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36話 最推しカプ、サクとクラスと出会う

「……なにか忘れてる気がする」

「課題は全て提出済みですよ。イグニス様から頼まれていた書類も今日出せば終わりです」

「そういうんじゃなくて……」


 デビュタントから一年経った。あと一年で卒業で、やたらイグニスからの宰相の誘いが多い中、なにか忘れてる気がしてならない。帝国の城にいるのも慣れてしまって危機感ないのが原因かしら。

 ひとまず書類渡して時間を作ろう。そうすれば考える時間がとれる。


「あ、ごめん」

「イグニス様」


 珍しく焦った様子でイグニスが部屋から出てきてぶつかりそうになった。


「ああ書類ね。それ、後でもらうよ」

「何かあったんですか?」

「個人的なことなんだけど、息子が熱出しちゃって」

「え?」

「なかなか下がらなくてさ」


 眉を寄せて笑う。

 待って待って。

 今フィクタは十七歳、ヴォックスとユースティーツィアが十六歳、シレとソミアが十五歳、クラスが十三歳、サクは三歳。本編ヒーローが生まれて三年も経ってた。


「ごめんね、息子のとこ行くから」

「はい」

「……」

「……フィクタ?」

「……」


 走り去ったイグニスを確認してから私を不思議そうに見下ろすエール。

 いやいや一番大事なところを見落としていた! なんてことを!


「イグニス様んとこ行く」

「分かりました」


 察したエールと一緒にイグニスが進んだ方、他国の要職が暮らすエリアに入る。そういえば帝都の城近くに要職の住むタウンハウス建てるとか話があったな……って、今はそんなことを考えてる場合じゃない。


「イグニス様!」


 追いついたら、イグニスは城内医師と話を終えたところだった。


「ごめんね、急なことで」

「いえ……その息子さんはどのくらい熱が下がらないんでしょう?」

「今六日目だったかな」


 あー……たぶんそれは小説通りのことが起きている。本編ヒーロー・サクはこの熱を出すことを機に精霊王たちが住む世界と繋がり聖女もとい聖人になる。彼はそれを繋がると表現していた。


「やばい……」

「フィクタちゃん?」

「イグニス様、いつものことですので」


 サクが繋がってしまうとあんまりよろしくない。

 聖人の器として成り立たないのに無理に繋がって、聖人の力をヒロイン・クラスの為に惜しみ無く使ってしまう。結果、身体にガタがきて血を吐きだす始末だった。鼻血なんて笑いのネタにしながら真実身を削る恐ろしいことをしていたなんて思わなかったし、あれがあってクラスが本当泣きそうだったんだから。

 本編の告白シーンをとるか、いやでも今の状況なら聖人の力はいらない。ないままハッピーエンドを迎えられるはずだ。ならヒーローの危機は回避してもいいはず。


「イグニス様!」

「あ、終わった?」

「はい。そのようです」

「独り言すごいね~! なに言ってるか速すぎて聞き取れなかったけど」


 なんでいきなりディすられてるの? まあいいけど。今はそれどころじゃない。


「ステラモリス公国の公女を呼びましょう!」

「ステラモリス?」

「城の医師ではお手上げでしょう? 治癒の力に特化してる一族ならサクた、げふんげふん、息子さんの熱も治してくれるはずです!」


 立場的に呼びやすいお嬢さんがいいでしょ! 留学的なやつって理由にしましょと推す。


「ステラモリスか……」

「もう大人の事情関係なく呼びましょう?! 息子さん早く助けないと!」

「うちの子そんなに心配してくれるなんて嬉しいね~」


 そりゃそうだよ! 本編ヒーローだよ? 一番大事なキャラクターだよ?! 最推しなんだってば!


「まあそろそろ会いたかったし、実際あの熱には手を焼いていたしね」


 打診してみよう、とイグニス。


「大丈夫です! 必ず来ます!」

「その自信どこからくるの」


 本編ヒロイン・クラスの誰かを治癒する考え方はそのへんの人間と大きく違う。彼女は求められる求められない関係なく治癒が必要だと分かれば躊躇いなく治癒魔法を使う子だ。だから今回イグニスが求めればクラスは絶対来る。なにより運命の相手がいるんだから惹かれ合って巡り合う王道はあるはずだ。その瞬間拝みたい。網膜に焼き付けたい。


「ありがと。よくなったら息子と会ってよ」

「ぜひ!」


 ヒーローとヒロイン並んでるところを見たいのでぜひ!

 まだ城滞在期間だからいけるしね!



* * *



「……なんでよ」

「仕事です」

「研修生に対して労働が過酷」

「議会の傍聴は必須ですよ」

「はあ……」


 議会傍聴と被るとかなんなの。

 残っている第一皇子派というか戦争過激派の目を盗んで息子の治療をすることでリスク回避するってのもあるだろうけど、そもそもその息子である本編ヒーロー・サクが熱を出してること自体一部の人間にしか伝わっていない。心配することないのに。小説の世界と違って、今のポステーロス城は穏健派が占めている平和な城だ。


「ほら、フィクタ。もうすぐ終わります」

「よし」


 終了と共に大人しく出る。でも出たとこでダッシュだ。

 そのつもりはなかったのだけど、私が走り込んでいる場面は割とあるらしく、周囲はいつものことだと生温かい。エールの兄であるマーロン侯爵が走らないよう小言を言ってるけど、いつも無視してるから大丈夫ね。


「イグニス様!」


 いけない、ノックもなしに開けてしまった。

 けどそんなマナー違反な気持ちはどこぞへ吹っ飛ぶ。目の前に、イグニスの隣に並ぶ少女の姿に涙が出そうだった。

 金髪の混じる白髪に、孔雀青の瞳。

 間違いなく本編ヒロインのクラスだ。生で拝める日がついにきた! 眩しすぎる!


「ふわあああ美しいいい!」

「……あ、えっと」


 戸惑う姿も可愛い! 小説の中で暴力を振るった人間と振るわれた人間がこうして顔を合わせるなんて不思議だ。そう思うと推しカプって私にとっての死亡フラグよね。特に最推しカプのサクとクラスは真実一番の死亡フラグ。でも拝む。推しカプの幸せの為にここにいるのだもの。


「はは、ぶれないねえ。うちの子の熱は下がったよ」


 そうだ! 一番はヒーローであるサクが無事かどうか。

 ステラモリス公爵家の治癒を使うんだから繋がらずに終わるでしょう、さあさあ無事な姿を見せて!


「え?」


 ベッドに寝ていた子供は上半身起き上がって枕を背にしてこちらを訝しいとばかりに視線を寄越した。

 金色の髪に薄い紫の瞳。


「え、金髪?」

「あー、熱出したら色抜けちゃったみたいでさあ」


 親子感が薄くなちゃった~なんて言ってる場合じゃないよ、父親! いやイグニスは知らないから仕方ない。元々金色の色素はあったけど金髪ではなかった。

 この金色の髪は精霊王がいる世界と繋がった証。

 聖人の外見の条件の一つ。本編でも二部で完全な金色になった。つまり、今目の前の本編ヒーロー・サクは繋がってしまっているということだ。


「う、う、」

「?」

「嘘でしょおおおおおおサクたあああああんんん?!」

いきなり現れた他人が叫び続けるとか(笑)。いやあ久しぶりですね! やっと出演しました主人公ズ!

サクとクラス待ってた!

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