第六十七話 首都急襲(四)
アレクたちユニコーン小隊が議長府を制圧したのとほぼ時を同じくして、教導大隊の各小隊はトラキア連邦政府の主要施設を制圧し、政府関係者を捕虜にしていた。
正午になり、帝国旗が掲げられた制圧済みの各施設に向けて飛行空母から揚陸艇が降下し始め、アレクたちユニコーン小隊が制圧した議長府にも降下してくる。
フェリシアがアレクとルイーゼに一礼してお礼を言う。
「アレク中尉、ルイーゼ少尉。お二人には、お世話になりました」
フェリシアは、戦時捕虜として帝国兵に手枷を付けられ、付き添われて帝国軍の揚陸艇に乗せられていく。
揚陸艇に乗せられていくフェリシアを、ぼーっと眺めるアレクにエルザが話し掛ける。
「……綺麗な人ね」
「うん」
そのアレクの様子を見ていたナディアがアレクを茶化す。
「は、はぁ~ん。アレクってば、あの『美人の年上お姉さん』に恋したんでしょ? ……ルイーゼや、私という女がいるにも、か・か・わ・ら・ず!」
アレクは赤くなって否定する。
「いや! それは無いよ!」
赤くなるアレクにルイーゼも怪訝な顔をする。
「アレク。なんで赤くなって照れているの!?」
ルイーゼから追及されアレクは必死に否定する。
「違う! 違うってば!」
皇宮に住んでいたアレクの周囲には、フェリシアのように年上の美人で神職の巫女という清楚な雰囲気を纏う女性はいなかった。
例えば『皇宮で最も清楚な女性』といえば、アレクが一番先に思い浮かべるのは、母のナナイであった。
皇宮に出入りしている貴族女性は、皆、ケバケバしく着飾り、厚く化粧をして様々な香水を身に付ける人たちがほとんどであった。
皇宮のメイドたちの中には、アレクより年上の女性もいたが、ルイーゼを除いたメイドたちは皆、皇太子である兄ジークに媚び、第二皇子であり悪戯をしてくるアレクには冷淡であった。
アレクが初めて見たフェリシアに対して抱いた感情は『憧れ』であった。
首都近郊にある二か所のトラキア連邦軍基地は、帝国機甲兵団によって制圧されつつあった。
揚陸艇で降下し、地上に展開した蒸気戦車の主砲は、トラキア連邦軍基地施設を捉え、その砲火を間断無く浴びせる。
対してトラキア連邦軍の大砲は、蒸気戦車の装甲を撃ち抜くことは出来なかった。
時間と共に、次第にトラキア連邦軍は帝国機甲兵団に追い詰められていった。
正午には、首都近郊の軍飛行場が帝国軍によって制圧され、首都を巡る戦闘の趨勢は決する。
もはや、塹壕やトーチカに籠って頑強に抵抗を続ける極一部のトラキア連邦軍が残っているだけであった。
正午が過ぎ、首都市街地に帝国軍の揚陸艇が降下して展開し、帝国東部方面軍が市街地を制圧し始める。
首都市街地にはトラキア連邦軍の姿は無く、帝国軍による市街地の制圧は滞りなく進む。
--夕刻。
議長府の制圧を終えたアレクたちユニコーン小隊は、帝国東部方面軍に議長府の建物の管理を引き継ぎ、飛空艇で飛行空母に戻る事になった。
アレクたちユニコーン小隊は、自分たちの飛空艇に乗ると離陸し、飛行空母に帰投した。
アレクは、飛空艇から飛行甲板に降り立つと飛行甲板を見回す。
飛行甲板には、政府関連施設の制圧任務に出ていた揚陸艇が次々と着艦し、捕虜にしたトラキア連邦政府関係者を飛行空母に下船させていた。
任務を終えたアレクたちは、乗ってきた飛空艇と共にエレベーターで飛行甲板から格納庫に降りると、自分たちを出迎えるジカイラとヒナに戦闘の結果を報告する。
ジカイラとヒナは、アレクたちの報告をじっと聞き、敵国の国家元首を捕えたアレクたちを労い、褒めた。
任務と報告を終えたアレクたちユニコーン小隊は、飛行空母のラウンジに集まる。
いつもの窓際の席に座ったエルザが口を開く。
「お腹空いたぁ~。何か食べようよ」
エルザの言葉で、アレクも任務で丸一日何も食べていなかったことに気が付く。
「そうだ。そう言えば、何も食べてなかった」
ルイーゼも同様であった。
「そうね。今日は、忙しかったしね」
ユニコーン小隊の仲間たちは、思い思いに食べたい物を頼み、食事を取る。
アレクは食事を取りながら、ぼーっと窓の外を眺める。
エルザが窓の外を眺めたまま呆けているアレクを茶化す。
「ア~レ~ク~。また、ぼーっとしちゃって。あの『美人の年上お姉さん』のことが忘れられないんでしょ? 私やルイーゼやナディアがいるんだから、浮気はダメよ。……何なら私が忘れさせてあげようか?」
アレクは再び否定する。
「いや、そうじゃなくて!」
「違うの?」
「違うよ。……『捕虜になった人達』って、この後、どうなるのかなって」
エルザは怪訝な顔をする。
「『捕虜になった人達』?」
「うん」
アルが口を開く。
「捕虜は、帝国軍の取り調べを受けるんじゃないの?」
トゥルムもアルの言葉に頷く。
「うむ。軍の取り調べを受けるだろうな。素性とか、役職とか」
アレクはトゥルムの言葉に答える。
「そうなんだ」
ナディアも口を開く。
「帝国は文明国だし、辺境の蛮族の国って訳じゃないから、捕虜に対して拷問とかしないでしょうし、そんなにあの『美人の年上お姉さん』の心配しなくていいんじゃない?」
アレクはナディアの言葉に苦笑いする。
ナタリーは、今まで黙って仲間たちのやり取りを聞いていたがアレクに尋ねる。
「アレクって、年上の女性が好みのタイプだったの?」
ルイーゼは、フェリシアのことで彼氏のアレクが茶化されるのが面白くなく、少しむくれていた。
小隊の女性陣、皆にイジられたアレクが苦笑いしながら答える。
「ナタリーまで!? 違うから……もう勘弁して」
小隊仲間たちはアレクの答えを聞いて笑う。




