デスメテオ
どんぶらこどんぶらこと一時間程揺られただろうか。
思った以上に船旅は快適で、特に魔物に出会うでもなく
かなりのスピードが出ている割には大きなトラブルは発生しなかった。
最初こそ「これが船なのね。凄いわ。初めて乗ったわ。あなた便利ねえ」と、はしゃいでいたオペラも、現在はオレが船上に作り出したビーチチェアモドキに仰向けに横になってリゾート気分だ。
少し前に
<ねえオペラさん、オレの世界では船に乗る時は、こんなのとかこんなのとかこんなのを着ると決まっているのですが>と、提案というかイメージ映像を念話で無理矢理送りつけて選んでもらい、今は白の下着から、胸元が大きく開かれたデザインのピンクのビキニに着替えている。
この谷間が作り出す魔の三角地帯は、もしかしたら異世界と繋がっているかもしれない。
これもうなんかデートですよ。
イメージは南国の晴れ渡る空の下、美女と二人で紺碧の大海をクルージングーーダイビングでもやっちゃう?それともサンオイル?いくらでも塗り塗りします。
いや、川だし。お前船だろ?塗り塗りって言うかヌルヌルだろ?太陽も出てないし、異世界の魔物が跋扈する森の中だろ?なんて事は突っ込まないでください。
大事なのは気分とイメージです。
そしてオレが何をしているかと言うと、当然ながら船長兼、クルーザー兼、監視カメラです。
何を監視してるかって?当然ながら周囲の安全と安全と安全とオペラさんの肢体でございます。
え?半裸の美女に見とれていて周囲の監視が出来るのかって?
出来るんです。というか出来るようになりました。
オペラを見る→前を見る→オペラを舐め回すように見る→前を見る→ハアハア言いながらオペラのお尻を揺れにあわせてコッソリ触る→岩にぶつかりそうになる→怒られる。
というのを数回繰り返して、これはいかんと、視点が一つは不便だなあ、なんとか視界が増やせないかなあ、増えればなあーーと、かなり大真面目に考えながら、オペラ→周囲を懲りずに繰り返したその時、ポコッと視野数が増えたのです。
因みにどのような感じかと言いますと。右目はオペラ、左目は周囲の画像が同時に脳内に映し出されている感じです。
視界が二つになったらなったで今度はもう一つ欲しいなあ、横からの視点も欲しいなあーーと考えていたら、再度ポコッと増えました。その後にも二つ増やせました。
現在は5つの視点の内、オペラに3つ。
斜め上から、横から、下からです。下から見て分かったのだが、水着は独立しているのではなく、髪を首筋から背中で通して一筆書のように体に巻き付けて水着にしていた。なるほどね。
至近距離から水着美女をガン見しほうだい。なんて素晴らしいんだ。
一応魔物対策で前方に1つ、周囲に1つと、万全の警戒体制ですから誰にも文句は言わせません。
こうやって生物は進化するのか、必要に迫られると人間はなんでもするということです。
生存競争が数多の生物が進化する切っ掛けだと聞いた事があるが、必要に迫られてのコレも立派な進化だよね。ねー?
何故見るのか?
Because it is there. (そりゃ、そこにそれがあるからさ。)マロニー。
それってなにさ?二つの山さ。大きな桃さ。
わざと船体を揺らしてみて水飛沫をかけてみる。
誰に?
オペラに。
かかった飛沫が張りのある肌を伝い、オレの体に落ちかかる。そしてそれをすかさず吸収。
ハア。
別に僕は変態じゃないですよ。
精神は肉体のパシリだと言います。つまりこのスライムボディがワガママを言っとる訳ですよ。
仕方ない。仕方ない。
「ねえ、あそこのゴブリンがこっちに気付いてるみたいだけど。どうする?」
オレがクルージングを満喫していると、そう話しかけてきた。
もちろん、前方に見える四匹の赤黒い肌の小鬼の存在には気づいていた。
名前なんてどうでもいいので適当だったが、そうか、ゴブリンか。
気付いてはいたが面倒なので反対岸に寄せてやり過ごそうと思っていたのだが、三匹が届きもしないのにドボンドボンと石を投げている。
南国気分から、この陰鬱とした森の中に無理矢理引き戻された上に、デートを邪魔されて怒り心頭かと言うとそうでもない。心の画像倉庫が美女で埋め尽くされて大満足して穏やかなものだ。
「ちょうどいいからあなたの戦闘スタイルを見せてもらおうかしら」
オペラはそう言うと、髪の半分を岸に伸ばし固定して、もう半分をオレに巻き付けて抱え込みフワリと浮き上がり川岸に着地する。
オペラを乗せたまま船形から液体に戻る。
ゴブリンはそれを見てギョっとした後に、走ってこちらに寄って来ているが、まだ距離があるので全く慌てない。
<それはいいけど、四匹共オレが倒してもいいのか?>
弾丸は5発あるので問題ないが、前魔王の強さにも興味があるので期待をこめて言ってみた。
「二匹づつ倒しましょうか。私だけ見せてもらうのは不公平でしょう」
良し。決まりだ。
楽に死ねると思うなよ。こ汚い小鬼共!!(やっぱり怒ってます)
ゴブリン相手ならこのままの位置からの水平射撃でも倒せるが、戦闘スタイルを見たいとの事なので、オペラを振り落とさないように気をつけながら普段通りに素早く木の上に登る。
そのまま枝を伝って葉に紛れながら静かに移動する。
ゴブリンはやっとオレが登った木の下に辿り着いて唸りながら見上げているが、もうその木には居ませんよっと。
斜め45度。距離は10メートル。ベストポジションだ。
目標を見失い怒り狂ったように闇雲に木の幹をこん棒で打ち据えている姿から目を離さずに紫毒弾と、大鬼弾を一発づつ回転させる。
オペラは自分の足元で高速回転を始めた奇妙な石に不安を覚えたのか、若干引きつった表情で質問をしたそうにしていたが、「え?」と、小さく声を出しただけで、そのまま見守っている。
さて、どいつを狙うかと観察すると、木の幹を叩いてるのは三匹で、少しだけデカイ一匹はそれに参加せずに周囲を警戒しているように見える。さっき、石を投げていたのも三匹だし、もしかしたら指示を出しているリーダーかもしれない。
持ってる武器もこん棒ではなく、錆びてボロボロの曲がった幅広の刀みたいのを腰にさしている。
オレはそこである事を思い付いて射撃体勢にはいる。
いつもの通り心の中で深呼吸して止める。
右端のこん棒ゴブリンに狙いを定めて発射。
心臓ではなく右背中下部に命中。すぐさま移動を開始して側面に回る。
わざと弾速を遅くしたのでリーダーの視界に射線が映ったはずだ。
心臓から狙いを外したので、時間差で命中したゴブリンが苦しみだして泡を吹いて倒れる。
それを見たこん棒ゴブリンが慌てて逃げようとするのをリーダーが制して、射線を指差しながら「ゴブゴブ」と、指示を出している。
リーダーを守るように二匹が並んで壁をつくるが、それはオレの予定通りだ。
すかさず回転速度を上げて大鬼弾に青白い光が灯った瞬間に発射。
リーダーが唸りを上げる弾丸を認識した時にはもう遅い。
手前にいる壁ゴブリンの側頭部を貫通し、更に奥のゴブリンの心臓を貫く。死んだ二匹は何が起こったかも分からなかっただろう。
リーダーはわざと残した。二匹づつ倒すという予定ではあったが、ザコに逃げられないためと、オペラに良いところを見せたかったってのもある。全力の大鬼弾ではないが、十分なインパクトがあったはずだ。
それに一発で二匹倒すってのもやってみたかったんだよなあ。
結果は大成功。我ながら綺麗に決まった。
<これがオレの戦闘スタイルのスライム射撃術なんだけど、どうだ?>
そう尋ねながら見上げると、そこには蝋燭の炎のように髪を逆立てて「ふふ、フフフ」と、言いながら、更に目を釣り上がらせて不敵に笑うオペラがいた。
アレー、何故だ、怒らせちゃったのか?何この人?怖いんですけどーー
「素晴らしいわ、石を回転させながら飛ばす、こんなユニークな攻撃をするスライムがいるなんて、世界は広いわね」
ああ、どうやら怒ってるんじゃなくて感心してくれてるみたいーー
「ベッドにはなれる、船にもなれる、飛べるは伸びるは機動力も常識外。更に攻撃方法まで予想の遥か雲の上をぶっ飛ぶーーあなたが私の仲間に相応しいと認めるわ。
フフフ、こんなに挑発されると今度は私を認めてもらうために使うしかないわねーーやるわ。デスメテオ」
え?別に挑発してないんですけど。
て言うか何やら不吉を孕んだ単語が聞こえたようなーー
で、デスメテオって言った?隕石を落とす最強魔法か何かか?
それってオレも巻き添えで死んじゃうんじゃないの。
<ちょっと待って!!オペラさん落ち着いて。たかがゴブリンにそんな必殺技みたいなのはやめてください>
オレは自分の命の危険を感じて慌てて止める。
「必殺技ーーなんて素敵な響き。あなたネーミングセンスも素晴らしいわ。燃えてきたーー」
マジで勘弁してください。何度もそう呼び掛けたが、オレの制止を無視して、獲物を狙う獰猛な猛禽のような凶悪な笑みを浮かべてそう言うと、一蹴りして木から飛び下り、髪を使ってフワリと優雅に着地した。
と、同時に水着を変化させて漆黒の竜の鱗を連想させる鎧姿になる。完全に戦闘モードと言った具合だ。
「心配しなくてもあなたの上には落とさないし巻き込まないから」
それを聞いて少しだけ安心したが、なんたってデスメテオだ。どれ程の被害が出るか分からない。
オペラは髪を8本の束にして左右に4本づつ大きく伸ばして体を浮き上がらせゴブリンリーダーに向かって進み出す。まるで肉食系の大型の蜘蛛のような動きだ。速い。
オレは安全のために逆方向に距離をとり、5つの視界を凝視して観戦し、念のため紫毒弾を回して不測の事態に備える。
さすがに人間形のゴブリンと比べるとオペラの小ささが際立つ。 何せ身長10センチだから、150センチ前後のゴブリンの十五分の1しかない。
仮にオペラが普通の人間サイズなら、24メートルの巨人に立ち向かう計算だ。まあ魔法を使うなら大きさは関係ないだろうが。
仲間を全て反応も出来ずに倒されたショックから硬直していたゴブリンリーダーは、自分に真っ直ぐ向かってくる蜘蛛のような魔物をやっと敵だと認識して、幅広の刀を抜いて身構える。
それでもお構いなしに間合いに進入するオペラに対して斜めに鋭く刀が降り下ろされるが、滑るような動きでスルリとかわして横に回り込み、髪を絡み付かせて持ち上げ、背中から地面に叩きつけた。
準備運動と言うか、何かを確認するようなそんな一撃だ。
ゴブリンリーダーは、自分より遥かに小さな魔物に投げられた事実を受け入れられないのか、立ち上がっては投げられ、向かって行っては投げられを繰り返し、その拍子に自らの刀で腕を傷つけてしまった。
明らかに格が違う。
軽やかなフットワークで翻弄して、全く刀が当たりそうな気がしない。
もうデスメテオなんて危険そうな魔法は使わずに倒して欲しいと思い始めたその時、髪を絡めて拘束していたオペラの目がカッと見開かれた。
今までのように、精々1メートル程しか持ち上げないのではなく、バダバタ暴れるゴブリンリーダーを押さえつけて髪を伸ばし、グングン上昇させてーー枝を越え、葉っぱに紛れて見えなくなった。どこまで持ち上げる気だ?
ああそうか、空中で魔法を使えば森に被害は出ないからかーーじっとゴブリンリーダーが消えた枝葉の間を観察していたその遥か下から裂帛の気合いを込めて
「デスメテオドライバー!!!!」という声が森中に響き渡り、
駒のように凄まじく回転しながらゴブリンリーダーが頭から垂直に落下してきて地響きと共に地面に突き刺さった。
え、
ええ?
デスーーメテオーードライバー?
オイオイオイオイ。
あれか?
もしかしてあれなのか?
落とすって言ってたけど。
魔法じゃなくてーー
これがデスメテオーーなのか?
* *
オレは疑問を確認するためにオペラに近寄り恐る恐る質問する。近くまで来ても埋まってしまったゴブリンリーダーの足先も見えない。穴からむせるような血の匂いもするし色んな意味で怖い。なにこれ?
<あのうオペラさん。今のってまさかーー>
「そうよ。あなたの弾丸にヒントを得て捻りを加えてみたの。新必殺技の完成よ」
いやいや、そう言うことじゃなくて。そんなに胸を張られてもリアクションに困る。どうしよう、非常に訊きづらいが、意を決してえーいと再度尋ねる。
<今のがデスメテオって名前の?>
そう尋ねられたオペラは、ハッとして難しい顔をして腕組みをして黙ってしまった。
怒らせたか?いやいや怒るところないよな。
暫くしてこちらをチラリと伺い、ボソリと「違うわ」とだけ言ってまた黙ってしまった。
<そ、そうか。違うのか。良かったーー>
何が良かったのかオレも分からないが、もうこの緊張感に耐えられないので疑問を無理矢理しまいこんで隠れ家に帰ろうと提案しようとしたら、それまでの難しい顔から一転して笑顔で、
「トルネードーーいや、ツイスターーそう、ツイスターメテオドライバーよ」と言った。
アハハ。
ハハ。
ハーー
これが残念美女ってやつか。
更新がたいへん遅くなってしまい申し訳ありませんでした。
仕事が忙しくて時間がとれずに、休みになったら書こう書こうとしているうちに時間だけが過ぎて行ってしまいました。
時間は出来るのを待つのではなく作るもの。
そんな言葉を噛み締めている次第です。
さて、22話をお届けいたします。
なんか主人公の気持ち悪さが加速しています。
裏で真面目に殺し合いをしているであろうチート勇者の皆さんに申し訳ない気持ちでいっぱいです。
そしてフェイの視点が増えました。
基本的な戦い方が中遠距離からの射撃なので、さほど効果は無さそうですが、視認による索敵能力は飛躍的に向上しただろうと思います。
全方位が同時に確認出来るなら、不意打ちの危険は格段に減る事でしょう。
しかし、美女を多角的にガン見したいために進化したってのはらしいエピソードだと考えます。
服を溶かすために溶解のレベルも上げてますしね。
全てはエロスの為です。
人類にとっての文化の発達にもエロスは貢献しています。
例えば分かりやすい所で
ビデオの急激な普及の一助となったのがエロビデオ。
DVD しかり。
インターネットしかりです。
まあ他にもあるでしょうけど。
オペラについても書きたいのですが、あまり先に書くとネタバレになるので、今後の作中で語ります。
あまり間があかないよう頑張りますので次回も宜しくお願いします。




