第七十五話 独房からの釈放
--飛行空母 最下層 収容区画 独房 アレクが収監されて三日目
アレクは、独房のベッドに寝転がって様々な事を考えていた。
フェリシアは、どうなるのだろうか?
自分のした事は、間違いだったのか?
自分は、これからどうなるのか?
アレクがベッドに寝転がったまま、あれこれと考えていると、看守が独房の扉を開ける。
アレクが薄暗い独房の中から扉の方を見ると、外からの光による逆光で、扉に肘をついて寄り掛かって立つ人物の影が見える。
肘で寄り掛かって立つ人物が、肘から先の拳で開かれた扉をノックする。
「よぉ~、アレク。三日間独房に入って、少しは頭が冷えたか?」
アレクは、その声に聞き覚えがあった。
「ジカイラ中佐!?」
そう言うとアレクは、ベッドから飛び起きる。
ジカイラは、アレクの傍まで歩いてくると苦笑いしながら話し掛ける。
「ジークから話を聞いた時は驚いたぞ? いくら降伏式に腹が立ったからって、皇太子のジークに殴り掛るなんてな。……ジークが本気だったら、お前、殺されてたぞ?」
ジカイラの言葉にアレクは素直にジカイラに謝る。
「……申し訳ありません。御迷惑をお掛けしました」
ジカイラは、悪びれた素振りも見せず続ける。
「まぁ、部下のしでかした事の責任を取るのが上官の仕事だからな。それと、良いかどうかは判らないが、結果だけ伝える」
ジカイラは、ジークから聞いた、皇帝の勅命によるフェリシアの免罪と助命、条件はジークがフェリシアを皇太子第三妃にすることとラインハルトが決めたこと、アレクがジークを殴った事件は、ジークが箝口令で無かったことにしたことを伝える。
結果を聞いたアレクは、俯いて考えるように呟く。
「……そうですか」
両腕を組んでジカイラが続ける。
「お前の『憧れの年上お姉さん』は、ジークの三人目の妃になる。お前の『義理の姉』になるってことだ。お前が士官学校を卒業したら、好きな時に会いに行ける。……それと、降伏式の式典を途中で終了させたのはジークだ。……ジークに感謝しろよ? 辺境派遣軍の総司令官でタダでさえ忙しい身なのに、お前のために、あれこれ動いてくれた訳だからな」
「はい」
アレクがジークに殴り掛ったのは、アレクの誤解であった。
アレクは、複雑な心境であった。
勅命によるフェリシアの免罪と助命が決まった事は嬉しかったが、憧れるフェリシアが兄ジークの妃になってしまうことは、フェリシアに幸せになって欲しいと願う一方で、自分以外の男の妻となってしまう悲しさもあった。
また、誤解から兄であるジークを殴ったことを申し訳ないとも思っていた。
ジカイラが口を開く。
「釈放だ。行くぞ」
「はい!」
アレクは、ジカイラの後を歩いて独房を出て、収容区画を後にする。
最下層の収容区画と倉庫区画の境界にある鉄格子の扉をアレクとジカイラが通り抜けた時、叫び声が聞こえる。
「アレク!」
ルイーゼの声であった。
ルイーゼは、涙ながらアレクに駆け寄ると、そのままアレクに抱き付いて泣き出す。
「アレク! ……もう、バカなんだから……無茶しないで」
「……ごめん」
アレクはルイーゼに謝ると、抱き付いて泣きじゃくるルイーゼの頭を撫でる。
「見せつけてくれるねぇ~。しっかし、お前が皇太子に殴り掛かるほどのバカだとは思わなかったぜ!」
アルの声にアレクが顔を上げると、ユニコーン小隊の仲間たちがアレクを迎えに来ていた。
アレクは口を開く。
「アル! みんな!」
ナタリーは微笑みながら話し掛ける。
「みんな、心配してたのよ! ルイーゼを泣かしちゃダメ!」
ナディアも口を開く。
「ルイーゼの次は、私の番よ! アレク!」
エルザも続く。
「まったく。アレクは、私たちが傍に付いていないと、とんでもないことをしでかすんだから!」
トゥルムも口を開く。
「隊長、良かったな。釈放されて。……危うく私たちまで皇太子襲撃の『テロリスト』にされるところだったぞ!」
ドミトリーも続く。
「煩悩に捕らわれ過ぎだぞ、隊長! 悟りの道は遠いな!」
アレクは、小隊の仲間たちに謝る。
「みんな。すまなかった」
ルイーゼを傍らに抱きながら謝るアレクの周囲を、小隊の仲間たちが取り囲む。
その様子を見ていたジカイラがアレクに告げる。
「アレク! 『自分の女』を泣かせるような奴は、騎士としても、男としても、失格だぞ!」
「はい!」
アルは軽口を叩く。
「さぁ! アレク隊長の出所祝いだ! ラウンジでパァ~っと宴会やろうぜ!」
「おぉ!」
ユニコーン小隊の面々は、居住区画にあるラウンジを目指して倉庫区画の通路を歩いて行く。
ジカイラは、区画境界の鉄格子に両腕を組んで寄り掛かると、微笑みながらその様子を見守っていた。




