第七十七話 捜索開始
-- 一週間後。
帝国軍は、トラキア連邦領のほとんどを掌握しつつあった。
降伏式で連邦議長のフェリシアが連邦政府を代表して無条件降伏を宣言した事により、トラキア連邦軍の過半数である約三万の将兵は帝国軍に投降したが、トラキア第二の都市カルロフカなど都市に立て籠もって帝国軍に対して抵抗を続ける部隊もいた。
帝国軍は、連邦軍が立て籠もる都市への直接攻撃はせず包囲するだけに留め、鼠人討伐を優先させて、その制圧地域を平野部全域に広げていった。
結果、鼠人は帝国軍によって駆逐され、平野部や帝国軍支配地域でその姿を見ることは稀になり、その本拠地である『霊樹の森』に立て籠もっていると思われた。
帝国軍がトラキア連邦領内で、その制圧地域を広げていけばいくほど、トラキア連邦領内での黒死病の伝染は収束していった。帝国とトラキアの公衆衛生レベルの違いからであった。
トラキア連邦領内の一部の都市に残る連邦軍抵抗部隊と鼠人は、帝国軍に比べて脆弱であるため、帝国軍は首都ツァンダレイに警戒部隊と、連邦領内に展開する一般兵科からなる地上部隊五万を残して、帝国-トラキア国境まで軍主力を移動させる。
帝国軍によるトラキア連邦の制圧と鼠人の討伐は、成果を上げ成功していた。
残るは、残存連邦軍二万が立て籠もるトラキア第二の都市カルロフカ。そして鼠人の本拠地『霊樹の森』の捜索であった。
ジークは、ジカイラ率いる教導大隊に国境北部にあるという『霊樹の森』捜索を命じた。
ヒマジン伯爵率いる帝国機甲兵団は、国境に広がる起伏のある原生林地帯の捜索には、不向きな兵科であったためである。
帝国機甲兵団の蒸気戦車は、平野部ではその威力を余すことなく発揮したが、森林地帯には入ることが出来なかった。
教導大隊は、飛行空母から揚陸艇で国境北部の原生林地帯に降下し、一定間隔で小隊を地上に配置して捜索を開始。
地上に着陸した揚陸艇を捜索本部として、ジカイラとヒナが揚陸艇に待機。
アレクたち、ユニコーン小隊も揚陸艇で地上に降下して、原生林の中で捜索任務を始める。
アレクたちは陣形を保ちつつ、原生林の中を進んでいく。
アルが軽口を叩く。
「……なぁ、アレク。オレたち、森の中を進んでいるけどさぁ……。どうやって『森』の中から『森』を探すんだ?」
アレクが答える。
「森の中を歩いて探すしかないだろ? 空からじゃ全く見分けがつかないんだし」
ルイーゼも口を開く。
「『霊樹の森』は、国境の北部にあるらしいけど捜索範囲が広大ね……」
ナタリーが答える。
「焦らず気長に行きましょう」
トゥルムが口を開く。
「……隊長、夜営は早めのほうが良いだろう。森の中を進むのは、想定より時間が掛かるし、体力を消耗するぞ」
ドミトリーも口を開く。
「小隊で夜営なんて、初めてじゃないか?」
エルザも口を開く。
「みんなでキャンプね!」
ナディアも口を開く。
「楽しそうね。テントは飛行空母の部屋割りと一緒よ!」
--夕刻。
アレクたちは、あれこれ話しながら森の中を捜索を続けるが、陽が傾き始め、辺りが薄暗くなる。
アレクは夜営を指示する。
「……そろそろ暗くなってきた。皆、夜営の準備をしよう」
ユニコーン小隊の仲間たちは、夜営の準備を始める。
アレクとアルが周囲の下草を払って焚火を起こし、トゥルムとドミトリーが簡易テントを設営する。
ルイーゼとナタリー、エルザとナディアが食事の準備する。
アレクたちは、焚火を囲んで夕食を取る。
夕食を食べながら、アルが口を開く。
「アレク。夜の見張りは、どうするんだ?」
アレクが答える。
「夜の見張りは、二人づつ。『早番』と『遅番』の四時間交代でやろうと思う」
アルが口を開く。
「そうか。じゃ、最初はオレがやる。……アレクは休めよ。隊長で色々と疲れているだろう?」
ナタリーも口を開く。
「私もやる!」
アレクが口を開く。
「済まない。アルとナタリーの二人に頼むよ」
トゥルムが口を開く。
「なら、私は次の見張り『遅番』をやろう」
ドミトリーも口を開く。
「うむ。拙僧も『遅番』を」
悪びれた素振りも見せずエルザが口を開く。
「夜の見張りは皆にお願いするわ~。夜更かしは、お肌に悪いから」
ナディアもエルザに続く。
「私も~。夜は眠りたいわ」
アレクが苦笑いしながら口を開く。
「……それじゃ、遅番はトゥルムとドミトリーに頼むよ」
夕食とその片付けを終えた小隊は、焚火を囲むアルとナタリーを残して、簡易テントに向かう。
アレクとルイーゼ、トゥルムとドミトリー、エルザとナディアは、それぞれ簡易テントに入る。




