表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
やる気なし英雄譚 外伝  作者: 津田彷徨
第0章 -キミノユウジンハ-

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

27/28

力量

 王都エルトブールの南にメインゲートとも言うべき、重厚な門が存在する。そこから一歩足を踏み出すと、そこには広大な大平原が広がっていた。


 既に夕刻とも呼んでもよい時間帯であり、普段でも行商人などの人影がまばらになる頃合いでもある。

 しかし今、この周囲に商人の姿は存在しなかった。

 ただ年の離れた二人の男が対峙し、その関係者とおぼしき者たちが近くに数名のみ存在するだけである。


「逃げずに良くここまで来たな、小僧」

 目の前に姿を現した銀髪の青年に向かい、テストを課す立場のジェナードは余裕の笑みを浮かべながらそう告げる。

 一方、リュートの方も負けじとばかりに、ニヤリとした笑みを浮かべながら、目の前の男に対し口を開いた。


「ほう……あなたか。過保護な馬鹿親というのは」

「な、なに、誰が過保護じゃ! わしほど子離れのできている立派な親は他におらんわ」

 リュートの発言を耳にしたジェナードは顔を真っ赤にすると、すぐさま反論を口にする。

 するとその反応を目にしたリュートは、僅かに右の口角を吊り上げた。



「ふん、その焦り様。図星を突かれた焦りというやつか……まああなたの事情など俺には関係ない。この俺を試そうなどと言った思い上がり、それを正してやるとしようか」

「思い上がりを正す……だと? よくそんなことが言えたものだな。聞くところによれば、貴様はあそこにいるだらしない黒髪に負けたそうではないか。そのような負け犬に、このわしの息子が教えられると考えられんのは当然じゃろう」

「ちっ、まったく弱い犬ほど良く吠えるものだ」

 先ほどまでの余裕はどこへやら自らの古傷に塩を塗りたくられたリュートは、表情筋をピクピク引きつらせながら睨みつけるような視線をジェナードへと放つ。


「……なんだと? 魔法科にジェナードありと呼ばれたこのわしを愚弄するつもりか」

「ほう、あなたも士官学校の出か。ならば、この俺を愚弄されるという事は、武術大会でもさぞや立派な成績を残されたのだろうな?」

「む……わ、わしの時はただ一人だけとんでもない化け物がおったのじゃ。その者さえおらねば、わしが優勝していたといっても過言ではない」

 リュートの予期せぬ切り返しに対し、ジェナードは険しい表情を浮かべると、強い口調で反論した。


「ふん、言い訳か。見苦しいな」

「うるさい! そう言う貴様こそ、一回戦負けであったのだろうが」

「ぬぅ! ユイの奴、よけいなことを」

 自らの成績まで暴露されていることを知ったリュートは、その怒りの視線をユイへと向ける。

 そうして突然怒りの矛先を向けられたユイは、困った表情を浮かべながら頭を掻いた。



「なんていうかさぁ、僕を巻き込むのはやめて欲しいなぁ……」

「先輩……なんか二人とも目が据わっているんだけど、本当にいいのかよ?」

 降り注がれる憎悪の視線を無視してあさっての方向へと顔を背けたユイに向かい、隣で状況を見つめていたエインスは心配そうな声でそう発言した。


「いや、二人ともあくまで模擬戦だとわかっているだろうし、さすがにだいじょ――」

「ファイヤーアロー!」「アイスアロー!」

 ユイが苦笑いを浮かべながら大丈夫と言いかけたタイミングで、突如その場には巨大な炎と氷の矢が生み出された。


「先輩……あれ親父全力で撃ってるぜ」

「リュートの方も、どうやら本気みたいだね。まったく、困ったものだよ」

「……先輩がそれを言うのかよ」

 この二人を戦わせることの一因となった張本人に向かいそう口にすると、エインスは呆れたような表情を浮かべながら大きな溜め息を吐き出す。


 一方、そんな風に外部の者達がやりとりを行っている間にも、二つの異なる魔法の矢はお互いから解き放たれ、そして二人の中間でぶつかり合い、音と水蒸気をまき散らしながら消滅していった。


「ほほう、最低限の腕には達しているようじゃな」

「あなたの方こそ、思ったよりはマシのようだ」

 久々に全力で戦える相手に遭遇したリュートは、ニヤリとした笑みを浮かべながらそう口にする。

 しかしそんな彼の表情は、ジェナードの怒りとやる気を掻き立てる効果しかもたらさなかった。


「ほざけ、ライトニング!」

「ほう、雷光魔法か。マッドウォール!」

 ジェナードの手元に稲妻が生み出され始めたことを目視したリュートは、すぐに防御呪文を唱えると、巨大な土の壁を編み上げる。

 そして仮に直撃すれば、少なくとも数日間は身動きが取れないであろうほどの巨大な稲妻を防ぎきった。


「なんと、わしの雷光魔法まで防ぎよるか。これはおもしろい!」

「やむを得んな。先ほどの失言を謝ろう、あなたはなかなかの使い手だ……ただ相手が悪かったな。ホワールウインド!」

「む、風の魔法か。ホワールウインド!」

 今度は逆にリュートが風魔法を編み上げようとするのを目にしたジェナードは、慌てて対抗するように風の魔法を編み上げると、迷うことなく解き放つ。


 そうしてお互いから放たれた風の束は、轟音とともに二人の間でぶつかり合った。


 リュートの魔法に対する自らの対応が完璧であったと確信したジェナードは、わずかに表情を緩める。

 しかし次の瞬間、彼の弛緩した表情は瞬く間に霧散することとなった。彼が解き放った風の束は、これまでの魔法のぶつかり合いと異なり、一方的にリュートの魔法によって飲み込まれ始めたのである。



「……貴様、風の魔法士か!」

 険しい表情でそう吐き出したジェナードは、自らの風魔法を飲み込む形で迫ってきた風の束を前にして、慌ててその場を駆け出し回避を試みる。

 しかし、あらかじめ心構えさえしていなかった事態故にその足取りはやや鈍く、魔法の一部が体に掠め彼は数度地面に転がる羽目となった。


「ほう、お年の割にはなかなかのご反応ですな。それと先ほどの回答ですが、別に俺は風だけを扱うわけではありませんよ。もっとも風魔法が得意な事は事実ではありますが。そう、例えばこんな風にね。トルネード!」

 右の口角を吊り上げながらその呪文を詠唱したリュートは、右腕を前方へと突き出すと、たちまち彼の前方に竜巻が形成されていく。

 そしてそれとともに、ジェナードの周囲はまるで暴風に包まれるかの如き様相を呈し始めた。


「むぅ、風の竜巻だと! ま、まずい、アイスボックス!」

 学生が扱うなどとはとても信じがたい高等魔法。

 それを目にした瞬間、対峙していたジェナードは思わず後ずさると、自らを守るために氷の壁を周囲に創出した。


「氷の壁……それも五面同時展開か。なるほど、確かにあなたは素晴らしい魔法士だ。だが、残念ながらこれであなたは身動きがとれなくなった」

 眼前で自身の周囲全面に氷の壁を展開した技能に対し、素直にリュートは感心する。だがしかし、彼はその二つの欠点をたちどころに把握した。


 一つ目の欠点は自身の周囲全面に壁を展開するため、身動きがとれなくなってしまうこと。そしてもう一つは、五面を同時に展開するが故に、一つ一つの壁が通常よりも薄くなってしまうことであった。


「な、なにをするつもりじゃ」

「ウインドブラスト!」

 思わぬリュートの発言に、ジェナードはその表情に動揺の色を隠せなかった。

 一方、リュートはニヤリとした笑みを浮かべると、空いた左手を前へとつきだし、新たな呪文を詠唱する。


「な、魔法の同時使用じゃと。しかもこれだけ大規模魔法の片手間とは――」

 ジェナードの言葉をも遮る勢いで、リュートの元から射出された風の弾丸。

 それは通常より薄い氷の壁を安々と突き破り、そしてそのままジェナードへと直撃した。




「先輩……あの人って、一体何者なんだよ?」

「ん? リュートのことかい? だから君を指導してくれる先生さ」

 トルネードの魔法に巻き込まれないよう、少し遠くへと避難していた二人は、遠巻きからそう口にしあう。


「いや、でもうちの親父を軽々と倒してしまうほどの人がさ、なんでただの学生なんかやってるんだ。というか、あの人に勝ったっていう先輩は何者なんだよ?」

「まあ僕とリュートの勝ち負けはともかく、君の親父さんを倒すのはとても軽々ではないさ」

 エインスの言葉に誤りがあると判断したユイは、すぐに彼に向かってその間違い正す。


「えっ……それはどういう意味で――」

 ユイの発言に首をひねり、エインスがその視線をリュートへと向けた瞬間、彼の視線の先の人物はその場に倒れ込んだ。


「魔力切れ……だね」

「そう、だよな。さすがにあれだけ派手な魔法を使えば魔力が空っぽにもなるよな」

 額の汗を拭いながら、エインスは自分に言い聞かせるようにそう述べる。


「多分問題は実際に使用した魔力ではなく、同調能力の問題だろうけどね。もともと同じ魔法なら、彼は以前から同時発動できていたみたいだし。異なる魔法を同時に、それもトルネードほどの巨大な魔法をその併用の一つに選ぶのはまだ無理があったんだろうね」

 エインスに向かってそう述べると、ユイはある一つの疑問がその脳裏に浮かび上がった。


 リュートが異なる魔法を同時に使用する必要性。


 そしてそれは直ちに一つの結論へと至った。おそらく、彼自信の切り札への対抗策として、リュートが編み上げた技術であるという結論に。


「やれやれ。もし次にリュートとまかり間違って戦うことがあれば、もっと苦労させられることになりそうだ。努力する天才は実にたちが悪いものだね、まったく」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ