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【29】覚えていません……

夜明け前。ふと目を覚ました私は、悲鳴を上げていた。


「ッ、きゃぁああ――――――――――――――――ッ!?」


膝枕を。膝枕をしてもらっていた……ギルに! 銀色の長いまつげを伏せて眠っていたギルは、私の絶叫で目を覚ましたらしい。


「……おはよう、エリィ。長鳴鶏(ニワトリ)の鳴き声にしては変わっていると思ったが。今の鳴き声は、エリィのか?」


跳ね起きて口をぱくぱくさせて赤面している私を見て、ギルはおかしそうに笑みを漏らしている。

「身体の具合はどうだ?」

「え? あの……。え??」

これは、どういう状況なのだろう。どうしてギルが、私の部屋に? なんで私は、膝枕なんてしてもらっていたの??


「……覚えていないのか?」

ギルは説明してくれた……昨日、私がお酒を飲んで倒れてしまったことを。ぐでぐでに泥酔していた私を、ギルが運んでくれたことを。……私が、彼をお母様と勘違い(?)して、膝枕を要求していたことを。


「あぁ……私ったら、なんて破廉恥なことを……」

「破廉恥?」

ハハハ。と、こらえきれなくなった様子で、ギルは声を立てて笑い始めた。


「ギル……もしかして一晩中、膝枕していてくれたんですか?」

「あぁ。そのように求められたからな。だが、こんな固い膝の上で本当に休めたのか? かえって身体がガタガタに痛んでいるのではないかと思うと、気掛かりだ」

「いえ。こんなによく眠れたのは十数年ぶりでした……。でも、ギルはつらかったでしょう? 壁にもたれずに、一晩中座っていたんですから」


「軍人を舐めてもらっては困る。立ったままでも眠れるさ」

ギルは、笑いながら立ち上がった。


「今度から、酒には気を付けろよ」

「二度と飲みません……」

「飲むなとまでは言わないが。……他の男の前では、絶対にやめておけ」


ずっと愉快そうに笑っていたギルが、わずかに眉をひそめて私に忠告してきた。

それもそうよね、こんな醜態をさらしても笑って許してくれる心の広い人は、ギル以外には絶対にいないわ……。本当に、ギルは優しい。


「酒には飲み方があるんだ。……今度俺が教えてやるから、それまでエリィは禁酒だ」

言い聞かせるようにそう呟くと、彼は自分のおでこを私のおでこにコツン、とぶつけて覗き込んできた。

「っ……。ギ、ギル?」

真剣な表情をした彼の美しい顔が、金色の瞳が、唇が、私の目の前にある。このまま重なり合ってしまいそうなほど、すぐそばに。

「分かったな?」

「かっ、かか、かしこまりました」

私の答えに満足したのか、彼は扉の方に向かった。


「俺はこれから仕事だが、君はどうする? もし二日酔いがあるなら、休んでもいいぞ」

「二日酔いなんか休む理由になりません。皆さんに失礼です」

そうか。と軽く笑ってギルは扉を開く。


「それでは、今日も頑張ってくれ」


――ぱたん。

扉が閉じたあと、一人になった部屋で私はベッドに転がった。

「……私ったら。なんて破廉恥な………………」

火が出そうなほど顔を熱くして、一人で羞恥に悶え続けていた。





   *


ギルが部屋をでてからすぐ、私は自分の体の異変に気づいた。


「……聖痕が!」

仕事の前に、着替えていたときのこと。自分の左胸にぼんやりと、赤いバラに似たアザが浮かび上がっていることに気づいた。


「聖痕が……どうして、今さら?」

私の聖痕は失われ、代わりに義妹のララが聖痕を宿していたはずなのに。どういうことなのだろう。


でも、私はとても怖くなった。もし、聖痕が戻ったことがバレたら、私は名実ともに大聖女の役目を任されることになるだろう。そんなことになったら……


今すぐ、アルヴィン殿下のもとに嫁がされてしまうかもしれない。


(ーー黙っていなきゃ。絶対に、誰にも知られないようにしなきゃ)

私は必死に息を整えながら、急いで服を着た。左胸のアザなんて、黙っていれば誰にも見つからないはずだ。


(こんなこと……ギルにも、絶対言えないわ)


聖痕のことをギルに相談したら、きっと心配されてしまう。彼にこれ以上迷惑をかけたくないし、肌のアザのことなんて、そもそも口にするのも恥ずかしい。


(聖痕のことは……私ひとりの秘密にしなくちゃ……)


何度も深呼吸をして、私は自分にそう言い聞かせた。



お読みいただきありがとうございます。


「ちょっと面白いかも」「続きも読もうかな」という方は、下にある☆☆☆☆☆→★★★★★欄で、作品に応援お願いいたします。ブックマークもうれしいです。皆様の反響は、おもしろい物語作りの参考として大切に活用させていただいています!


それでは、次話もお楽しみください。


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