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アスカニア大陸戦記 英雄の息子たち【R-15】  作者: StarFox
第四章 トラキア連邦

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第五十六話 出ない結論、練習成果

--翌々日。トラキア連邦 連邦議会 会議場。


 トラキア連邦の首都ツァンダレイにある連邦議会では、連日、臨時総会が開催されていた。


 二日目と三日目の臨時総会も早朝から開催していたが、夕刻になっても混乱して収拾がつかないほど紛糾し続ける。


 臨時総会は結論が出ないどころか、戒厳令と総動員令を発したフェリシアが非難される有様であった。


 議長であるフェリシアは、閉会を宣言する。


「皆さん、時間です! 臨時総会はここまで! 結論は……でませんでした」


 閉会になった議場から議員達が退出していく。


 フェリシアは、議長府に向かう。


 





--トラキア連邦 議長府。


 議長府の会議室に連邦政府の首脳が集まる。


 連日の総会と会議にフェリシアだけでなく、集まった委員達も一様に疲れ切って憔悴した表情であった。


 外務委員が尋ねる。


「議長。臨時総会での結論は出ませんでした。……帝国には、どのように回答されるおつもりですか?」


 フェリシアは答える。


「臨時総会での結論が出なかった以上、連邦としての回答は、できません」


 外務委員は、憔悴しきった顔で重苦しく告げる。


「……帝国からの……皇帝からの通達を黙殺するという事になりますよ? ……国家間の外交礼儀上、最悪の非礼に当たりますが……」 


「……我が連邦が議会制度を執っている以上、やむを得ません」


 フェリシアの言葉に、ただでさえ重苦しい会議室の空気は、更に重く暗いものになる。


 フェリシアは、議長席の背もたれに寄り掛かると、目を閉じたまま上を向いて様々な事を考える。





 臨時総会は、最悪の結果であった。


 『結論が出ない』ということは、『国家としての意思が決められない』という事であるうえ、『帝国と皇帝に対して、最悪の非礼な振る舞いをとる』という事でもあった。 


 アスカニア大陸の超大国であるバレンシュテット帝国に対して、軍事力、経済力、国際的な威信など数段格下であるトラキア連邦が外交上、最悪の非礼な振る舞いを行えば、帝国が怒り狂うことは確実であった。


 自殺行為に等しい。


 帝国と戦えば、確実に連邦は敗れる。


 連邦の敗戦後、最悪の非礼に怒り狂った帝国から連邦に課せられる制裁は、より苛烈なものになるだろう。


 フェリシア自身は、トラキア連邦の議長であると同時に、バラクレア王国の女王でもあった。


 首都ツァンダレイも、トラキア連邦の首都であると同時にバラクレア王国の首都でもあった。


 トラキア連邦は、バレンシュテット帝国に併合されて、その一部となるのか。


 或いは、属州にされて政治形態は変わっても、それぞれの王国は存続できるのか。


 連邦の国民は、帝国の一般市民として扱われるのか。奴隷にされてしまうのか。


 ダークエルフと取引し、新大陸から霊樹の森と共に持ち込まれた鼠人(スケーブン)をアスカニア大陸に解き放った責任を問われ、自分を含めた連邦政府関係者は『戦争犯罪人』として帝国に処刑されるだろう。


 衆目に晒されながら辱めを受け、なぶり殺しにされるよりも、処刑されるなら、殺されるなら、巫女として、苦しまずにひと思いに綺麗に死にたい。


 フェリシアは、様々な思いが頭の中を巡っていた。


 





 --夜 バレンシュテット帝国 辺境派遣軍 飛行空母 内。


 アレクは一人、当直の整備士以外、誰もいない格納庫の一角でいつも通り剣術の鍛錬していた。


 上級騎士(パラディン)の剣技である『受け流し』と『切り返し』の練習であった。


 以前、ジカイラに『受け流しと切り返しは、組み合わせて連続で使え』と教えられたからであった。


 アレクは、ブツブツ呟きながら剣の動きと体捌きの練習をする。


「こう来たら、こう受けて……、その時の体捌きはこうで……踏み込んで……こう切り返す」 


 アレクが練習していると、エルザとナディアがやって来る。


 エルザが尋ねる。


「……アレク。こんなところで一人で何してるの?」


「『受け流し』と『切り返し』の練習さ」


 ナディアが尋ねる。


「それって、上級騎士(パラディン)の剣技じゃない?」


「そうだよ。上級騎士(パラディン)になりたくてね」


「ふ~ん。そうなんだ」


 エルザとナディアは少しの間、アレクの練習風景を眺める。


 何かを閃いたエルザがアレクに話し掛ける。


「ねね。アレク。練習の成果を試してみない?」


「試すって?」


「私達と模擬近接戦やろうよ! 一対一で!」


 剣術の練習試合をやろうということであった。


「別に良いけど……」


「良し! 決まりね! タダの模擬近接戦じゃ、つまらないから、賭けよう!」


 アレクは、怪訝な顔をする。


「賭けるって? 何を?」


「私達が勝ったら、私とナディアにそれぞれ『メイド付きのお屋敷』を買ってちょうだい。勿論、維持費や人件費は、アレク持ちね! アレクが勝ったら『男の子が溜まってしょうがないモノ』を毎日、私達が抜いてあげる。口でも、手でも、胸でも、素股でも良いわ」


 ひと呼吸置いて、ほんのりと顔を紅潮させて上目遣いでエルザが続ける。


「……アレクが私とエッチしたいって言うなら、それでも良いわよ」


 アレクは、顔を引きつらせて苦笑いしながら答える。


「あの……なんか、賭けの内容が随分、偏っているような気がするんだが……」


 無論、アレクの実家であるバレンシュテット帝室の財力があれば、二人にメイド付きの屋敷を買い与え『アレクの愛人』として囲う事は容易いことであった。


 しかし、アレクは士官学校の学生の身分であり、しかも結婚もしないうちから『愛人に屋敷を買い与えて囲う』など、父である皇帝ラインハルトの耳に入れば激怒するだろう。


 だが、アレクは中堅職の騎士(ナイト)であり、二人は基本職であるため、アレクが負ける可能性は極めて低かった。


 エルザは口を開くと両手剣を構える。


「さぁ! やろう! 先ずは私が相手になるわ! アレクは中堅職だから盾は無しね!」


 アレクが答える。


「……良いよ」


 アレクは、片手剣である騎士剣を構える。


「いくわよ! それっ!」


 エルザがアレクに斬り掛かると、アレクはエルザの攻撃を剣で受け止める。


 エルザは次々と両手剣の斬撃を繰り出し、アレクはそれを剣で受ける。


 アレクはエルザを観察する。


 『剣士(ソードマン)』であるエルザは、個人戦の時は盾を持たず、両手剣で戦うスタイルであった。


 両手剣は、片手剣より長く重いため、リーチが長く、一撃の攻撃力に優れていた。


 アレクがエルザの斬撃を躱すと、エルザは両手剣の斬撃を途中で止めようとはせず、そのまま振り下ろす勢いに乗って身を翻し、蹴りを放ってくる。


 アレクは、エルザの蹴りを身体を反らせて避ける。


 エルザの戦闘スタイルは、斬撃の勢いを途中で止めるのではなく、そのまま斬撃の勢いに乗って次の攻撃に繋げるという、素早く身の軽い猫系獣人(ビーストマン)のならではの長所を生かした戦闘スタイルであった。


(なるほどな……)


 エルザは軽口を叩く。


「フフ。剣を振るうエルザちゃんに見惚れちゃったかしら? でも、『メイド付きお屋敷』は、まけてあげないんだから!」


 アレクは、練習した上級騎士(パラディン)の剣技を試してみる。


 エルザの斬撃を体の中心軸から外れるように剣で受け流すと、踏み込んで間合いを詰めて斬り返す。


「ううっ!?」


 アレクは、斬撃を振り下ろしたエルザの喉元で剣先を寸止めしていた。


 アレクとエルザの試合を見ていたナディアが感嘆する。


「アレク! 凄いじゃない! 上級騎士(パラディン)の剣技よ!」


 アレクは照れながら答える。


「……練習していたからね」


 エルザが悔しそうに口を開く。


「あーん。もぅ……。私の『メイド付きお屋敷』がぁあああ~」


 ナディアは、エルザの肩を叩くとアレクの前に来てレイピアを構える。


「ふふふ。次は私の番ね。お姉さんは、そう簡単にはいかないわよ?」


 アレクもナディアに向けて剣を構える。


「じゃ、遠慮なく、いくわよ!」


 ナディアは、アレクに次々と斬り掛かるが、アレクはナディアの斬撃を剣で受け止めながら観察する。


 ナディアの斬撃は、エルザの攻撃よりも遥かに速いものであった。


 ナディアが使っているレイピアは、片手剣よりも細身であり、一撃の威力に劣るが、その分、速さがあり、刺突することもできた。


 ナディアは、斬撃にフェイントと刺突を混ぜ、ナディアが斬撃を放つ度にレイピアの鋭い剣先が風切り音を立てる。


 精霊使い(シャーマン)のナディアの戦闘スタイルは、一撃の威力こそ低いが手数と速さがあり、戦う相手となれば厄介な戦闘スタイルであった。


(これは……面倒だな)


 しかし、剣での近接戦なら騎士(ナイト)であるアレクのほうが技量的に上であった。


 アレクは、上級騎士(パラディン)の剣技を試してみる。


 ナディアのレイピアの刺突を剣で払い、体の中心軸から外れるように流し、踏み込んで間合いを詰めて、斬り返す。


 アレクは、ナディアの首の横で剣を寸止めさせる。


 ナディアは、目を見開いた驚いた顔で口を開く。


「……嘘ッ!?」


 アレクとナディアの試合を見ていたエルザが喝采する。


「アレク! 凄い! 凄いわ! まるで上級騎士(パラディン)よ!」


 アレクは剣を鞘に納めてエルザの喝采に答える。


「……上級騎士(パラディン)に、もう一息まで近づいたかな」


 ナディアは、悔しそうに呟く。


「アレクは、上級騎士(パラディン)に近づいたようだけど、私の『メイド付きお屋敷』は遠のいたわ……」


 アレクがエルザとナディアに礼を述べる。


「……二人とも、ありがとう。上級騎士(パラディン)の剣技の練習成果を実感することができたよ」


 アレクは、エルザとナディアとの模擬近接戦に勝った事で、努力し練習を重ねることで自分が強くなっていく事を実感していた。



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