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ゴートメール  作者: 楠木あいら
もっと近づきたいと思うのは愚かでしょうか?
22/32

翌朝

 騒動の翌朝。

 修二が目覚めると、文也は昨日と同じ場所に座ったままだったが、空っぽになったプリンの入れ物と、体を覆っていたシーツがない事に気づいた。


「おはよう、文也。座りっぱなしでケツ、痛くないか?」

「ああ、大丈夫だ」

「目の下にクマつくって大丈夫なわけないだろうが。だから、ベッド貸してやるっていったのに」

「寝れないから、構わない」

「体は大丈夫なのか?二階から落ちたって聞いたぞ」

「そうだったな……そういえば、足が痛かったような気がしたけど、あれ、痛くない」


 文也は混乱してても、痛みを感じた右足を見た。裸足て地面を走りつづけて汚れているが、血の色はなく、足首を回しても痛みはなかった。


「まさかの無傷?」

「いや、きっとあの人が治してくれたのかもしれない」

「…………」

「修二、俺、考えてたんだ」


 目が覚めたばかりで、頭が完全に起動していない修二をよそに、文也は語り始めた。


「何を?」

「俺、今まで疑問に思ってたんだ。子供の時からどうして好きな人ができないんだろうって」


 寝起きの頭に先制パンチをくらった気がするが、そのおかげで修二の脳は一気に機能し始めてくれた。


「修二の散りまくりの恋を見ているから『恋しても実らない』と恋する事を諦めていたのかと思ってたけど」

「悪かったな、実りのない恋で」

「もしかしたら同性に興味あるのかと考えたが、部屋に隠してある物を見る限り、それはないだろうし」

「ベッドの下にある『問題集』と書かれたダンボールだろ」

「何で知ってるんだよ……」

「蛇の道は蛇というやつさ」

「……真似したくせに」

「俺の技は、もっと高度な技術を使ってる」

「……話を進める。

 答えは、簡単な事だった。もう、好きな人がいたんだ」


 それから文也は言った。


「俺はエギュラメさんと共に生きるよ」

「…………」


 目覚めた脳でも、その言葉は修二を混乱するに値した。


「おいおいおい、文也、わかっているのか、それって」


 修二はベッドを降りて文也に近づいた。同じく立ち上がった文也は一睡もしていないのだろう、見事なクマと騒動により少しやつれた顔をしていたが、目だけはらんらんとしていた。


「もちろん」

「その事については、桧毬ちゃんから聞いた、手紙の事。

 文也、お前は魅了されているだけだ、魂を食われるために騙さ…」


 修二は痛みと共に自分が後方に飛ばさている事に気づいた。


「お前でも、あの人の暴言は許さない」


 今まで見たことがない怒りの表情をする文也が見下ろしていた。


「あの人は返事に10年待ってくださっている。想いに間違いはない」

「じゃあ、文也はどうなんだ? 17年の人生をふいにしてまで、好きな相手なのか?」

「ふいになんかじゃない。あの人と共にいるんだ」

「俺らを置き去りにしてまで?」

「……。お前だって彼女ができたら、俺たちをそっちのけにして、彼女とずっとだろう。それと同じだ」

「スケールが違う。顔を見せたり、たまには遊んだりできるが、お前の場合、二度とできないんだからな」

「それでも、構わない」


 今度は文也が修二の怒りをくらった。

 弱っている分、受けるダメージは大きいが、後方にベッドがあったおかげで、拳からの直接ダメージだけですんだ。


「この裏切り者、友達を捨てる気か」

「何が友達だ。友達だったら、応援しろよ」

「あっちの世界に行く奴き応援するわけがないだろ。行きたければ勝手にしろっ」

「ああ、勝手にするよ」


 文也は修二に背を向けて歩き出した。



 

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