109話 樹液の味と恍惚
周りが凄まじいと大人しくなるタイプ。
さあ、ようやくではあるがエルダートレントの濃縮樹液もといメープルシロップの味見だ!フェルは甘ーいとしか言わないから正直参考にならんし、しっかりと味合わないとな…気持ちを落ち着かせてまずは薄い方からそのままで頂きます!
妖精ガチ勢から受け取ったスプーンを使い、たっぷりと小皿から掬ったシロップを口に運ぶ。
「おお、確かにかなり甘い!」
『んむー♪』
ただ小皿に移した時も思ったけど、大分粘度が低くて舌に強く残るタイプじゃない。サラッとしていて味わいも雑味のない甘みがスッと口の中を抜けていくから他の邪魔をしなさそうな感じ――だ・け・ど!瓜を思わせる少し青さのある爽やか香りの後に、ナッツとバニラが合わさった上品な香りもやってくる素晴らしい風味のメープルシロップだ!
こりゃそのままパンケーキにかけても旨いけど、ラズベリーやブラックベリーとかの酸味が強めのベリー系を合わせて煮込んだベリーソースにすれば甘みが足されてバニラの香りがする最高の物が出来上がるんじゃないか?プロングさんの畑のキュアベリーで試させてもらえないだろうか…それに紅茶の中に加えても甘みと香りのブラッシュアップできるだろう極上の逸品だぞ…なぜここに無いのか!
『んぬ?』
「……おっと、1つだけに耽ってる場合じゃないな」
固まって口と鼻を少し動かしているだけなのを、何でそんな変な動きしてるんだとフェルが言ってきたおかげで戻ってこれた。確かに味と香りの確認って傍から見たら変な動きか…濃い方でもう1度するけどな!
「その前にかぼちゃおやきを割ってと…やっぱこの真っ赤な中身は慣れないな」
【吸血栗かぼちゃのおやき・品質3:中身に吸血栗かぼちゃを使用したおやき。食用:追熟しきっていない物を使用したため、ほっこりとして優しい甘さ。満腹度回復1つにつき15】
かぼちゃを1つ渡して貰ったときに皮がピンクだから驚いたけど、中身がトマトのように赤いからもっと驚いたぜ…どうやら完熟すると皮は真っ白になり中身がさらに赤くなる品種のかぼちゃだそうで、普通の物よりも追熟が必要な代わりに熟しきった物は非常に甘く熱するとトロリとした味わいになるそうだ…因みに追熟させずに切ると中身が真っ白だそうで。うーんファンタジー。
そういや他の野菜たちもちゃんと名前があるんだろうか?ウィーツさん達はこのかぼちゃのこと赤かぼちゃって言ってたし。
「後で畑で鑑定させてもらうか…あの時興奮しすぎて碌に鑑定してなかった気がする。このかぼちゃの名前は物騒だけど熟したのも是非食べてみたくなったし、他のも変な名前だったとしても逆に気になるよな!…うん、味見した時もそうだけど確かにほっくりしてる」
ジトーっとフェルが見てくるので、おやきを食べてその目線から逃れた。少し甘いシナモンのようなスパイシーな香りがおやきに使った小麦の香りと共にやって来て、あとからじんわりと甘みがやってくる…これでも十分旨いな?さらに甘くなるってのが想像できん。
『んむ!』
「そのまま味わってないで早くシロップを付けてみろって?…分かったから、せかすなせかすな」
味の共有をしたいのか早く食べろと手を振って言われるので仕方がない、んでは薄い方を付けていざ!……こりゃ凄い。シロップによってバニラや元々香っていたナッツの香りが更に追加されたのもそうだが、シロップのサラッとした甘みの後にかぼちゃの甘みが続いてやってくるから口内が幸せだ。それでいて最後は余韻を残しながらも香りと共にスッと抜けていく…瓜系の香りも南瓜と相性がいいし素晴らしいっ!
「これは濃い方が怖くなってきたな。ただキチンと判断をしたいから口直しがしたい…」
「良かったらお飲みになられますかな?」
思わず口から出た言葉が聞こえたのか、フォルクさんが陶器のコップを片手に声を掛けに来た。中身は水か?それとも樽に入っていた普通の樹液…明日ログインしたらそっちも飲んでみなければ。
「ああご安心ください、普通の水ですので。それに手洗いに使った水ではございませんよ?」
「そこは消したのを見ていますんで!ありがたくいただきます!」
「いえいえ、本当はおやつの時にも出せばよかったのですが。意外と水分もありましたから失念しておりました」
そう言えば水とかなかったなあの時…すぐ後に耐性薬飲んだから気にしてなかったわ。提供する側だし、こういうの用意しておくべきだろうか――いや、村を出た後はフェルと2人行動だろうし必要はない…よな?
その後口直しをして濃い方も味見をしたけど、やはりこっちは粘性が強くて舌に残るタイプだ。でも蜂蜜に比べるとサッパリはしてるぞ!それに勿論かぼちゃおやきとの相性もいい…カラメル化したちょっとした苦みのアクセントが俺好みだ!
「ナッツ系の香りに香ばしさはこっちの方が強いけど、バニラとかの華やかな香りは薄い方に軍配があるか…でも全体的な香りの強さはこっちだな。コクもめちゃくちゃ濃いって感じじゃないオールラウンダータイプだからそのままかけても良いし、クッキーの生地に練りこんでも旨いか?シナモンとか生姜加えたクッキーにしたら間違いない気がする」
『んぁ!』
食べたことないけど旨そうな気配がするって?シナモンに生姜は辛味のある香辛料だから本能的に感じているのだろうか…黒コショウのクッキーとかもあるし手に入ったら作ってみるのも有りだろうか?
「いや、その前にバーンベリーとこのメープルシロップでクッキーを作るのが先だな」
『あーぅ!』
やったーと俺の周りをクルクルと回るフェル。疲れる以前に目が回らんのだろうか……う~ん、こうなるとさらに味比べでサトウカエデのメープルシロップも欲しいが、ウェンスには自生して無い気がするんだよなぁ。俺からすると馴染みの無い微妙にコレジャナイという物ばかり見つかるんで、日本じゃなくてヨーロッパ当たりの植生なんじゃなかろうか…そういやシロツメクサって原産そっちだったような?
「……っは!私は何を!?どこか楽園にいたような気がするわ!」
あ、ピリンさんが帰ってきた。気絶してる間に居た楽園には妖精や精霊がいっぱい居るんだろう…小さいけど「うへへへ…まってー」とか聞こえてきたもの。
『んむ~』
「おはようフェルちゃん!私の楽園はここにあるわね!」
その楽園1週間以内には無くなるんだが大丈夫だろうか?テンションダダ下がりで生活に影響出たりしないことを祈ろう。
「それにしてもおやきを受け取ってからの記憶が無いわね…あれ?そのスプーンって」
「ほれピリン!早いとこ食べないと日が暮れるよ!」
「うぇ!?ああ本当だ!」
ナイスだウィーツさん!思い出されてもう一度気絶されたらたまったもんじゃない…下手すりゃループするだろうし。
「それに貴女には食べ終わった後一仕事ありますからね」
ピリンさんに一仕事?何かあっただろうかと首を傾げると、フォルクさんとウィーツさんの両名がとある方向に目を向けた。
ほわぁ~…
「おおぅ…」
目線の先には実に幸せそうな顔をしたパネットさんがいた。
改めてメープルを味見すると、結構違いがあって面白い。
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