翌朝
騒動の翌朝。
修二が目覚めると、文也は昨日と同じ場所に座ったままだったが、空っぽになったプリンの入れ物と、体を覆っていたシーツがない事に気づいた。
「おはよう、文也。座りっぱなしでケツ、痛くないか?」
「ああ、大丈夫だ」
「目の下にクマつくって大丈夫なわけないだろうが。だから、ベッド貸してやるっていったのに」
「寝れないから、構わない」
「体は大丈夫なのか?二階から落ちたって聞いたぞ」
「そうだったな……そういえば、足が痛かったような気がしたけど、あれ、痛くない」
文也は混乱してても、痛みを感じた右足を見た。裸足て地面を走りつづけて汚れているが、血の色はなく、足首を回しても痛みはなかった。
「まさかの無傷?」
「いや、きっとあの人が治してくれたのかもしれない」
「…………」
「修二、俺、考えてたんだ」
目が覚めたばかりで、頭が完全に起動していない修二をよそに、文也は語り始めた。
「何を?」
「俺、今まで疑問に思ってたんだ。子供の時からどうして好きな人ができないんだろうって」
寝起きの頭に先制パンチをくらった気がするが、そのおかげで修二の脳は一気に機能し始めてくれた。
「修二の散りまくりの恋を見ているから『恋しても実らない』と恋する事を諦めていたのかと思ってたけど」
「悪かったな、実りのない恋で」
「もしかしたら同性に興味あるのかと考えたが、部屋に隠してある物を見る限り、それはないだろうし」
「ベッドの下にある『問題集』と書かれたダンボールだろ」
「何で知ってるんだよ……」
「蛇の道は蛇というやつさ」
「……真似したくせに」
「俺の技は、もっと高度な技術を使ってる」
「……話を進める。
答えは、簡単な事だった。もう、好きな人がいたんだ」
それから文也は言った。
「俺はエギュラメさんと共に生きるよ」
「…………」
目覚めた脳でも、その言葉は修二を混乱するに値した。
「おいおいおい、文也、わかっているのか、それって」
修二はベッドを降りて文也に近づいた。同じく立ち上がった文也は一睡もしていないのだろう、見事なクマと騒動により少しやつれた顔をしていたが、目だけはらんらんとしていた。
「もちろん」
「その事については、桧毬ちゃんから聞いた、手紙の事。
文也、お前は魅了されているだけだ、魂を食われるために騙さ…」
修二は痛みと共に自分が後方に飛ばさている事に気づいた。
「お前でも、あの人の暴言は許さない」
今まで見たことがない怒りの表情をする文也が見下ろしていた。
「あの人は返事に10年待ってくださっている。想いに間違いはない」
「じゃあ、文也はどうなんだ? 17年の人生をふいにしてまで、好きな相手なのか?」
「ふいになんかじゃない。あの人と共にいるんだ」
「俺らを置き去りにしてまで?」
「……。お前だって彼女ができたら、俺たちをそっちのけにして、彼女とずっとだろう。それと同じだ」
「スケールが違う。顔を見せたり、たまには遊んだりできるが、お前の場合、二度とできないんだからな」
「それでも、構わない」
今度は文也が修二の怒りをくらった。
弱っている分、受けるダメージは大きいが、後方にベッドがあったおかげで、拳からの直接ダメージだけですんだ。
「この裏切り者、友達を捨てる気か」
「何が友達だ。友達だったら、応援しろよ」
「あっちの世界に行く奴き応援するわけがないだろ。行きたければ勝手にしろっ」
「ああ、勝手にするよ」
文也は修二に背を向けて歩き出した。




