様です、アロフォート様」
「くっ……、『壁男』の実力を見誤るとは!」
負けて叫ばれるアロフォート様ににこやかな笑みともに、堂々たる勝利宣言にございます。
これで、本日の支払いは倍付となりました。いい稼ぎになりましたわ。
が、ここからさらに追撃の一手。
「さて、今は“10”でございますから、ここで止まればピッタリ賞。突き抜けてしまえば、ただの勝利」
「負けは確定したが、二倍か、三倍か、そこが分かれるか……。ええい、『壁男』よ、いっそ、このまま突っ走れ! 景気よく行けぇぇぇ!」
「止まりなさ~い! その方が稼ぎが大きいですから!」
私もアロフォート様も興奮しっぱなしです。
なお、私の方が演技ですけどね。
イカサマがきっちり発動した事を隠すための、ね。
ドンッドンッドンッドンッドンッドンッ!
ここで“六連打”。
これで打ち止め、戦は終わりの合図でございます。
「あああああああああああああ!」
「はい、三倍、ありがとうございます!」
ここで卓の上に置いていました杯を再び手にし、グイっと一飲み。
戦での勝利の後の酒は、格別な味がいたしますね。
なお、目の前のアロフォート様は“敗北のヤケ酒”になっておりますが。
そんなこんなで、楽しい賭け事はお開き!
酒の勢いと、マルの汁物の力もあって、私とアロフォート様はそのまま床入り。
なお、こちらは”五回戦”まで続きました。
六十の御老人とは思えぬ活力でございますね♪




