長い通路
移動はあっという間だった。
桧毬に言われ、文也は目を閉じ手をつながれから十秒たっただろうか。体が浮くような感覚も髪の毛を揺らす一風もなかった。
桧毬から到着の声を聞き、目を開けると薄暗い空間にいた。
「ここが魔界?」
「そうなのだ。ここはエギュラメ様が管理する『暗書の間』で、エギュラメ様はこの通路の先で文也を待っている」
桧毬に『通路』と言われ、文也は左右に長い空間になっているのを確認した。
高い天井の先に闇色の金具でできた電気のような照明が数メートルごとに配置されている。
それよりも文也が気になったのは壁のように天井近くまで存在する棚であった。
棚というより普段、文也が学校で使用している下駄箱に近いものだった。学校の下駄箱と違い扉はなく、靴の代わりに紙の束が置かれている。
文也の記憶は似たような物を文也に画像で教えた。
テレビで見た郵便局の手紙を自動で振り分けていく機械で、書く配達エリアごとに置いていく棚と同じであった。
「桧毬、ここに置かれているのは手紙?」
「そうなのだ。暗書、偽造やハッキングとか、エギュラメ様が暗躍する類のメールや手紙は、すべて、ここに置かれてから、目的地に行くのだ」
2人の横を球体のモンスターが飛んで行く。
目玉が一つにコウモリの羽を持ち、一本足には筒状にした白い紙が握られていた。
そのモンスターは至る所に存在していて、忙しそうに移動する。
「彼らが襲いかかってくることはないから、大丈夫。
さあ、文也、エギュラメ様がお待ちだ」
「わかった」
2人は歩き出した。
世界中の暗書となるメールや手紙だけあって、棚は途切れることなくあり、モンスター達は無心に自分の役目を進める。
「………」
文也は、周りの光景よりも桧毬の背中をじっと見つめ、それから、口を開いた。
「桧毬は、本当にそれで良いのか?」
この通路を歩き終われば、桧毬は役目を終える。
「決まっている事だし。桧毬も望んでいる事なのだ」
「俺が頼んでみたら、考えを変えてくれるかもしれない。
それに修二は、消されたと決まったわけではない。
もし、あいつがひょっこり現れたら」
「………」
桧毬の足が止まったが、首は横に振った。
「桧毬は、じい様に会いたい。10年ぶりに『ヒマリ』と呼ぶ懐かしい声が聞きたいのだ」
文也は、それ以上、何も言わず、暗色の道を進んだ。




