6-9 そして今、叩かれし壁の数は!?
そして、話は今現在に戻ります。
アロフォート様との賭けとは、要するに隣室にいるジュリエッタとユリウス様が“何回戦までやるのか?”と言う事でございます。
客の間では、『壁男』の二つ名で呼ばれているユリウス様には、是非とも励んでいただかねば。
なにしろ、私が賭けましたるは“10”で、アロフォート様は“8”。
そして、今現在の壁叩きの回数は“4”。
「さあ、盛り上がって来たのう」
「ええ、その通りですわね。……おや、酒が切れてしまいましたわね。追加をご用意いたしますね」
いやはや、つい勝負事に熱中しすぎて、こちらの“接客”が疎かになってしまいました。
私は従業員に注文を入れ、追加の酒を持ってこさせました。
「ささ、アロフォート様、こちらもグイっと、盛り上がって参りましょう」
「おお、すまんな」
ドンッドンッドンッ! ドンッドンッドンッ!
酒を注いでいる最中に、再びの打撃音。
これで回数は“5”でございますね。
「フフフッ、噂通りの速さ! 見事だ、『壁男』よ!」
酒も入って、すっかり出来上がっているアロフォート様。
この愉快な出し物にすっかりご満悦なご様子。
(まあ、アロフォート様に限った事ではございませんけどね)
私も幾度となく、『壁男』が壁を叩く音を聞いてまいりましたが、その際居合わせました客の多くは、アロフォート様と同じ反応です。
普段は立派な地位に就かれております方々も、たまには羽目を外してみたくなるという事なのかもしれません。
他人の常軌を逸した情事、あるいは賭けによる熱、どちらも盛り上がる理由としては十分でございますからね。
「……少し落ち着いたか? 壁の音が」
「ああ、おそらくは“行厨”でございますよ」
「おお、そうか! そう言えば、途中で食事を挟む事があると聞いた!」
「はい。それが終わってから、合戦再開でございますよ」
「クククッ、焦らして来るか、面白い! 実に面白い!」
アロフォート様もさらに上機嫌となり、追加で持ってきました酒も飲み干されてしまいました。
いやはや、こうして六十歳にもなって娼館に足を運ばれて、大いにはしゃがれてしまうほどの御仁。
健啖家でもいらっしゃいますね。
ドンッドンッドンッ! ドンッドンッドンッ!
「おっと、そうこう言っている間に、戦が再開されたか」
「そのようでございますね。食事も済んで、気分一新、元気溌剌」
「ヌイヴェルよ、今ので何回であったかな?」
「今ので“6”でございますね」
「“6”か。よし、もう一呼吸、行っとけ行っとけ! どうせなら、ピッタリ賞をいただきたいからな!」
酒、賭け、そして、女。
盛り上がる話題としては、事欠きませんね。
「しからば、“ピッタリ賞”も加えておきますか?」
「ヌハハハ! それも面白そうだな! よし、ピッタリ賞ならば“三倍”にするか!」
「いいですわね。そういたしましょう。では、“8”と“10”、それぞれが予想しました数にピッタリでしたらば、“三倍払い”か、“次回も無料”という事で」
「よし、それだ! それでよいぞ!」
気分よく積み増しをしてきましたわね、アロフォート様。
しかし、酒が入った上での賭け事は良くありませんわよ。
それは判断を誤らせる最たるもの。
(なにしろ、もう“仕込み”は終わっていますからね。三倍の払い、御馳走様でございますわよ、アロフォート様♪)
何食わぬ顔で賭け事を続けておりますが、すでに“イカサマの種”はばら撒いた後。
上機嫌に壁に向かって声援を飛ばすアロフォート様は、滑稽でございますわ。
勝ちに行くときは、あらゆる手段を用いますのが魔女でございますから。
おまけに、口を滑らせまして、“三倍”などというかけ金の積み増しは嬉しい誤算。
(イカサマなどと言うものは、バレなければよいのです、バレなければ! 三倍の支払い、ありがとうございます!)
愉快の催し物に酒の力、イカサマを隠す帳としては十分ですわね。
さあ、ジュリエッタにユリウス様、しっかりと私を勝たせてね♪




