第八十一話 鼠人の巣穴
ーー翌朝。
朝食を済ませたアレクたちユニコーン小隊は、夜営を片付けて再び捜索を始める。
帝国軍の装備は、ほぼミスリル製であり、ほとんど重さを意識することは無かったが、背嚢の水や食糧、夜具などは結構な重量であり、平地ならまだしも、それらを背負って山岳地帯の森林を進むことは、それなりに大変であった。
アルは、森の中を歩きながらアレクに尋ねる。
「なぁ、アレク。どこまで捜索するんだ?」
「……携行食糧は七日分。片道三日半までが行動限界だよ。行けるところまで、行こう」
ルイーゼも口を開く。
「食糧を現地調達できれば良いのだけど……兎や栗鼠といった小動物はおろか、木の実も無いわね」
トゥルムも口を開く。
「おそらく、鼠人が食べ尽くしたのだろう」
ドミトリーも口を開く。
「水の補給も重要だ。既に一日が過ぎている。行動できるのは、残り二日半か」
アレクたちが森の中を進んでいると、ルイーゼが森の異変に気付く。
森の下草や藪に、何者かが通った後のように分かれ目が出来ている。
ルイーゼが呟く。
「これは……? 獣道?」
ルイーゼは、アレクを呼び止めると、下草を掻き分けて地面を確認する。
「待って、アレク! ……見て、足跡がたくさん……どれも人のものじゃない」
ルイーゼは、中堅職の暗殺者であり盗賊や斥候の技能に長けていた。
アレクも地面の足跡を確かめるルイーゼの傍に来て見分する。
アレクが口を開く。
「……これは、鼠人の足跡?」
ユニコーン小隊は、ルイーゼを先頭に獣道の足跡を辿って行く。
しばらく歩くと、樹齢千年は越えているであろう巨木の根元まで足跡が続いていた。
アレクたちが巨木の根元の下草を掻き分けると、人が入れるほどの大きな穴があり、その中に足跡は続いていた。
アレクは口を開く。
「木の根元に穴? ……洞窟?」
ルイーゼは穴の壁を指先で触れて調べる。
壁には、爪のようなもので掘り進んだ跡があった。
「……自然に出来たものではないわ。……ホラ、ココ。掘った爪痕がある。」
ルイーゼが指し示す爪痕を見たアルは軽口を叩く。
「随分とデカい爪痕だな。……どんな化物だ? それとも怪物か何かか?」
トゥルムはアルに答える。
「化物と怪物のどちらにしろ、どちらとも会いたくないな」
エルザは、穴の入り口を見て口を開く。
「……これ、鼠人の巣穴じゃない? 奴ら、地面に穴掘って住んでるみたいよ。村の長老が言ってた」
ナディアも口を開く。
「……鼠の巣って、お世辞にもきれいな所じゃないわよね。……中に入るのは、あまり気乗りしないわ」
ナタリーも呟く。
「……怖い」
アレクは結論を出す。
「……とにかく、中に入って調べてみよう。鼠人の巣穴なら、ここが『霊樹の森』だという事だし、今の時点じゃ、ここが『霊樹の森』かどうか、確証が無い」
アレクの言葉を聞いて、ルイーゼは中に入って行く。
「行きましょう」
アレクたちユニコーン小隊は、松明を片手に穴の中に入って行く。
穴は、傾斜の付いた坂が五メートルほど続くと、広い地下道に出る。
地下道は、二メートル半ほどの広いものであった。
アレクの顔を生暖かい空気が撫で、松明の炎も風になびく。
アレクは口を開く。
「……風が吹いてる。どこかに続いているみたいだ」
アルは軽口を叩く。
「通路ってことか。……敵さんがウヨウヨいるかもしれないぞ?」
アレクは答える。
「万が一に備えて、陣形を組んで進もう」
小隊は二列縦隊を組み、地下道を進む。
先頭は、盾を手に持ち装甲の厚いアルとアレクが務める。
二列目が三又槍を持つトゥルムと暗殺者で飛び道具と盗賊系スキルを持つルイーゼ。
三列目が魔導師のナタリーと修道僧のドミトリー。
最後尾は、後ろからの攻撃に備えて、剣士のエルザと近接戦もできるナディアが並ぶ。
アレクたちは陣形を組んで、傾斜の付いた地下道を歩き、地下深くへ降りて行く。
小一時間ほど地下道を進むと、暗い地下道から急に明るい広大な空間に出る。
空間を照らしている青白い光がアレクたちの目を眩ませる。




