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やる気なし英雄譚 外伝  作者: 津田彷徨
第0章 -ボクラノデアイ-

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タイマン

 校内武術大会における総合部門の決勝トーナメント。それはある意味、学内最強を決定する戦いであり、偏屈な研究者などを除いて、例年校内のほとんど全ての者が闘技場に集まる。

 そして今年度の武術大会は例年と違い、誰が優勝するかと言うよりも、生意気な二人の新入生を誰が止めることができるかに話題が集まっていた。

 その生意気な新入生といわれる片割れは、今から行われる第三試合を前に、少しの緊張と、程よい高揚感に満たされていた。彼は控え室で試合に用いる木剣を自らの手で確認し、そして魔法構築のイメージを脳内で繰り返す。そうやってひとしきり試合への準備を行った所で、ようやく歓声とともに第二試合が終わると、すぐに近くの係員が彼に舞台へ向かうよう指示を行った。


「よし、行くか!」

 彼は自分を鼓舞し、舞台へつながる通路を一歩一歩進んでいく。そうして、通路を抜けると、先ほど予選の会場でもあった、闘技場の中心部の舞台へとたどり着く。そして彼は木剣を片手に握りしめ、舞台の中央で、対戦相手が来るのを待った。幾ばくかの時間の後に、反対サイドの通路から、やる気無さ気な黒髪の男が姿を現すと、ゆっくりと頭を掻きながら、彼の正面に正対した。


「イスターツ、お祈りは済ませたか?」

「えっと、何に対してかな? うちは困ったときだけ神頼みをするから、特にお祈りは必要ないんだけどね」

「ふふ、そう言っていられるのも今のうちだ」

 リュートはユイをばかにするような笑みを浮かべると、改めて右手に持った剣に視線を落とし、しっかりと握り直す。そして、再び視線をユイに戻すと、彼は自分の方向ではなく、なぜか本部席のある辺りの観客席を見つめていた。


「お前、何をよそ見している? もうすぐ試合は始まるんだぞ」

「ん、ああ、気にしなくていいよ。友達が応援に来てくれているか、会場を探しているだけだから」

 ユイはリュートに対しそう告げると、そのまま会場に視線を合わせる。そのユイの動きに対し、リュートはわずかに違和感を覚えると、ユイに見ている会場の東側の方向を覗き見た。そうしてリュートが首を動かした瞬間、試合開始のドラが鳴らされる。リュートは、慌てて正面に視線を向け直すと、ユイは既に眼前にまで迫っていた。


「なっ!」

 思わぬ事態にリュートは動揺すると、大きく後ろへ飛び下がる。しかしそれ以上の突進速度で、ユイが間合いを詰めると、右手で左脇に構えた木剣をリュートに向かって一薙する。そのユイの剣の軌道に自分の剣を置き、なんとか横薙ぎの一撃を受け止めると、リュートはユイに向かって怒鳴りつけた。


「お前、今のはフライングだろ!」

「違うよ、ちゃんとドラが鳴るのを確認したさ。もっと正確に言えば、審判がドラに向かって、バチを振り上げるタイミングを確認したんだけどね。おそらく僕が動き出したのと、音が鳴ったのは全く同時のはずだよ」

 ユイはリュートにそう言い返すと、剣を引き直し、上段から振り下ろした。


「クソ! 貴様が会場を見ていたのは、試合開始のタイミングを図るためだったのか」

 ユイの二撃目も剣にて受け止めたリュートは、試合前のユイの行動の意味を理解して苛立ちを募らせる。そして、ユイの剣を強引に腕力でなぎ払うと、右手を前に突き出した。


「ゲイル!」

 リュートが、突き出した右手に風を集約させると、至近距離にいるユイ目がけて疾風の魔法を解き放つ。距離にして数歩の距離、その間合いの近さから、リュートは己の魔法の直撃を確信していた。しかし、まるで準備する段階から、魔法が来ることがわかっていたかのように、ユイはサイドステップのみという最小限の動きで、魔法を躱した。


「いやぁ、危ない危ない。小型魔法とはいえ、ほとんど同調時間なしで、あんなのも放てるんだね。正直言って驚いたよ」

 まったく驚いた素振りのないユイは、苦笑いを浮かべながら、そう口に出す。そして一度息を吸い直すと、距離を離されないようにするため、再度リュートへ飛びかかる。


「くそ、アイスウォール!」

 リュートは、ユイの突進に、攻撃魔法を放つことを諦めると、自らの前に氷の壁を生み出す。そして、ユイが壁を前に動きを止めた所で、慌てて距離をとるためバックステップを数回行い、息を整えると、ユイに向かって問いかけた。


「貴様、本当に魔法が使えないのか? 先ほどのゲイルを躱した動きは、明らかに俺の魔法同調に感づいていた動きだろ」

 リュートは、自分の確信を持って放った一撃が躱されたことで、今まで抱いていたユイに対する先入観と情報に疑いを持つ。


「さあ、どうかな。試合中の相手に、教える義理はないからね」

「ならば、この俺が化けの皮をはがしてやる。ホワールウインド!」

 その魔法を唱えた瞬間、等身大サイズの風の束がリュートの前に生まれ、ユイに狙いを定めると、一直線に放たれる。しかし、その魔法が生み出される直前に、彼はリュートをに対して、左方へ回りこむように駈け出し、その風の束をやり過ごした。


「やはり貴様、俺の魔法構築を見ているな。でなければ、あのタイミングで動き出すはずがない。だが、これならどうだ。ゲイル……ダブル!」

 リュートが両手に疾風の魔法を生み出すと、ユイの動きを見ながら、若干の時間差をつけて順に放つ。そして、魔法を放った瞬間、次の疾風魔法の準備を行い、魔法が構築される毎に、次々と解き放っていく。


「ばかな、学生の身で連続魔法構築ができる者がいるとは、しかも新入生だと!」

 その試合を観戦していた、ある魔法科の講師は、リュートの魔法の連射に思わず驚きの声を上げる。そしてそれは、この会場にいる多くのものにとっての、共通の驚きであった。しかし、そのような学生離れした間断ない疾風魔法の連続も、ユイは最小限の動きで次々と躱していった。


 生意気な新入生が、予選で卑怯な戦いをしたガリ勉にあっさりと勝つと思われていた第三試合。結果の見えた戦いに、やや試合前の観客席は盛り上がりに欠けていたが、前の二試合とは次元の違う戦いに、立場や学年に関係なく、多くの聴衆は応援活動に熱を帯び始める。そんな会場の熱気に後押しされるかのように、リュートは更に魔法の回転を上げると、さすがにユイも、風の魔法を躱すことだけに追われ始め、攻撃を仕掛けるための間合いに入ることができなくなっていった。

 しかしその状況で、本当に追い込まれていたのは、まったく攻撃に移ることのできないユイではなく、大量の魔力を消費しながらも、攻撃を一度も当てることができないリュートであった。


「ちょこまかと逃げるとは卑怯だぞ。いい加減、正々堂々と挑んでこい」

「はは、それは正々堂々って言わずに、無謀っていうんだよ。君の魔法は痛そうだから、あまり当たりたくはないんだ。もっとも君の風魔法は単調で直線的だから、躱す事はできるけどね」

「そうやって挑発して、更に俺に魔力を使わせる気か。ふん、その手には乗らんぞ。貴様は、俺の風魔法が直線的と言ったが、この魔法を躱してからほざいてみろ」

 リュートがユイに向かってそう宣言すると、急速にリュートの周囲を風の渦が覆い始める。


「さあ躱せるものなら、躱してみろ。トルネード!」

 リュートはほぼ全魔力をその魔法に込め、彼にとって最大の風魔法が解き放たれた瞬間、リュートの周りを覆い始めていた風の渦は、まさに竜巻となり始め、次第にその規模を拡大していく。そしてたちまちユイの目前まで、竜巻が広がった所で、ユイはこの試合で、始めて笑みを浮かべると、舞台にいたリュートだけが聞こえる程度の声で、彼が聞いたこともない呪文を口にする。


「マジックコードアクセス」

 ユイがその言葉を口にした瞬間、リュートは自分が放った竜巻の魔法構成が急に書き変わっていき、意図しないものとなっていくことに気づく。そしてみるみる間に、自らの魔法のコントロールが失われていくと、リュートは竜巻の中心で感じたことのない恐怖を覚え始めていた。そんな彼の耳に、黒髪の男の言葉が響いた。


「クラック!」

 ユイがその呪文が唱えた瞬間、リュートが放った竜巻が、急に地面の砂を勢い良く巻き上げ始めると、会場全体は砂煙によって包まれてしまい、観客席からは舞台が見れない状況となる。そして、自分の魔法が、得体のしれないものへと、書き換えられたことに、リュートは一瞬だけその場に呆けてしまう。しかしいつの間にか竜巻の渦の中に、自分以外の男がいることに気づくと、彼は怒りと不安と恐怖が混ぜ合わされた表情を浮かべ、条件反射的に魔法を編み上げた。


「ゲイル!」

 リュートがその魔法を作り上げた瞬間、ユイは竜巻の魔法制御から目の前のリュートへ意識を振り向ける。そして先程までの風魔法と比べ、明らかに速度の劣った風の疾風を、軽いステップで躱すと、そのままリュートに向かって一直線に走りだす。


「くそ、一体お前は何をした! ゲイル!」


 リュートは動揺のため、魔法に対して十分な集中を行うことができない。その上、ほぼ全ての魔力を使い果たしたことから、彼はもはや弱々しい風しか、操ることができなかった。ユイはその風の力を見て取ると、剣を体の前に構えながら、今までより一回り小さい疾風に向かって、正面から飛び込むと、その風を一気に突き破る。そして次の瞬間、ユイはリュートの眼前まで迫っていた。

 予期せぬ状況とユイの予想外の行動に焦ったリュートは、もはや魔法を編み上げる余裕もなく、手に持った剣をただまっすぐに、ユイに向かい突き出す。しかしその剣の軌道を予測したユイは、脇構えの状態から、自らの剣でリュートの剣の中腹を叩き上げると、彼の剣を彼方へと弾き飛ばした。


「うっ!」

 思わず、呻き声をあげるリュート相手に、ユイはさらに一歩踏み込み、低い姿勢から剣を持つ右手の肘で、リュートのみぞおちを突き上げる。その一撃が入った瞬間、リュートの体はくの字に折れ曲げられると、一瞬息が止まり、彼は動くことができずその場に硬直する。

 ユイはその隙を見逃すことなく、剣を持った右腕をリュートの首に巻きつかせると左手でリュートの右腕を掴み、首投げの要領で投げ落とした。


 そのまま全身を地面に叩きつけられたリュートは、思わず苦悶の表情を浮かべる。そしてユイは倒れたリュートの首筋に自らの剣を当てると、彼を制した。


「イスターツ、貴様一体何をした?」

「何って何のことかな?」

「とぼけるな! この俺の魔法が制御を失い、貴様を利するような形に働いた。あれは貴様の仕業だろう!」

 リュートは、一度も自らの魔法を暴走させたことがなく、彼の魔法が制御を離れることはありえないと考えていた。それ故、制御不能となった原因は、彼の眼の前にいる黒髪の男であると、ほぼ確信していた。そのリュートの問いに、目の前の黒髪の男は、頭を一度掻くと、苦笑いを浮かべながら、口を開く。


「リュート、君はこの戦いの前にした約束を覚えているかい?」

「約束? 貴様のバイトのことを話さないことだろう。それとこれとに何の関係がある?」

 リュートは、話をすり替えようとしていると感じ、わずかに苛立ちを覚えながら、先日の記憶を蘇らせると、そう返答した。しかし、ユイは二度首を左右に振ると、彼を諭すような口調で否定する。


「違うよ。あの約束をもう一度思い返してごらん。僕はこう言ったはずだ、『僕に関わる秘密を口にしないこと』ってね」

「貴様まさか……」

 リュートは、ユイの話す内容を理解すると、それ以上の言葉を見失う。そんな彼に、ユイは念押しを行った。


「約束は守ってもらうよ。つまりバイトのことも、僕の使った魔法もどきのこともね」

 リュートは、初めて見るユイの笑みを消した真剣な表情の圧力に、思わず頷いてしまう。その動きを確認したユイは、急にいつもの苦笑いを浮かべると、頭を掻きながらリュートに話しかけた。


「それでさ、ものは相談なんだけどね。さっき君が使った竜巻の魔法なんだけどさ、ちょっと弄ったらコントロールを失っちゃってさ。今、この竜巻の外側になる観客席の辺りは、たぶん制御を失った竜巻が荒れ狂っているはずなんだけど……何とかできないかな?」

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