収録
公式お兄ちゃん復活。今日から、心機一転俺がMCとなって番組を回す。このスタッフたちと今後やっていけるだろうかという疑問も大いにあったが、今までもやってきたし、まあ深くは考えないことにした。
「じゃあ、本番入りまーす。3……2……1……」
「さあ、始まりました。凪坂ってナギナギー! 司会は私、新谷がお送りします。そして、彼女たちが……凪坂ちゃんだぁ!」
「「「……ぃぇー」」」
「どうせ声出すんなら、もっと、元気よく出したらどうかな!?」
中途半端な声なら、マジで必要ないぞ。
「はい! 前回まで3週間、『ファンの流儀』という特番を組みましたけど……どうだった、柿谷(うんばば娘)?」
「……感動しました」
「どの部分が!?」
番組で、ほぼ、青春18切符の話しかしてなかったけど!? おっさんが電車で愛知から山梨行って帰ってくる話だったと、未だ過去最低のクソ番組だったと、その評価しかないんだけど!?
「あんなにも……凪坂46のこと……考えてくださるファンの方々がいることに、です」
模範解答! こんなクソ番組に限って、模範解答!
「またまたぁ、そう言うの、要らないよ」
「あなたには……わかりませんよ」
「……っ゛!」
バラエティ番組でそんな軽蔑の眼差しをみせるな!
そしてお前のキャラはいつもどおり絶賛迷走中だな!
「さ、さてー! 早速今日も楽しんでやってまいりたいと思いますけどもね。今日の企画は……これだ!」
『激辛料理大食い対決』
バラエティ番組の定番中の定番。
「「「わーーーーーーーーっ!」」」
「リアクション間違ってるけど!?」
こ、ここで盛り上がるんじゃねぇよ。普通、激辛料理だったら嫌がるんだよ。
「じゃあ、食べていって頂きたいと思いますけどもね。守護神川島。お前、辛いものいけるのか?」
「い、いえ……実は、凄く苦手で」
いい感じに可愛い回答をかましてくる。このポンコツどもが、みんな、こんな感じだったら最高なんだけど。
「柿谷(うんばば娘)。お前は?」
「……」
す、拗ねてんじゃねーよ。
「新谷さん、ところで料理ってなにが出るんですか?」
ヒッチハイカー琴音が手を挙げて質問する。
「ああ、麻婆豆腐だ」
これも、定番中の定番。
・・・
グツグツグツ……
な、なんか……この真夏に、マグマみたいな奴出てきたな。
「これって本当に辛いんですかね?」
「東郷(カレー娘)……みればわかるだろう?」
「尋常じゃない赤さになってるし。そもそも、この距離から香ってくる匂い自体が鬼辛いし」
「……ちょっと食べてみてくださいよ」
!?
いいフリ来たーーーーーーーーーーーーーーー!
「ちょ、東郷(カレー娘)、お前マジふざけんなよ! なんで俺がこんな辛いもん! 見れば、この辛さ伝わるだろう? 匂えば、これがどのくらい辛いかわかるだろうが! なんで、それをワザワザ味見って……バカか! お前は、ば・か・か!?」
「じゃあいいです」
「ったく、しょうがな……えっ!?」
「……すいませんでした」
「い、いや。いいよ、わかってくれたんなら……でも、本当にわかったのか?」
味わって見なければわからないんじゃないのか? 俺のリアクションを見なくちゃわからないんじゃないのか? 本当のことを言ってみろ! お前の本音を公式お兄ちゃんに聞かせてみろ!
「わかりました……」
・・・
「ほんとうに?」
「はい」
収録後、廊下で、泣いた。




