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誰が召喚獣じゃボケ 〜一文無しの魔女見習いは、目が離せなくて手がかかる〜 2話

1話 → https://book1.adouzi.eu.org/n6367im/9/

「……で、どうすんだ?」


 色々と諦めた俺がそう訊ねると、ミルクセーキもといカトレアはすっと立ち上がった。


「こうなってしまった以上は仕方ありません。当面の目標は資金調達です」


 まあ、追い出される前に『金を持っていない・荷造りもしていない・身支度もできていない』というのは本人の口から言っていたからな。

 最優先がそれになるのは分かる。


「当てはあるのか?」

「はい。なんと奇跡的にポッケのなかに一〇〇セラがありました。これで中古の道具を購入して、リファインして、高額転売を狙うことができます」


 高額転売という言葉が妙に気がかりになるけども。

 嬉しそうに見せつけてくる一枚の紙幣に、『セラ』が通貨単位なのを知る。


「リファインって?」

「付与魔法です。もともと持っている性質以上の効果を道具に与えることができます。すごいでしょう」


 ふふんと自慢げなカトレア。説明だけで理解できなかった俺は生返事をする。

 いや、当てがあるなら結構だ。


 魔女には俺が役立つことが期待されているような視線を送られていたが、魔力ゼロと散々言われてきたみたいに俺はなんの力も持っていないようだし、カトレア自身がそのことを俺に期待している素振りもない。

 であれば、率先して協力する必要もないはずだ。


 俺のなかでの優先事項は『現実世界に帰ること』が筆頭。

 そのために必要なのは契約解除。しかしカトレアは"俺の能力に期待していないわりに"契約を続ける気があり、その理由には召喚時の願いがあると答えている。

 それが分からないうちは、どうにもならないし、深入りすることも非協力的で居続けることも危険だ。


 様子を見よう。焦りは禁物。しばらくはカトレアの提案に乗りつつ、その間に情報収集を進める作戦を執る。

 幸いにも、急ぐ理由があるわけではない。


「じゃ、行き先は?」

「そうですね……。この森を抜けたところに一日四本ほど走る乗合馬車があるのですが、それを利用することもできないので徒歩で町を目指すことになります。まあ、だいたい一時間ほどかな」

「げえ」

「弱音吐かないでください。私だって辛いんですから」


 そう言ったカトレアが、どれだけ騒いでも二度と向こうから開けてくれそうにない玄関扉を寂しそうに見つめる。

 そこからあの魔女が顔を出すようなことはない。


 このような形で追い出されて、年端も行かない少女が身一つ、思うところは必ずあるはずで。


 名残惜しさに見切りを付けるよう、背を向けた彼女が、歩み出すのに俺も付いていった。




 ……――って行けたらよかったんだが。

 ストップをかける。

 水を差すつもりはないのだが、ここで足元に注目。


「あのさ、俺、靴履いてないからこのまま歩きたくはねえんだけど」


 ごめん。でも、言わせてくれ。お前らと違って土足文化じゃないから。追い出されてそのまま歩き出せたりしないから。こちとら靴下しか履いてないから。


 嫌だよ。これで森歩くの。


 立ち止まったまま一歩も動こうとしない俺に対し、振り返ったカトレアは目線を下げ、流れるようにジト目をする。


「人間みたいなこと言わないでくださいよ」

「お前には俺がいったいなにに見えてるんだよ……。というかお前こそ魔女のくせに陸路なの? さっきのお師匠みたいに浮いたりしようよ。箒に跨がれよ魔女」

「箒って……箒は掃除をするためのものでしょう?」

「なんで俺が常識を問われてんだよこの異世界で。そうじゃなくて定番だろ。なに? 俺が間違ってるの?」


 イライラ。

 言葉通り住んでいる世界が違うのでどうしたって仕方のないことだが、常識のすれ違いからときたま向けられるカトレアの冷たい視線はなかなか手厳しいものがある。


 俺が彼女を『なに言ってんだこいつ』と見るように彼女にも俺という存在が『なんだこいつ』と見えてしまうのは当然の心理だとも思うので、それをどうこう言ってこれ以上わだかまりを大きくするつもりもないのだが、いちいちコミュニケーションにブレーキを踏まれてしまうような感覚は問題だ。

 それだけどうにか上手く付き合えたらな、と思う。


「……浮遊移動(フライト)を外で使うには、魔女手形という許可証が必要になりますから。私はまだ見習いなので、使いたくても使えないんです。怖いし」

「怖いし」

「うるさいです」


 ぽろっと言うのが悪い。本音がそこに凝縮されてるじゃねえか。

 まあいいけど……当てつけのつもりで次の一言を言ってやる。


「じゃあ、俺はこのまま靴も履かずに歩けばいいって言うんだな」

「それは人聞きが悪すぎます!」


 猛烈に抗議してくるカトレア。だが俺は悪びれる気もない。

 だってマジでこの足で外を歩きたくはない。


 言っても、目の前にいるのはいくつかの魔法が使える魔女見習いなわけだから、靴に変わるものぐらい適当に生み出してくれたりはしないものかと淡く期待してみるところもあるのだが……。


「……すみません。いまは我慢してください。お金を稼いだら、一番初めにあなたの靴を買ってあげますから」


 小声で「手のかかる召喚獣ですね……」って言ってたの聞き逃してないからな、俺。

 うん、魔法というのは期待するほど便利なものではないのかもしれない。魔女手形とか、なんか手続きの必要そうな面倒くさいものもあるみたいだし。


 はあ、と心底ため息を吐く。

 我慢、我慢だと自分を言い聞かせても、荒みそうになる気持ちがある。


 まったく、なんで俺はこんな目に。


 ♢


 移動中は、苦行のような時間だった。

 町に着いた頃には、太陽の位置はちょうど頭上あたりまで来ていた。

 舗装された路面に出たことで足元への不安感はかなり薄れたが、同時に人里は人目があるので少しだけみっともないような気持ちになる。

 早く靴を手に入れるためにも、次の行動には出たい。


「はぁ、はぁ……」

「いくらなんでも体力なさすぎだろ」

「うるさい、ですね……っ」


 ジッとした目で睨まれる。どうやらカトレアはへとへとらしい。

 俺は運動不足改善にジム通いを続けていたので人並みには体力は自信があるほうなのだが、疲弊したように肩で息をするカトレアのソレはどうも人並み以下に見える。


 彼女はふらふらと移動し、手近な石垣にもたれかかった。


 到着した町は自然と共生し、西洋建築が建ち並ぶ小型の集落のような場所だった。数十軒の連なる民家と特産の果樹園だろうか、広大な畑が町の外側で広がり、近くの川には橋がかかっている。ここまで川沿いを歩いてきたが、この町を境に向こう岸へ渡ることもできそうだ。

 カトレアが言っていた通り馬車の往来も目立つし、旅人のような人物も見かける。思ったよりは活気のある田舎の町、という印象を持つことができた。


「だから途中で一度休めばよかったのに」

「外は危ないから、そんなことできませんよ、ばかっ」

「ほう。馬鹿呼ばわりか」

「……なんですか」


 俺が目を細めて凄んでいると、カトレアがむっと気まずそうにする。

 うん、こいつは優等生ぶっているきらいがあるから、こうやって言葉の揚げ足取りには弱いみたいだな。しめしめ。


「言っときますけど、『お前』だとか『こいつ』とか、あなたのほうが口が悪いですからね!」

「うるせうるせ。こっちの身にもなれ。俺ずっと人扱いされてないの最悪の差別だからな。うるせうるせ」


 わざとらしく耳栓してそう連呼しているとカトレアが諦めたような顔をする。でも俺は悪いとは思わないから。開幕からこっち、『怠惰の悪魔』とか『人じゃない』とか散々なこと言われてるから。

 お前らに好感度なんてないから。


「フン!」「けっ」


 そっぽを向き合う。こいつとは仲良くできる気がしない。

 十秒ほど沈黙が続き、次の一手を考えていると、ふいにまだ休んでいたいようなカトレアの姿を見下ろす。


 全力疾走をしたわけでもないのにあまりにもしんどそうな姿を見せられると、こいつに旅ができるのか本当に不安になってくる。いますぐにでも師匠に謝って帰ったほうがいいんじゃないか? と助言したいぐらい、基礎体力が低そうな娘だ。


「なあ、まだ休むなら、軽くその辺を見てきていいか?」

「………いや、待って、一人にしないでください……」


 どうせ大した別行動ができるわけではないし、休憩している合間に暇を潰そうと考えていたのだが、そう言ったカトレアがもう一踏ん張りのように気合を入れて立ち上がってしまうので、それは少し悪いなと思うなど。

 別に急かすつもりはなかったんだが。


 一人にしないでって、本来、一人で旅をする予定だったんじゃないのかと思うから、そんなに俺に単独行動をされるのが嫌なのかと邪推する。

 言葉通りに受け取れば可愛いものだけど。


「では、中古ショップに向かいましょう」


 ……異世界の中古ショップって、創作でもなかなか聞いたことがないな。


 ♢


 詳しい話を聞いてみると、中古ショップの存在について納得できる要素が多くあった。この町が周囲から孤立し、旅人の中継地のような形を取るからこそ、故あって所有者不明になった道具や装備などが近辺で収集されたりすることもあるそうだ。

 その故とは、つまり魔物。

 カトレアが一休みを嫌ったのもそういった理由があるかららしい。


 中古ショップとは聞こえがいいが、要は遺品の回収業者で、取り扱うものはズバリ使用済みの短剣、長剣、弓、槍、盾、革装備など。もちろんそれだけではなく、皿や雑貨、細々としたものまでちゃんと中古品の取り扱いもする。

 そのイメージとしては、それこそ個人経営のジャンク店や骨董屋、蚤の市の雰囲気が近いのかもしれない。

 ごちゃっとして、入りづらい店構えだ。


「百セラ以内でいくつか短剣を揃えたいです。状態のいいものを探すの、手伝ってください」

「値札は読めないぞ俺」

「使えないですね」

「お前は本当に歯に衣着せないな?」


 別に協力してやる義理ないんだぞ俺には……。

 もうこいつはこういうやつなんだと早々に割り切り、「はいはい」と諦めて中古ショップ内を見回る。


 見ていて、物珍しさはある。年季入りのものが多いから、異世界をより生身で実感しやすい。

 傘立てのような容器に刃こぼれの目立つ長剣が雑に束ねられているの、なかなか斬新で危なっかしくて、笑ってしまいそうになった。

 この世界はとんでもないな。


 ――がちゃがちゃっ、と大きな音をカトレアが立てたので振り返る。


「なにやってんだお前」

「狭くて……。やってしまいました」

「あーあ。買取求められたらどうする気だよ」

「すみません……」

「謝るなら店の人に言ってこい。これは俺が直しとくから」


 やれやれと頭を振る。

 おっちょこちょいなのか天然なのか知らんが、カトレアはそそっかしいところがある気がする。

 あの魔女があんなに心配そうにしていたの、だんだん理由が分かってくるって話だ。


「……一緒に付いてきてください」


 はあ? 嘘だろ、子どもかよ……。

 心細そうな姿を見せるカトレアになにか言ってやりたかったが、ぐっと呑み込んで項垂れる。

 ああ、もう、仕方がないな。


「じゃあいくぞ」


 手短に拾い集めて戻し、暗い顔をするカトレアを連れて店内奥のカウンターのほうを目指した。


 結果として。


 無口な店主にしかめっ面をされたが、平謝りで許してもらうことができた。カトレアの頭をぐっと押さえ付けながら俺がぺこぺこするという、保護者同伴謝罪のソレである。

 店主の顔を見て思うが、確かにこれは一人だったら怖い。

 何事もなく済んだのでよかったが、まったく……。


 なんで俺はここまでしてやってんだ?


「お前、俺に感謝しろよ」

「う……ハイ」


 いや、理由は分かっている。昔から俺はそうなのだ。

『お人好し』『面倒見がいいね』と言われたことは何度もある。自分で自分の首を絞めるタイプで、俺はそれを高校のときまでと心に決めたから、もう人に任されたくはなくてあえて人を遠ざけるような口調で自己防衛することにしたのだ。

 カトレアにはそれが通用していないみたいだが……。


 利己主義な人間に利用されるのは勘弁だ。

 こっちが身を尽くしてやる甲斐も意義もない。


 感謝の言葉があればまだ気持ちはいいが、俺の人間関係はそのあたりが悲惨だったからな。


「ありがとうございます、本当に」

「……おう」


 ……………いやいや、これで許すから俺は馬鹿なのである。

 甘く見るなよ。マジで。心は固く閉ざしてるから。マジで。お願いされても旅に付き合う気は一切ないから。マジで。本当に。

 俺は、そんなに善人じゃねえから。


 はあ、とため息をついて頭を振る。

 我ながら難儀な性格だとは思うが、利己主義であるよりは利他主義であることに誇りを持てているのでまだいい。


『――たまにはありがとうの一言くらいって、なに? じゃあ結局、自分のためにやってたってことじゃん。あんなにいいよいいよって言っといて、嘘つき。私のためじゃなかったんだ』


 ……………。

 嫌なことを思い出してしまった。


「あっ、ここに短剣がありましたよ。探しましょう」


 カトレアの声で目が覚める。

 そう、あれはもう、過去のことだ。


「……分かった」


 気持ちを強引に切り替えた俺は、本題である資金調達に向け、『高額転売用』の商品を吟味することにした。


 時間が経過する。


 しばらくしてカトレアは、お目当てのものを見つけたみたいだった。


「ぐぬ……。どうしましょう、あと十セラ足りない」


 値札を凝視しながらカトレアがそう唸っている。

 目をつけた品は壁に掛けられていた鞘付きの短剣で、他のものとは少しだけ扱いが違うようだ。


「値切ってみるか?」

「いやあ、怖いですよ……」


 俺がそう言うとカトレアが日和ったことを言う。

 無理もないが、とはいえ、買えなきゃなにも始まらないし。


「じゃあ、こっちの見るからに古びているほうにするか?」


 代替案として出せるのはこのくらい。

 しかしカトレアはそれにも難色を示すと、渋っているその理由を俺に話してくれた。


「リファインって、元々の質が高いものでないと付与できる効果も大したものではなくなってしまうんです。間違いなくこの一百十セラの商品は掘り出し物なので、どうにかこれで一発逆転を狙いたいところなんですけど……」


 じーっと物欲しそうに短剣を見つめている。ちなみに、新品の短剣の相場は二百セラだというらしいから、どうせ中古の品しか買えなかった状況のなかで掘り出し物の発掘はあまりにもでかい。

 言っても、カトレアの目利きにはなるのでどれほど信憑性があるのかは眉唾ものだが……。


 もしもこれで当初の宣言通り高額転売が狙えるのなら、それに越したこともない。


 問題はその残りの十セラだが。


「あの、召喚獣さん」


 折いって頼みが、とでも言いたげなテンションで上目遣いをされると警戒する。

 なにを言い出すか分からないので、訝しみながらも尋ねる。


「……なに?」

「えっと、そのですね」


 まばたき多めに。気まずそうに、人差し指をつんつんと突き合わせている。

 そんなカトレアは慎重に口にする。



「金目のものって持っていたりしませんか……?」



 ――もしかしてなんだけど、俺、異世界に召喚させられた挙句カツアゲされそうになってる???

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