ライブ後
ライブ後に挨拶に行くと、そこには梨元さんが腕を組んで立っていた。その表情はいつも楽屋で話すような表情よりも一層厳しい感じだった。
坂道46と凪坂46のメンバーたちも緊張した表情で立っている。
「……君たちは今のステージで満足か?」
「「「「……」」」」
梨元さんの問いかけに、誰もなにも答えない。
「現状に、満足をするな。僕から言えるのはそれだけだ」
「「「「はい!」」」」
短い言葉で檄を飛ばす敏腕プロデューサーに、思わず驚いてしまう。いつもの楽屋の感じとはまるで違う。
「……っと。二村君、新谷君。来てくれたのか」
「「おはようございます」」
二村さんとともに、挨拶をする。
「ちょっと新谷君と話したいんだが、別室に来れるかい?」
「は、はい」
ポカーンとする二村さん、坂道46、凪坂46を尻目に梨元さんと別の部屋に入る。
「どうだったかね?」
「……」
そう尋ねられて、正直返答に困った。彼女たちのパフォーマンスに感動したのは紛れもない事実だ。しかし、それを認めたくない自分がいる。それは、もしかしたら自分の弱さなのかーー
「凪坂46のアンパンマンのかけ声は」
!?
「そっちですか!?」
どうだったかと聞かれたら、まあアンパンマンでしたけども!
「ふぅ……そっちって……君はアンパンマンを舐めてるな……彼の経済効果は一兆円以上だぞ!」
「例えそうだとしてもアンパンマンに大人の部分を持ち込むな!」
「勇気りんりん」
「うるせーばか!」
「ふぅ……すでに君の生涯賃金分会話をした気がするよ」
「嫌な計算だな!」
はぁ……はぁ……
あまりにもなトークの応酬に、激しく息切れしてしまう。
「雑談はともかくとして」
「雑談の部類に入るかどうかは激しく疑問がありますが」
「彼女たちはアイドルだっただろう?」
「……はい」
それは、頷かざるを得ない。彼女たちは輝いていた。
「君は、『凪坂ってナギナギ』で同じように彼女たちを輝かせないといけない」
「……でも」
「でもじゃないな。やるんだ。それが、公式お兄ちゃんである君の仕事だ。それが、できなければ降りるしかない」
「……」
その厳しい言葉に身が引き締まる思いだ。
「まあ、今はできなくたっていい。それも醍醐味だ」
「醍醐味?」
「アイドルってのは、未完成なんだ。だからこそ、成長する。それを見届けたい、育てたいと思うから、ファンは彼女たちに夢中になる」
「……」
「テレビ番組だってそうさ。公式お兄ちゃんもね。君たちもまだ未完成だ。ともに成長して育ってくれればいい」
「……はい」
「頼むよ……僕が生きているうちにね」
「えっ……それってどういう」
「……頼んだよ」
梨元さんは意味深な発言をして去って行った。




