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26 何故か恋人にされた俺たち。

約2年ぶりの更新になります。



「おめでとう」


 朝の教室、林道から開口一番にそう言われた。


「……なにがだ」

「新浪さんのこと! 最近妙に仲良かったけど、付き合ってたんだね」

「……は?」


 思わずマヌケな声が出てしまった。


「またまたぁ。昨日、あのあと新浪さんにLINEで聞いたからとぼけなくていいよ?」


 意味がわからん。


 なぜ、俺と新浪が付き合ってることになったのか。


「よう。裏切り者」


 四島がそんな挨拶をしてくる。どうやら林道は四島にも喋ったらしい。


「裏切ってないんだが?」

「裏切ったろ。一人で童貞卒業しやがって」

「童貞卒業してないんだが……」

「もう卒業したようなものだろ! ふざけるなよ! おめでとうだ!」


 怒り心頭で四島がお祝いしてくれた。

 なんというか、いろいろとおかしい。


「まぁ、賽がオタクだったことにも驚いたよ」

「俺はオタクじゃないぞ」

「あれでオタクじゃないなんて嘘だろ! ふざけるな! そして、おめでとうだ!!」


 二度祝われてしまった。


 これは、新浪にちゃんと問いただす必要があるな。


 その日、授業の合間にLINEで新浪に事の詳細を聞いてみた。


――俺とお前が付き合ってることになってるぞ。


――それ! 私も聞きたかった!


 ……。


――いや、お前が林道にそう言ったんじゃないの。


――言ってないけど。というか、黒井くんがそういう風に言ったんでしょ?


 ……。


 おかしい。話が噛み合っていない。

 これはもう、どちらかが嘘をついているとしか思えない。

 そして、俺は嘘をついていない。

 つまり、新浪が嘘をついている。……のだが。



――なんで嘘つくの?



 嘘をついている人間が、こんな事言ってくるのだろうか?


 もし新浪が嘘をついていたとして、バレバレの俺にこんなことを言ってくるのだとしたら、もうそれはクレイジーすぎる。


――一回会って話そう。たぶん、どこかで行き違いが起きてる。


「そうね。そうしましょう」


 不意に声がしてスマホから顔をあげると、そこには既に新浪がいた。


 あれ、授業……。


 とっくの昔に終わっていたらしい。


 教室中から視線を感じる。ひそひそと囁きあっている会話は聞こえないが、なんとなく内容は想像できた。


「――趣味悪っ」


 どうして人って、聞きたくない単語だけ聞こえてしまうのだろうか……。

 それとも、言った奴は聞こえるように言っているのだろうか。


「移動しよう」


 ため息を吐いて立ち上がる。

 新浪も教室の空気に気づいているのか、否定はしてこなかった。


 そうやって俺たちは人気のない中庭まで降りてから向き合う。


「昨日、林道からLINEでお前がオタクと一緒にいる写真を見せられた」


 一応、援交の話題は避けて切り出す。


「それで?」

「そのオタクは俺だって返しておいた」

「……それで?」


「それだけだ。そのあといろいろと聞かれたが、依頼のことは話せないから誤魔化しておいた」


「なるほど。私も林道さんからLINEきたよ? 黒井くんと一緒にいるところを見たって」


 林道が見たわけじゃないのだろうが……まぁ、その辺は置いておこう。


「私も依頼のことは話さないようにした。だから、黒井くんと遊んだって返したかな」


 思い出すようにポチポチとスマホをいじる新浪。

 LINEの履歴を見ているのだろう。


「あぁ……そのあと林道さんから「付き合ってるの?」ってきてる」


 彼女は画面をスワイプしながら話す。どうやら、かなり長いことやり取りをしていたらしい。


「それに付き合ってない、って答えてる」

「ん? じゃあなんで付き合ってることになってるんだ」

「だから! それは黒井くんが……あ、待って」


 新浪はスマホの画面から視線を外さない。


「結構話したあとに、林道さんから「黒井くんのことどう思ってる?」ってきて、私が「好きかも」って返信した」


 スワイプする指が動く。


「それで「告白するの?」ってきて「告白した」って答えたら、「フラれた?」ってきて「フラれてない」って答えてて……」


 だんだん雲行きが怪しくなってきたな。


「……」


 そのことを新浪も理解したのだろう。彼女の表情には、謎が解けた後のスッキリ感と、それをどう捉えていいのか分からないモヤット感が相まみえている。


 ただ、俺の言い分はとっくの昔に決まっていて、「そう思いたいやつには思わせておけばいい」ということ。


「……」


 だが、それを口にすることはできなかった。


 なぜなら、そう思わせておけば良いというのは、『新浪が黒井賽みたいな奴と付き合ってる奴だと思われても良い』ということと同じになってしまうから。


 だから、何も言えず俺も黙ってしまうしかない。


 俺は……周りから新浪がそう思われることを『良し』とは思えなかったから。もちろん、ただの感情論。


 そして、感情論だと分かっていたからこそ言ってしまっても良いか分からない。


 まさか、こんな形で林道や新浪が言っていた理屈を突きつけられるなんて思ってもみなかった……。


 俺は結局、自分が信じたいことをさも世界の真実であるかのように語っていただけで、それはただのワガママだったのかもしれない。


 だから、こんなことになってしまっている。


 認めざるを得なかった。


 俺が主張していたことは正しくなかったんだと。


 そして、起きてしまったことには責任を取らなければならないだろう。


「俺たち、もう今後一切関わらないようにしよう」

「それって、どういう……」


 出した提案に少しだけ悲しそうな顔をした新浪。しかし、感じ取ってしまった感情を見て見ぬ振りして俺は続ける。


「付き合ってると思われたのなら、もうそういう風に思わせておけばいい。そして、付き合っているのなら、別れたんだと思わせることもできる」


「私と黒井くんが別れたって思わせるために……関わらないようにするってこと?」


 それに俺は頷いた。


「そんなの……」


 新浪は何か言おうとして辞める。もしかしたら、言葉に詰まったんじゃなく、言おうとした言葉自体見つからないのかもしれない。


 まあ、どちらでもよかった。


「それで終わりだ」


 それなら、俺の意見を強引に押し付けられるから。


「じゃあ、そういうことで」


 そして、そのままの勢いに任せてそう告げる。そうすれば、俺自身も何も考えずに済んだから。


 これで良いんだと……勝手に思い込むことができた。


「それが、黒井くんの答えで良いんだね?」


 新浪に背中を向けて立ち去ろうとしたとき、背中に投げかけられた弱々しい問い。


 新浪に告白された俺の答え。


 それに「ああ」とだけ頷いて俺は立ち去る。


 当たり前だが、彼女がそれ以上問いかけてくることも追いかけてくることさえない。


 その事実にどこか寂しい感情を覚えながらも、俺はただ頭の中でひたすら……これで良いんだと言い聞かせた。


 新浪に変な噂があったのは、ただの周囲の誤解。それさえなければ、彼女は真っ当な青春をおくれる女の子に過ぎない。


 その可能性を……終わらせ屋なんてやっている俺が踏みにじっていいはずがない。


 それが分かっていたからこそ、俺は誰とも深く関わらないようにしてきた。


 だから、いつもの日常に戻るだけ。


 ただ、それだけだった。

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