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エピローグ 夢をつなぐ夢。

 あのループを繰り返した夏から、十年が経った。


 星まつりの夜。

 会場の広場にはたくさんの屋台が並び、天体観測をしたいという家族連れや天体観測ファンが集まっていた。


 白衣を羽織ったソラが天体望遠鏡を設置して、まつりに来た子どもたちに説明をする。

 ひとりひとり交代で望遠鏡のレンズを覗いて、歓声をあげる。


「すごいね青井先生、天の川すごくきれいに見える!!」

「青井先生! わたし双子座なんだけど、どこにあるの? あれ? それともあっちの星?」

「双子座は冬の星座なんだよ。だから、残念だけど今の時期は見えないんだ」

「ええー。そうなの? 季節で変わるの?」

「そう。僕たちのいる地球が一年かけて宇宙の中を動いているから。今見ているこの星たちも、冬になると見えなくなる」


 ソラはかがんで子どもたちに目線を合わせ、穏やかに星の説明をする。


「地球は動いてるの?」

「そう。地球は動くしまわる。だから昼と夜があって、季節が変わるんだよ。地球回らなかったら、一日中夜の国と、一日中昼の国ができる」

「おれ、一日中夜がいい! ずっと寝てられるもん!」


 子供ならではの突飛な発想をきいて、スタッフたちは和やかに笑う。

 ソラは微笑み、男の子に子ども向け教本の一ページを開いてみせる。星の気温に関する本だ。


「あはは。でもほら、これを見て。昼が来ないと、花や野菜……植物が育たなくなってしまうよ。それに太陽の光で星が温まらないと、とっても寒い星になってしまうんだ。一年中長袖でコートを着ていないといられないくらいにね」

「ええぇー! それはやだ!」


 昔はここで、ソラも「星を教わる側」だった。

 大学卒業後は東京の天文台に就職して、天文学教室の教員をしている。


 仕事の一環で、故郷の星まつりで子ども天文教室の先生をするため応援にきていた。


「僕、大人になったらここで働きたい!」


 そう言っていた少年は、今、約束を果たして先生と呼ばれている。

 ふと、年配の先生日高(ひだか)がソラの肩を叩いた。


「青井君、子どもたちに人気だね」

「ありがとうございます、日高先生」


 謙遜しながらも、ソラは嬉しそうに微笑む。

 日高は夜空を見上げ、ふと呟いた。


「君も、子どもの頃にこのまつりに来ていただろう? そのとき、"大人になったらここで働きたい"って言ったのを今でも覚えているよ」


 ソラは少し驚いて、日高を見る。

 星まつりで日高にその話をしたのは、ソラがまだ六歳の頃だ。


「……もしかして、覚えていたんですか? 二十年は前のことなのに」

「当たり前だろう。そう言ってくれる子は何人もいるが、本当にずっと星を追い続けてここに戻ってきてくれる子はひと握りだ。天文教室をしていて、これ以上嬉しいことはないよ。ああ、年を取ると涙もろくなっていかんな」


 日高はメガネをおしあげて、ハンカチで涙を拭う。


「僕も、今の子たちに夢をつなげているといいです」

「それは良いな。あの子達の誰かが戻ってきてくれるか見届けるためにも、わたしはあと二十年は健康に生きないといけないなぁ。ハッハッハ」


 御年六十でこんなに元気なお方だ。二十年後でも、新しい先生の誕生を見守っていそうだ。



 ソラの姿を、少し離れた場所から夏美と娘の未来(ミラ)が見つめていた。


 未来(みらい)と書いてミラ。くじら座の星の名前だ。

 ずっとループから抜け出せずにいた日のことを考えて、二人で話し合って決めた。


 時が進む未来を生きられるように。


 ミラはさっきまでは「おほしさまたくさん!」とはしゃいでいたけれど、目をこすり、あくびをしている。


「まま、ミラ、ねむい」

「そっか。そしたらパパに、もうお部屋で寝るねって言ってこないとね」


 腕時計を確認すると、もうそろそろ二十二時になろうとしていた。

 三歳でこの時間まで起きているのは、なかなか難しい。立ったまま寝てしまいそうだ。

 夏美は娘の肩にブランケットをかけて抱き上げて、背中をトントンとなでる。


「ソラ。ミラはもう眠いって。先に部屋に戻っているね」

「わかった。僕も片付けが終わったらすぐ行くよ。ミラ、おやすみ」


 ソラは眠そうにしている娘の頭を優しくなでる。

 顔は父親(ソラ)似だけど、性格は夏美に似てちょっとぼんやりしている。


「ねえソラ。いつかミラも起きていられるようになったら天体観測会したいね」

「親子三人で天体観測会か。早くそんな日が来たらいいな。そうしたら朝まで星のことをレクチャーするのに」

「もう。さすがに子どもに徹夜させちゃだめよ」


 中学生、高校生ならいざ知らず、三歳児には無理だ。

 


「あと十年もしたらできるさ。その日が来るのが楽しみだ」

「そうね。私も、待ち遠しい」




 夏美は宿の部屋でミラを寝かしつける。

 ミラは黄色いネコのクッションがお気に入りで、これがないと眠れないからお出かけのとき必ず持ってくる。

 夏美が高校生のときから使っているから布地がくたびれて、黄色の鮮やかさも褪せてきている。でもミラはそんなことお構いなし。クッションを抱っこしたまま寝ている。


 仕事を終えたソラが戻ってきた。

 誰かとの通話を終えて、スマホの電源をオフにする。


「誰から?」

「リク。明日の星まつりに、カナタとヒナタを連れて来るってさ」


 夏美は目を瞬かせた。カナタとヒナタは、リクの息子だ。

 リクはスポーツトレーナーになり、職場の女性と結婚した。

 リクが彼女(現奥さん)と付き合い始めたときは毎日有頂天の「俺の彼女が天使すぎる」メッセージがソラにとどき、ツーショット写真も添える。

 結婚したあとも、双子が生まれたときも、「うちの嫁と息子が可愛すぎる」と送ってくる。

「毎日のろけないでよ、うっとうしい」とソラが塩対応するのも定番となっている。


 時が経つのは早いもので、リクの息子たちは今年で五歳になる。


「カナタくんとヒナタくんも来るのかー。ミラが喜びそうだね」

「リクのほうが先に父親になったのが、いまだに複雑だよ」

「それはー、誰かさんができる限り二人きりの時間がほしいって言ったからでしょう」


 その誰かさんは夏美を抱きしめて、首筋に顔を埋めている。

 結婚したあと、『大学卒業したら夏美とのこどもが欲しいけれど、夏美とイチャイチャする時間が減るのも惜しいからこどもが生まれたあともイチャイチャ時間は削らないで』という、めちゃくちゃな要求をしたのである。

 釣った魚に餌をやらない、結婚したらモラハラ化なんて話をよく聞くけれど、ソラの辞書にそんな言葉はない。


 夏美がつわりで起き上がれなかったときは夏美の分の家事をこなし、ミラが夜泣きしたときも率先してあやした。

 仕事の休みはすべて家族の時間につぎ込むし、入籍から十年経っても毎日「夏美大好き」と言う。

 家族に全力の愛を注いでいる。


「物心つく前から一緒にいたのに、まだ二人の時間が足りないなんて欲ばりなパパですねー」

「あいにく、僕は彦星みたいに年一の逢瀬で我慢するような出来た人間じゃないよ。今はミラが寝てるから、パパじゃなくてソラの時間」


 仕事のときのキリッとした姿はどこへやら。ソラは子どもみたいに無邪気な顔で笑う。


「さすが私たちの写真をスマホの待ち受けにしている人。一味違う」

「仕事中は会えないじゃないか。だから研究室の机にも写真を置いているよ。でもやっぱり写真じゃなくて本物がいいな。夏美」


 二人のときはミラよりも甘えん坊だ。平気でこんなことを言ってのける。

 好きな人にこんなにも愛されて、嬉しくないわけがない。

 ソラが愛を口にするたびに、夏美の胸はあたたかい気持ちで満たされる。


「私もだよ、ソラ。大好き」



(……あのときは、こんなふうに未来が続いていくなんて、思いもしなかった)


 自分の鼓動が大きく聞こえる。夏美はソラの背に手を伸ばして、胸に頬を寄せる。

 ソラも夏美を抱きしめて、無邪気に笑う。

 夏美もソラも、たしかに生きてここにいる。





 ループを抜けた先で、夏美たちの時間は進んでいく。

 ずっとずっと。




 END

 

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