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お宅訪問

 学者さんのご自宅までの道中、学者さんのこの世界の仕組みについて考察を色々と聞かせてもらう事になった。


 学者さんは今まで溜め込んでいたものを吐き出すかのように延々と語るに語った。

 相づちマシーンと化した僕は適度に質問を行うことで、学者さんのひとり言ではなく会話として成立させるミッションに成功した。


 しばらくして、とうとう学者さんのお宅に到着する。

 魂生(たませい)初、おそらく生前を含めても初の女性宅訪問!


 学者さんのお宅はなんというか、素敵なワンルームの一戸建ての――外見は質素なみすぼらしい掘っ立て小屋だった。

 そして中にはいると質素な寝床が直接地べたにひかれているのみ。

 しかし、居心地はとても良く感じた。

 なんかいい匂いがする(もう鼻は無い)というか、空気がうまい気がする。



「どうぞ、狭いところだけど。その辺に座って」


 学者さんはなにか準備してる。


 というか、座れないんですけど。

 気持ちは座ってみる。

 ただ浮いているだけだけど。


 "けっこう何もないお家なんですね。男らしいというか"


「そうだよね、ふふ。ここにきてすっかり物欲がなくってね」


「でも、この家凄くない? みんな石なのに、ボクは持ち家があるって」


 たしかにそうだ。

 いったいどうやって建てたのだろう。

 建材とかどうしたのかな。


「ん、どうやって建てたかだって? ここでは、欲しいものは大体念じれば出来るよ。ちょっとコツとか修行は必要だけど」


 なんだかわからないが、尊敬の眼差しで見ておこう。


 学者さんが何かを持ってきた。


「粗茶ですが」


 うわーっ、ちゃんとした急須(きゅうす)でお茶入れてくれたんすね。

 ほわーっ、茶柱が2本も立ってる!

 でも、自分ヒトダマなんすけど飲めますかね?


「ふふ。お茶を魂に取り込むような気持ちで見つめてみたらどうかな」


 湯気が立っている湯飲みに意識を傾けてみると、ずずっ、の、飲めた~!


 "お、美味しいです!"


「ふふっ、それは良かった」


 少し落ちついたところで、そこからはまた学者さんの考察発表タイムだ。


 ◆ ◇ ◆


 学者さんによる世界と魂の仕組みに関しての考察をまとめると、次のようなものだった。


 ――とはいえ、とても難しい内容で僕もほとんどチンプンカンプンだったので、興味のない人は読み飛ばして欲しい……。


(冥界とは)

 ・魂にとっての現実(リアル)世界。現世人にとっての死後の世界。

 ・転生後に前世の記憶を持ち込めても、冥界の記憶は持ち込めない。

 ・稀に転生後に転生直前または死後直後の記憶が限定的に持ち込めるパターンあり。

 ・おそらく、魂の成長に冥界の記憶が不要か邪魔となるからではないか。

 ・おそらく、冥界は複数存在する。

 ・元々、人か人に近いレベルに達した魂のみが次の転生に向けて準備を行う場所。それ以外の魂は別のルートで転生しているかリサイクルされていると考えられる。

 ・人以外の魂は前世で人間の魂との交流で成長した場合、冥界に来て転生するパターンが多い。その時、人間に生まれ変わる場合もある。


(現世とは)

 ・魂にとっての仮想(バーチャル)世界。現世人にとっての現実(リアル)世界。

 ・魂にとって存在しない「終わり」である「死」を体験することで成長する場。

 ・その他にも色々な事を経験出来る場。

 ・本来「バーチャル」な為、何でもありな世界。但し「不老不死」以外。

 ・現世は複数存在する事が確認されている。

 ・異世界転生も可能。


(冥界と現世の関係)

 ・単純な主従関係、上下関係とは言えないが、次元的に考えると冥界が上の次元にある。


(次元とは)

 ・冥界からは現世を感じ取れるがその逆はない。

 ・同じように冥界の上の次元世界があるのではないか。その次元世界からすると冥界がバーチャルな存在なのかもしれない。


(魂とは)

 ・魂は人間、またはそれ以外の存在として転生を繰り返している。

 ・物理世界である現世において、色々な経験をすることで魂としての成長をしている。

 ・魂は現世での経験をもってしか成長出来ないため、成長が十分でない魂は何度でも現世に転生する。

 ・成長の為に様々な事を現世で経験する事が魂にとっての本能である。

 ・魂とは高度のAIの様なものかもしれない。


(魂の成長とは)

 ・現世での経験を基にした変化。

 ・善悪どちらの経験・変化でも魂にとっては成長である。


(成長しきった魂はどうなる?)

 ・未確認だが、さらに上のステージがあると思われる。

 ・もしくは、高レベルの魂専用の冥界があるのか。

 ・もしくは、神のような存在に採取されるのか。

 ・なぜなら、ある一定以上の経験を持った魂が冥界に存在しない為。


(魂の誕生について)

 ・たとえば現世の人口増加が激しい時などに、人間の魂の数が足りないときに、新しく魂が産み出されている事があると考えられる。

 ・新しく魂が産み出される方法として、1、まったく新しい魂が作られる。2、前世が人間じゃない動物や植物などの生き物から作られる。3、稀に魂同士が結ばれて新たに生まれる事がある。


(未熟な魂とは)

 ・例えば生まれたての魂で「2、前世が人間じゃない動物や植物などの生き物から~」の場合、魂に人間性が無い、又は不足している場合がある。特に前世が昆虫だった場合には、残虐性が激しかったり人間に恨みを持っている場合がある。


(魂の廃棄とは)

 ・あまりにも魂が未熟な場合は、その魂は廃棄される事がある。この場合の魂の廃棄とは、リサイクルに回されるようなイメージである。つまり、人以外の魂のルートに戻す事である。

 ・廃棄の判定を行うのは(カルマ)の審判官である。

 ・善悪に関しては未熟とは関係ないため、善でも廃棄される事もあればものすごい悪でも廃棄されない場合がある。


(魂に性別はあるの)

 ・ある。ボクと君のように。

 ・魂の性別と現世の性別は違う場合がある。それは、魂として別の性別を経験してみたかったから、という場合が多い。

 ・拒否反応が起こる場合もある。君も知っての通り。


(魂に年齢はあるの)

 ・それは分からないが、年齢に似た尺度が3つある。

 ・1つ目は「経験」。魂は経験を積み重ねていくもの。経験豊富な魂には生前の年長者を敬うような気持ちになる。

 ・2つ目は「気持ち」。多くの魂は現世での10代の気持ちのようだ。ただし幼くしてなくなった魂や未熟な魂は、10代以下の精神性の場合がある。

 ・3つ目は「外見」。多くの魂が10代の外見な事がほとんど。ただし、幼児だったり老人の外見だったりする場合もある。


(魂の波長・相性とは)

 ・善悪の度合いや好き嫌いの嗜好によるものではないかと考えられるが、それらがまったく合わない場合にも波長が合う場合はある。

 ・説明が難しいが、魂のDNA的なものと言えばいいのか。

 ・魂の波長、相性が合うと、いっしょにいて心地よいし、お互いに興味を持って会話する事もある。

 ・波長の合う魂は、現世でも恋人になったり結婚したり、親子や友人関係になったりすることもある。


(神とは)

 ・まず、神の定義をしないといけない。


(3大宗教の神、その他の現世の神々)

 ・何とも言えない。自分で考えて。

 ・本当に高次元の存在かもしれないが、もし自分が高次元の存在なら「宗教なんかにうつつを抜かさずに色々と経験しなさい」と言いたい。


(この世界を作った存在を神とすると)

 ・未確認。

 ・何とも言えないが、もしかしたら高次元で日本の中学生のような存在が夏休みの宿題で高度な人工知能育成キットを実験してる……と考えるとロマンがある。


(すごい事ができる存在を神とすると)

 ・未確認。――とは言えない。力を持った存在がおおっぴらに現世を運営している場合も確認している。

 ・そういう存在により造られた現世世界がある事も確認されている。

 ・(カルマ)の審判後にそういう存在からスカウトされる場合もあるらしい。

 ・そういう存在がもと人間の魂だったかどうかはまだ確認されていない。


(カルマ)の審判とは)

 ・生前に何を経験していたのかを全て見れる場。

 ・(カルマ)の審判官と相談する場。


(カルマ)の審判官とは)

 ・魂の生殺与奪権を持っている。

 ・次の転生でどうするか、どういったところに生まれたいか、などの相談相手。

 ・現在の審判官は女性。



「――憶測が含まれている部分もあるから、そこら辺はご容赦してね」


 一生懸命に研究内容をしゃべりきった学者さん。

 その一生懸命さに僕は、なんというかとても愛おしいものを感じ始めていた……。


 ◆ ◇ ◆


「ボクの家には招待できたから、次は君の家にも行ってみようか」


 え、僕の家?


「さっきの出会った魂みたいに、落ち着ける石の上というかね。探しに行ってみよう」


 それはどうやって探すんですか?


「自分が休まる場所は、この平安広場に1ヵ所しかないんだ。ゆっくり、自分の魂に聞いてみたらいいよ」


 素直に言われた通り、自分自身に訊ねてみる。


 しばらくして、僕の感じた場所とは――。


 "2ヵ所あるみたいです"


「ええっ、なんだって、2ヵ所?」


 学者さんは結構驚いている。


 "はい"


「方角的にはどっちとどっちになるのかな? ここからどれくらい離れていそうだい」


 "ひとつは、こちらの方角です。もうひとつは、どこというか……この学者さんのお宅です"


 この僕の発言を聞いた途端、学者さんは両手で口許を抑え、大きな目をさらに大きくした。

 そして、真っ赤になって目をそらす。


「そ、それは……光栄だ」


 その学者さんの様子を見て僕はかなり小っ恥ずかしい事を口にしてしまったことに気づいた。

 そして僕の顔(もう無い)も真っ赤になった(ならない)。

 ヒトダマだからちょっと違いは分かりづらいと思うけど。





~~~

学者さんの考察蛇足編


(現世の人間を産み出した存在を神とすると)

 ・未確認。

 ・逆に聞くが人間を作った存在が人間と本質的に変わらない存在と仮定すると、それは神と呼んでいいのだろうか? それは比喩的な神ともはや変わらないのではないか。


(宗教について)

 ・ボクが宗教を興すなら魂の向上を目指す(=様々なことをひたすら経験する)宗教をはじめるね。ただ、冥界の記憶が現世に持ち込めないから、現世のボクはこんな宗教を創る動機がないよね。


(魂の修行がおわったらどうなるのか)

 ・未確認


(魂の修行が終わった後に良いことが待っているとは限らないのではないか)

 ・確かにそうだ。しかし、それは魂の本能であり存在理由だとすれば、修行に励むべきだとボクは思うんだ。泳がない魚、翔ばない鳥、走らない馬。ボクが何を伝えたいかわかるかい?


学者さん「話を聞いてくれてありがとう。キミは本当にいいやつだな(喜)」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 追記分読ませてもらいました。 納得の内容ですね。 出し惜しみしてもいい内容です。 もう一話書けるのではと思ってしまいます。 [気になる点] 修行を終えた魂がどうなるのか、どのような存在に…
[良い点] 学者さんの考察、大変興味深く読ませていただきました。 実に面白い。人が漠然と、「知っている」と思っていることがきっちり解説されていましたね。お疲れさまでした。 [気になる点] 誤字かも?ご…
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