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アスカニア大陸戦記 英雄の息子たち【R-15】  作者: StarFox
第二十章 第二皇子の帰還

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第五百三十一話 アレクたちの旅立ち<完>

--アレク達の結婚式の翌日。


 帝国大聖堂でアルとナタリー、ルドルフとアンナの結婚式が開催され、午前中がアルとナタリーの、午後がルドルフとアンナの結婚式であった。

 

 ラインハルトやジカイラといった初代ユニコーン小隊の面々と、ジークとシャーロット以外の皇太子妃達、アレク達にカルラ、エステル、士官学校平民組で同期であった小隊の仲間たちが参列する。


 大聖堂での結婚式を執り行っていたのは、帝国大聖堂の司祭長になったティナであった。


 参列者を前に、ウェディングドレス姿で嬉しそうに微笑むナタリーに対して、アルは参列者達の前でガチガチに緊張していた。


 結婚の宣誓、結婚指輪の交換を終え、二人はキスする。


「おめでとう!」


「おめでとう!」


 参列者達から贈られる拍手がホールに響き渡る中、二人は参列者達の方を向く。


 アルは、ナタリーを横抱きに抱き上げる。


「あん!」


 突然のことにナタリーは驚くが、アルは小柄なナタリーを抱き上げたままバージンロードを歩いていく。


 アルはナタリーに告げる。


「へへ。オレのナタリー姫だからな!」


「もうっ!」 


 ナタリーは、照れて頬を染めたまま、人差し指でアルの頬を突く。





 バージンロードを歩く二人を見送ったハリッシュは、右手の中指で眼鏡の真ん中を押し上げる仕草をした後、微笑みながら親族席のジカイラに話し掛ける。


「まさか、元海賊の貴方と親戚になるとは、思いませんでしたよ」


 ジカイラも苦笑いしながらハリッシュに答える。


「オレだって、お前みたいなガリ勉メガネが親戚になるとは思わなかったぜ?」


 二人のやりとりを見て、ヒナとクリシュナは微笑む。





 ナタリーを抱いたアルが出口から大聖堂の外に出ると、集まった参列者たちも大聖堂の中から出口に集まる。


 アルが抱いていたナタリーを降ろして立たせると、ブルクハルトがアルに話し掛ける。


「アル。このまま、行くのか?」


「ああ。オレ達もアレク達と一緒にルードシュタットへ行くからな」


「そうか。元気でな!」


「お前も! 元気で!」


 アルは、軽く握った拳をブルクハルトの胸に押し当てると、アレク達と一緒にゆっくりと大聖堂の外に並ぶ三台の豪華な馬車に向かって歩き始める


 平民組の同期の仲間たちは、それぞれ馬車列の前に並び、その後ろで初代ユニコーン小隊の面々とジーク達が立ち並ぶと、アレク達は声を掛けられ見送られながら三台の豪華な馬車に分かれて乗り込んで行く。


 アレクが乗り込んだ馬車の中から見送りに来た両親へ目を向けると、ラインハルトと目線が合う。


 ラインハルトは、穏やかに微笑みながら目線が合ったアレクに軽く頷いて答える。


 アレクは、馬車の御者に声を掛ける。


「出してくれ」


 アレクの言葉で御者は馬車を走らせ、三台の馬車は帝国大聖堂から皇宮併設飛行場へ向かって走り始める。


 女の子達は、見送る側も、見送られる側も、にこやかに手を振っていた。





--馬車列。三台目の馬車の中。


 三台目の馬車には、カルラとエステルが乗っていた。


 二人は、年上のアレク達に遠慮して最後尾の馬車に乗っていたが、二人とも皇宮警護軍(インペリアル・ガード)の同期で仲が良いということもあり、気兼ねなく話せる相手であった。


 馬車に乗り込んだ二人は、馬車の中で真剣に本を読んでいた。


 読んでいるのは、貴族子女向けの図解入り『閨事教本』。


 二人とも男性経験の無い処女であり、これから迎える新婚初夜のため、閨事について恥じらいながら、頬を赤く染めながら真剣に勉強していた。



 


--馬車列。二台目の馬車の中。


 二台目の馬車には、ナディアとエルザ、トゥルムとドミトリーが乗っていた。


 ナディアが口を開く。


「さぁ、エルザ! いよいよ念願のお屋敷暮らしよ! 気合い入れて行くわよ!」


「ええ! 気合入れるわ!」


 ナディアとエルザは互いに頷き合うとガッツポーズをする。


 トゥルムはエルザに尋ねる。


「しかし、ルードシュタットに着いたら、その足で、すぐにグレースへ行くのだろう? 私達がグレースに付いて行っても平気なのか? 新婚旅行(ハネムーン)なのだろう??」


 エルザが笑顔で告げる。


「平気、平気。シャーロット様の招待なんだから。それに、グレースは北の島国で海産物が美味しいのよ。氷竜海の獲れたての魚が食べられるわ!」


 エルザの話にトゥルムも笑顔を見せる。


「そうなのか? グレースは魚が美味いとは知らなかった」


 ナディアがしたり顔でトゥルムに告げる。


「それに、グレースは『ジン』という辛口の蒸留酒のお酒が名産なのよ。トゥルムは、蒸留酒が好みでしょ?」


「ああ。それは楽しみだ」


 ナディアの言葉にトゥルムが大きく頷くと、ドミトリーも口を開く。


「うむ。酒があれば、どこでも宴会ができる。問題は、骨付き肉があるかどうかだが……」


 ナディアがドミトリーに答える。


「グレースの名物料理『骨つきラム肉のハーブ焼き』なんてどう?」


「おぉ、そのような料理があるのか!? それは良い! 毎日、宴会ができるぞ! 今から楽しみだな!」 


 四人は、グレースの話で大いに盛り上がっていた。




 

ーー馬車列。先頭の馬車の中。


 先頭の馬車には、アレクとルイーゼ、アルとナタリーが乗っていた。


 ルイーゼがアレクに尋ねる。


「アレク。新居って、どんな感じなの?」


「皇宮みたいな宮殿だよ。皇宮ほど大きくはないけど」


「そうなんだ」


「お祖父様に挨拶して荷物を置いたら、そのままグレースへ新婚旅行(ハネムーン)に行こう」


「うん」


 アルがアレクに尋ねる。


「なぁ、アレク。本当にオレとナタリーも一緒にグレースに行って良いのかよ?」


 アレクはにこやかに答える。


「構わないさ。グレースまでの飛空艇は帝国軍の大型輸送飛空艇だし、グレースへの新婚旅行(ハネムーン)はシャーロット様の招待で、迎賓館での滞在費は向こう持ちだ。シャーロット様も良いと言っていたし、何も心配いらないよ」


 アルは怪訝な顔をする。


「そうかぁ……」


 ルイーゼがアルを冷やかす。


「アル。私達と一緒に行った方が良いわ。個人でグレースへ旅行に行くとなると、大変よ? 飛空艇も、グレースの温泉付き迎賓館での滞在費も、結構、お金掛るから」


 お金の話を持ち出され、アルは苦笑いする。


「そ、そうだな。アレク達と一緒に行けば無料だし。新婚早々、借金はしたくないな」


 アルは、傍らのナタリーを気遣う。


「ナタリー。ウェディングドレスを着たままで、辛くないかい?」


「大丈夫。もうすぐ飛行場だし、着いたら着替えるから」


 ナタリーは、馬車の窓から流れていく景色を眺めながら笑顔で告げる。


「素敵ね。家族や仲間たちから祝福されて結婚して、またみんなで旅行に行けるなんて ……アル。私、最高に幸せ!」


 ナタリーの満面の笑みにアレク達も笑顔になり、幸福を実感していた。


 



ーー帝国大聖堂 出口。


 ジカイラは、アレク達の馬車列を見送りながらラインハルトに尋ねる。


「飛行場で見送らなくて良いのかよ?」


「このあと、ルドルフの結婚式がある。それに、息子が妻の実家に行くだけだ。今生の別れでもあるまい?」


「まぁな。アイツらも立派になったしな」


 ジークは、ラインハルトに尋ねる。


「父上は、今後、アレクをどのように遇するおつもりですか?」


「アレクには、ルードシュタット侯爵の跡を継いで貰おうと思っている」


「アレクの臣籍降下を?」


「そうだ。アレクに帝国宰相を引き継がせて、お前を補佐させる。アレクが侯爵から帝国宰相職とナナイの実家であるルードシュタット家を相続したら、侯爵から公爵に陞爵(しょうしゃく)。皇位継承権第二位のルードシュタット公爵家とする」


「なるほど」 


「私の代でヴォギノの革命党を根絶し、ダークエルフを討伐できれば、只一国で存立できる帝国は、国外の争いには中立を保ち、未来永劫、安泰なのだがな。ルードシュタットは、帝国最大の穀倉地帯であり、帝国の産業と経済の中心地だ。押さえておかねばならない」


「おっしゃるとおりです」


「ジークよ」


「はい」


「決して慢心するな。帝国の内外の動向に注意を払え」


「それは……心得ております。父上」




 


 バレンシュテット帝国歴757年。 


 第三十五代バレンシュテット帝国 皇帝ラインハルトの次男 第二皇子 アレキサンダー・ヘーゲル・フォン・バレンシュテットは、長年、彼に仕えた騎士爵家生まれのメイド ルイーゼ・エスターライヒを正妃として迎え、結婚する。


 また、士官学校在学中に知り合ったエルフのナディア・フロレスクを第二妃、獣人三世のエルザを第三妃、両親を失った開拓民の娘カルラを第四妃、ホラントの奴隷市場で売られていた娘エステルを第五妃に迎えて結婚する。


 グレースへの新婚旅行(ハネムーン)を終えてルードシュタットに帰還したアレクは、帝国宰相ルードシュタット侯爵の護衛という名目で同地で着任。侯爵の補佐をしつつ、領地経営や帝国内政のノウハウなどを学んだ。


 やがて、アレクはルードシュタット侯爵の引退に伴い、ルードシュタット侯爵家と帝国宰相職を相続。ルイーゼは、正妃としてアレクを支え続けた。


 皇族から臣籍降下したアレクは、皇位継承権第二位のルードシュタット公爵家の初代当主として 帝国宰相アレキサンダー・ヘーゲル・フォン・ルードシュタット公爵となり、皇太子ジークの補佐役として閣僚たちを率いて各方面で活躍。貧困層の救済や種族間の融和に尽力する。


 そして、皇帝ラインハルトの引退により、皇太子ジークフリートが第三十六代バレンシュテット帝国 皇帝に即位。


 世界大戦に中立であった帝国は、その戦火を被ることは無く、発展した産業と経済で受け入れた難民や亜人達の入植地を拡大させ、更に産業と経済、伝統と文化、魔法科学を発展させて国内の種族融和と貧富の格差を緩和する政策を押し進め、帝国国民は豊かに暮らしていた。


 バレンシュテット帝国は、ラインハルトが築いた黄金時代を、その息子達が引き継ぎ、更に発展させていく。


 帝国は、アスカニア大陸の盟主として君臨し、息子達の治世は平和であり、栄華と繁栄を極めた。


<完>

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