6-6 賭け、成立
ドンッドンッドンッ! ドンッドンッドンッ!
再び打ち鳴らされる陣太鼓。これで“三度目”の出陣でございます。
なかなかに頑張りますわね、少年。
「フフフッ、やるではないか。威勢が良いのは結構な事だ。ヌイヴェルよ、そうは思わんか?」
「フェルディナンド陛下、十三歳でこれでは、むしろ先が思いやられるのでは?」
「まだまだ成長していくだろうからな。“本番”を受け持つ、将来の花嫁が大変かもしれんな」
「まあ、その点はジュリエッタが“嫁で不足な分を補う”事もできましょう」
「将来の嫁とやらが、不憫でならんな」
「なお、その純真な少年に娼婦を宛がった“ちょい悪アニキ”は、未だに“初めての女”の所へ通われている模様」
「手は出しておらんぞ」
「口は出しておりますがね。あと、銭も」
こうした応酬も、人目を気にしなくてよいからこそできるものです。
大公陛下相手にこうも軽口を叩けますのも、この国では私くらいなものでしょう。
それを許せるだけの信頼と能力がなければ、こうは参りません。
そんな関係に甘えて、私はさらなる悪戯を閃きました。
「そうですわ、陛下。いっそ“賭け”をしてみませんか?」
「ほほう。賭け、とな?」
「はい。このまま“何回戦まで行けるか?”を互いに予想するのです」
「クハハッ! 面白い、乗ったぞ、その賭け!」
「では……!」
二人してしばしの黙考。
あの二人がどこまでやれるのか、こちらの“目利き”が試されようというものです。
(さて、本当に何回戦までいけるでしょうかね。まあ、ジュリエッタは殿方の気勢を流す術も教えておりますので、早々へばったりはしないでしょう。こちらの方は考慮に入れず、少年の方の体力と気力を勘案しなくてはなりませんか)
ジュリエッタの身体能力、並びに技術はよく心得ています。
何しろ、“娼婦”として仕上げたのは私なのですからね。
問題は相手の少年の方です。
こちらの情報は皆無。陛下の御身内である事くらいしか知りません。
(そう考えますと、その基準になりますのは……)
自然と、私の視線はフェルディナンド様に向けられます。
あちらも腕を組んでは唸りつつ、どの数を示そうか、悩んでいらっしゃいますね。
今回の状況は“筆下ろし”。初めての少年が、どう立ち回るかです。
なかなかに予想が難しいですので。
(なら、いっその事、フェルディナンド様と同じに……。いえ、少し上向きに入れて見ましょうか)
示す数字は決まりました。
すると、フェルディナンド様も決められたようで、パンと手を叩きました。
「よし、決めたぞ!」
「では、一斉に……」
軽く深呼吸をして、そして二人同時に吐き出しました。
「“5”だな!」
「“6”でいきましょう!」
フェルディナンド様が“5”、私が“6”。
それが互いに示した数字です。
「“6”だと? いささか多いのではないか?」
「何を仰られる。陛下の筆下ろしの時が“5”だったのですから、そこまで突飛な数字でもありますまい」
「……チッ、覚えていたか」
「忘れる訳がございませんわ。陛下と過ごしたたった一晩の夢を」
「さすがは魔女殿、記憶力はしっかりしているようで。ってか、私は男として後れを取ると言っているようではないか、“6”だと!」
「左様でございますね♪」
陛下をおちょくるのも楽しいですが、賭けにはもちろん勝つつもりです。
あの少年には頑張っていただかないと。
「それで陛下、賭け金はいかがいたしましょうか?」
「そうだな~、金や物品では味気ないというものだし……」
「では、互いに“貸しを一つ”としませんか?」
「また、一番恐ろしい物を言ってくるな」
「何をお願いするかは、各々が判断するといたしましょう」
「まあ、良かろう。さて、魔女に何をお願いするか、考えておかねばな」
実に楽しそうに笑われるフェルディナンド様。
すでに勝った気でいられるほどに、ご満悦と言った感じでありましょうか。
ドンッドンッドンッ! ドンッドンッドンッ!
などとやり取りしている間に、四度目が打ち鳴らされました。
勝利への階段を築く陣太鼓の調べ。
勇壮にして、欲望の塊。
さあ、私に勝利を運んできてくださいな♪




