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婚約者が悪役で困ってます  作者: 散茶
エミーリアの日記
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エミーリアの日記8


「湖が見えてきたよ、エミーリア!」

小高い丘を走る馬車の窓から顔を突き出して、ルーカスは楽しくて仕方がないというふうに大きな声でそう言った。

出会ってからもうすぐ二年は経つだろうか。

彼の体はこの短い期間で、少年から青年のものへと確実に変化していた。

身長などたてにすくすくと伸びたので、並んで立つと私とほとんど変わらないくらいだし、少し遅めの声変わりもついこの間終わったところで、あの可愛いソプラノボイスはもう聞けなくなってしまった。

ただ急激な成長に肉体が追い付かないのか、ひょろひょろと薄っぺらいのでそこだけはまだちょっと微笑ましい。


私は窓から吹き込む風で乱れる髪の毛を手で押さえ、ルーカスの横から顔を出してみた。

おそらくルーカスの言う湖こそが、今回の旅の目的地で間違いないだろう。

あとどれほどかかるか見て確かめようと思って、眉をひそめて目を凝らしたが、ルーカスがどこを指しているのかすらわからなかった。

「どこよ」

「ほら、あのキラキラしているところ!」

指差されたほうに目を凝らすと、遠くの木々の間が確かにキラキラと輝いているように見える。

あれが見えるとか、お前はどこぞのアフリカ民族並みの視力でもしているのか。

外を見るために浮かせていた腰をどっかりと下ろして、私はひょろ長い体ではしゃぐルーカスを怪訝に見つめる。

「なんでそんなに元気なわけ?お気楽なダンスパーティに行くわけじゃないのよ」

「わかってるよ。でもこうやって二人っきりになるのって久しぶりだろう?少しは楽しんでも罰は当たらないさ」

まったく能天気なものだ。こっちは人生はおろか、文字通り命がかかっているというのに。


生きると決めた日から早くも一年半が経っていた。

エミーリアが死ぬ原因が出産なのだとしたら、結婚すること自体が危険だ。子供は産まなくてもいいなんていう奇特な男がいれば話は別だが、そういった理由で好きでもない男と結婚するのも馬鹿らしい。それくらいなら最初からしなければいいだけだ。

とはいえ、エミーリアの息子であるベルンハルトはゲームの攻略対象であり、重要な人物でもある。

彼が存在しなくなることで、もしも取り返しのつかないことが起きてしまったら……。

そんなもしもの不安が頭にこびりついて離れなくなって、だからといって絶対に起こるともいえない出来事のために諦めることも、知ったこっちゃないと知らん顔することもできずに、一人ベッドにもぐりこんでは奇声をあげ頭を掻きむしる夜が続いた。

そして悩みに悩みぬいたあげく、私は決心したのだ。

やるならば、できる範囲で徹底的にやってしまおうと。

何か一つを変えてしまうくらいなら、シナリオという私の知る仮定の未来から現実をできる限り離してしまえばいいのだ。

どうせやるならとことんやってしまえばいい。

どうせ悩むのなら、背負いきれないほど大きい罪悪感になればいい。

そうすればもうないのと同じだ。


とはいえ私が介入できる物事にも限りがある。

すでにアロイスやヨハンの両親は結婚してしまっているし、辺境の伯爵家であるダリウスの実家には手の出しようもない。ヒロインであるライラは確か養女だったから、両親を特定するのは困難だ。

となれば残る重要な登場人物は一人、メインヒーローのエドウィン王子ということになる。

まだ彼の父であり、現王太子のフリッツ殿下は幸いなことに未婚だ。

彼が本来妻にするはずの女性とは違う女性と結婚すれば、大きな流れがかわるはずだ。なぜならゲーム内では『王妃』もまた重要な人物なのだから。


私はレトガー公爵から渡されたリストを取り出し、もう何度もそうしたように開く。

フリッツ殿下の婚約者候補のリストだ。

上から順に最有力だと判断された者で、名前の前に丸が付いているのが公爵にとって王妃になることが望ましい者である。

おそらくこのリストの上位の誰かがゲーム内で権力を誇っていたエドウィン王子の母、本来の『王妃』なのだろう。

残念ながら『王妃』は登場回数のわりに、彼女自身の名前は明かされていない。まるで悪役の記号としての『王妃』でしかないとでもいうかのように。

彼女はメインヒーローの母とは思えないあくどい性格で、ルートによってはラスボスのような存在になったりもする。

確かエドウィンルートの最後の方で、王子がベルンハルト関連で母の悪事も知ってしまうという展開があったはずだし、ダリウスのルートは完全に彼女と敵対する内容だったから出番も多かった。

これらゲームの知識と、独力で今日まで集めた情報をもとに、私は公爵のリストから候補者を絞っていった。

そして一番可能性が高いと判断したのが、キルステン侯爵家の娘テアだ。

キルステン侯爵家は侯爵の中でも比較的歴史が浅いが、同じ侯爵で穏健派のリートベルフなどと比べると力の差は歴然であり、政界でもそれなりの力を持っている。

テア自身の性格は派手好きで、好き嫌いが激しく、学園では女王のように振舞っているらしい。

ちなみに腹立たしいことにテアの名前の横には、王妃にしてもよいという印の丸が付いている。つくづくレトガー公爵とは気が合いそうにない。

一つ違いの妹もいるが、こっちは内気でおとなしいという噂だから『王妃』のイメージとは合わないし、噂では姉であるテアにとても従順なのだそうだ。

次に可能性があるのはフロイデンベルク侯爵家の娘だが、こちらは少し歳が行き過ぎているような気がするし、その下の候補者は事前調査で恋人がいるということが分かっている。

とはいえ誰もが『王妃』の可能性を秘めていると言わざるを得ない。

こればっかりは実際に会ってみて、エドウィンと顔が似ているかとか、性格とか、権力への執着とかそこらへんを見て判断するしかないだろう。なんとも心もとない話だ。

とはいえ明るい話もある。

一人だけ、絶対に『王妃』ではないと言い切ることができ、そのうえ公爵のおすすめでもある人物がいるのだ。

そのことに気づいた時、私は彼女こそが私が王妃にするべき人間なのだと直感した。

まずは首尾よくその人物と懇意にならなければならない。その後、どんな手を使ってでも彼女を王妃にする。なんがなんでも、そうしなければならない。


そして決戦の場所である交流会は、王家が所持する美しい湖畔のボートハウスで行われることになっていた。

先ほど窓の外に見えた湖が、おそらくそこだろう。

交流会なんてもっともらしい名前だが、ようはフリッツ殿下のお見合いで、独身の令息もおまけとして呼ばれているらしいのでもうただの婚活パーティ、お見合い大作戦である。

おかげで現状いい歳して婚約者がいないかわいそうな女である私も、もれなく招待していただけたわけなのだが。ルーカスは年齢的に若すぎるということで微妙だったが、レトガー公爵に頼み込んでねじ込んでもらった。

今回のことに関して、公爵とは交渉じみたやり取りを行ったのだが、彼の言ったことをまとめると以下のような感じだ。

「私が何かするまでもなく、王妃の座には好ましい人間が収まるだろう。まぁ多少の諍いや不測の事態はおこるだろうがね。その時、お前が見事な働きを見せて己が有能だと示してくれたら、少しはお前の言い分を認めて多少の自由を与えてやってもいい。ああ、ルーカスを連れて行くのもかまわないよ。お前が結婚してしまった後では共に過ごすことも難しくなるだろうし、最後の思い出作りにはいいかもしれないな。それに私が止めてもあの子は勝手についていくだろう。まったく誰に似たのやら……」

勝手に私が失敗すると決めつけるなと反発したかったが、面倒だったので我慢した。いつまでも反抗期を気取るのはなんだか格好が悪い。

そんなこんなで公爵からはたいして協力もしないが、阻みもしないという約束をいただいたわけで、様々な準備ののち、私はルーカスとともにボートハウスへ向かう馬車に乗りこんだのである。


開け放した窓から吹き込む風は強く、ルーカスの重たい前髪もめくれあがるほどだった。

その横顔は子供らしい丸みが抜けて、随分シャープになってきたような気がする。

出会った頃はまだほんの子供だった彼だが、二年近くも私はその成長を見守ってきたのだ。

彼が少しずつ私の知る大人のルーカスに近づいていく様は私を喜ばしいような寂しいような腹立たしいような、なんとも複雑な気持ちにさせる。全てが決まったところに落ち着いていくのを見せつけられているような気になるからだ。

でも総括すればやっぱり嬉しさが勝るわけで、今もめくれた前髪から覗く彼の黒い瞳は、びっくりするほどに大人びた、どこか深慮そうな輝きを秘めているように思えた。

「楽しみだなぁ、エミーリアと二人でボートに乗るの」

……前言撤回だ。

さっきのはちょっと贔屓目が過ぎたようだ。こいつはアホだ。何も有益なことなど考えちゃいないし、頭の中は花畑に違いない。

「そんなに私と一緒なのが嬉しいわけ?」

呆れかえってそう尋ねると、彼はなぜか鼻息を荒くしてこう答えた。

「当たり前じゃないか。あの日から僕らお互い忙しくて、こうしてゆっくり話すのだって久しぶりなんだよ?」

「よく言うわ。まとまった時間がとれないからって早朝でも深夜でも時間かまわず押しかけて、紅茶をいれてくれだの、ちょっとスケッチさせてくれだのやりたい放題だったじゃない。あのね、言っときますけど、私だって忙しかったの」

「でもエミーリアは僕のこと追い返したりしなかった」

「それは……」

思わず言葉に詰まってしまった私に、ルーカスはふへへと気持ちの悪い笑顔を浮かべる。

「大丈夫、わかってるよ。エミーリアも僕のことが大好きだってこと」

「調子に乗るな!」

首根っこを捕まえて拳骨を落とすと、大げさに痛がる声があがった。

そんなに強い力で殴ったわけでもないのに、頭をさすりながらルーカスは少しだけ真面目な話をするときの顔になる。

「エミーリアがフリッツ殿下に興味を示した時はどうしようかと思ったけど、まさか未来の王妃様に取り入って父上に反抗しようとするとは思わなかった」

ルーカスには本来の目的を話すわけにはいかなかったので、未来の王妃に取り入って公爵の支配から逃れられるだけの権力を手に入れようと思っているということにしてある。

女の身で権力を手に入れるための道はいくつかあるが、最も簡単なのは親から爵位を継ぐことだろう。どんなに小さな領地だろうと、一国一城の主になれる。

しかし私は養女だし、義理の兄弟は多くいるわけなので、その次に容易な方法をとるしかない。

つまり王宮勤めで出世することだ。

公爵の娘という高すぎる身分がネックだが、王妃の身の回りをし、話し相手をする私室付女官としてならまぁ悪くはないし、ゆくゆくは女官長になることも十分可能だろう。

事実、そういう副産物を期待していないわけでもない。

そしてお金をためて、いつかは叶えたい夢もある。


「フリッツ殿下は私の血の繋がった本当の兄なんだから、別に興味くらい示してもおかしくないでしょ」

「そうかな?エミーリアは基本的に人に興味ないだろう。自分も含めて。僕はそういう非人間なところ好きだけど」

「いちいち一言多い」

誰が非人間だ。私はいたって普通の人間だし、どちらかといえば非人間くさいのはルーカスだろうに。

「それに自分に興味がないっていうのも違う。……少なくとも今は」

そう、少なくとも今は、生きていくことに前向きだし、その分自分にもちゃんと関心を持てている。夢を見ているような感覚はまだ完全には拭えていないけれど。

「そう?それならよかった。僕の好きな人のことを、エミーリアには好きになってもらいたいから」

「よくもまぁそんな歯の浮くようなことを……」

最近ませてきたのか、ルーカスからのアピールが凄い。

事あるごとに愛をささやかれるので、もう正直食傷ぎみだし、ほとんど右から左に受け流している。

前世ではあんなに好きだったキャラ(しかし年下)に愛をささやかれるなんて、どんなご褒美かと思うかもしれないが、現実は言われすぎて愛の言葉の価値が大暴落だ。

そういうのは、もっと大事にしなさい!甘い言葉囁けばいいと思っているのか?乙女ゲームを舐めてもらっては困る。我々は古今東西ときめきを探し、吟味しているのだ。わりと守備範囲が広くて、なんでもときめいてしまうこともあるけれども!

などと私がくだらないことを考えていると、ルーカスが妙に静かなことに気が付いた。

どうかしたのかと見やると、彼は唐突に私の手を取り、ぽっかりと空いた穴のような真っ黒な瞳で微笑む。

「この先どんなことがあろうとも、僕はエミーリアのためならなんだってしてあげるからね」

真っ黒な瞳に吸い込まれそうだと思った。

ルーカスの私にたいする盲目は近頃度を超しているようで、少し怖い。

けれど自分の絶対的な味方がいるという事実が、勇気を与えてくれるのも確かだった。

「じゃあ、せいぜい私のために頑張ってちょうだい」

私が絞り出した言葉に彼は無邪気に頬を赤くして、にっこりと笑みを深めた。

それにこちらも少しだけ微笑み返して、私たちはしばらくの間言葉もなく見つめあう。

そうこうしているうちに、馬車が速度を緩め始めたことに気が付いた。

もう着いたのだろうか。

完全に止まったので、外を確認するとボートハウスらしき屋敷の門が見えた。

思ったより早かったなと思いながら、降りる支度を始めようとした時だった。

対面に腰かけていたルーカスががばっと覆いかぶさってきたのだ。驚きのあまり目を見開いて固まった私の頬に何か湿った柔らかいものが触れて、離れた。

キスされた箇所を手で押さえてポカンとする私を見て、おかしいそうにクスクス笑ったルーカスは次の瞬間脱兎のように馬車から飛び出していく。

それを見て正気に戻った私は、飛び出していったルーカスに向けて大声で叫んだ。

「このマセガキー!」

ボートハウスを前にして、なんとも締まりのない、まったくもって先が思いやられる始まりであった。





まだ参加者の半分も集まっていないらしく、ボートハウスは想像よりも静かだった。

出迎えた使用人がひとまず部屋に案内するというので、きつい拳骨を落としたのに上機嫌なルーカスに引っ付かれながら、ボートハウスとつながっている宿泊用の屋敷内をぞろぞろと歩く。

水辺特有の湿っぽくひんやりする空気を嗅ぎながら、早くも緊張に体が強張っている気がした。

上手くやれるだろうか。

……いや、やれるだろうか、ではない。うまくやってみせる。みせなければならない。

気をぬくとひょっこり顔を出す不安を封じ込め、穏やかな午後の光を睨みつけながら私は進んだ。


「こちらのお部屋をお使いください」

導かれた先にたどり着いた扉にはバラが描かれていた。元は濃い赤だったのだろうが、経年劣化のため黒ずんで見える。

隣の部屋との間隔を見るに、結構広い部屋のようだ。

腐っても公爵令嬢、そこらへんの待遇はいいらしい。

ラッキーだったなと能天気に思いながら、使用人が部屋の扉を開くのをぼんやりと見つめた。

そして中にいた男女と目が合った。

部屋の中にいた男女はこうなんというか、絡み合っていて、完全にあれだった。あれというか、しけこんでます!って感じ。率直に言ってしまうとおっぱじめる五秒前。

「教育に悪い!」

使用人が困惑して固まってしまったので、とっさにそう叫んで扉を力任せに閉めたがたぶん私の判断は間違っていなかっただろう。数秒遅れて扉越しに女の悲鳴が聞こえた。

な、なんなんだ……!?なんなんだ一体!?

あんな、は、破廉恥だ!しかもこっちには未成年がいるんだぞ!

慌ててルーカスを見ると、彼は何食わぬ顔で、なんで人が入ってるのと訪ねてくる。

いや、私が聞きたいんだけど……。

私たちが困惑していると、扉が内側から開かれ、男が姿を現した。

「ごめんごめん、空き部屋だと思って使っちゃった」

戸口に現れた男を見た瞬間、私の中に湧き上がったのは怒りではなく純粋な衝撃だった。

そう、早い話、非常に、いやもうびっくりするくらい、その男が私好みの顔立ちをしていたのだ。

髪は短めで綺麗な銀色。涼し気な切れ長の目に、唇は薄く、顎がほっそりとした中性的な美貌だと言える。どことなく軽薄そうな感じがするのだが、ブルーの瞳は思いがけず冷徹そうな色合いをしていてそれが意外というか、なんかポイント高い。

まるで私の好みを熟知した誰かが作ったような顔だった。

ちなみにルーカスは好みの顔かと聞かれれば普通である。ルーカスには我がオタク心の琴線に触れるダメな男要素が詰まっていただけで、見た目については好きになってから格好いいと思うようになった的なあれなので、純粋な好みとはまた別なのである。

いやそれにしても、凄いな……。なんだお前、対私顔面最終兵器か?ってくらい格好いい。

というわけで少々見とれてしまってから、はっと私は我に返った。

顔面は非常に好みだが、こいつは私が泊まる予定の部屋でおっぱじめようとしていた不届き者なのだ。

キッと睨みつけようとしたのだが、顔面は好みだったし、急いで羽織ったシャツがはだけて白い胸板が見えているしで、どこを睨めばいいのかよくわからなかった。

「どこからどう見ても、こんないい部屋が空き部屋なわけないでしょ。馬鹿なの?」

悔し紛れに冷たくそう言い放つと、男は薄い唇で緩い弧を描く。

「じゃあ、そういうスリルを楽しんでたってことで」

そういうスリルってなんだ!

本当に人の部屋で何やってたんだお前!

背後で必死に服着ようとしてる女の人が見えてんだよ!

依然として教育に悪いので、ルーカスの目を手で覆う。

「あなた露出狂か何かなの?人に見られないと興奮しないとでも?」

「残念だけどそっちのけはないかな」

「じゃあちゃんと服を着てくださる?見苦しいわ」

というか目のやり場に困る。

私は必死に男の胸にもじゃもじゃの胸毛が生えている様子をイメージして、突然現れた好みの顔面に照れてしまいそうになるのを耐えた。クソ、お前なんかギャランドゥにしてやる。

「君、面白いね。名前教えてよ」

「そっちから先に名乗りなさいよ」

「そうだぞ、僕のエミーリアに気安く話しかけるな」

目を覆っていた私の手をはねのけて、ルーカスは不機嫌そうに低い声で言った。

「へぇ随分かわいい恋人を連れてるんだね」

「残念ながらこれは私の弟よ」

「そう?それはよかった。俺はクレイグ・ブルンスマイヤー。さぁ君が名乗る番だ」

ふーん、随分態度が大きいと思えば、公爵家の人間なわけね。

残念だけど、私だって公爵家の……。

……クレイグ・ブルンスマイヤー?

ブルンスマイヤーってあのブルンスマイヤー公爵家?

「ま、まさかブルンスマイヤー公爵の跡取りの……」

「そうだけど」

クレイグは平然と肯定する。

ということは、この顔面が好みドストライクだけど、どこからどう見てもちゃらいこの男がゲーム内でエミーリアと結婚する男だということで、つまりは私が結婚するかもしれない男であって……?


「どうかした?」

いつまでも黙り込む私を怪訝に思ったのか、クレイグが顔を近づけてくる。

さらさらと絹糸のような銀髪が揺れて、男物の香水の良い匂いがして……。

「顔が近い!」

パニックに陥った私は、気が付くとクレイグの腹にそこそこいいグーパンチを放っていた。


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